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音楽に救われた少女の異世界サウンド・ハック ~誰もが天才と呼ぶけれど、私は平凡な子爵令嬢のつもりです~  作者: 音淵言葉


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14/22

奏者としてのプライド

「それでは、今から私が見本として、ピアノのパートを弾きますので、覚えてくださいね。

あ、弾く時の細かいところや、強弱の込め方はまたご相談ということで、一旦お聞きください。」

「あぁ。ありがとう。」


ノクチリカがピアノを顕現させて、その前に座って基本姿勢を取った。

彼女にしては珍しく、少し緊張したようなそぶりで、一呼吸置いた。


春の曲だと、先ほどノクチリカから聞いていたが、春とは、こんなに音が多いものだっただろうか。

彼女が演奏する音は、いつも音の響きに工夫をされていることが多い。

しかし、今回は俺への見本だからだろう、純粋に演奏だけに集中している。

彼女自身が書いた曲とは、信じられない技巧さ、そして難しさだ。



両手で細かく音を取っていく。

細かく細かく細かく、跳ねるように、ノクチリカは手を動かす。

この国で、こんなに細かく音を取って演奏する者はどれだけ居るんだろうか。


さらには、ノクチリカの魔力だ。

演奏に目が離せないでいると、彼女の演奏する音に乗った魔力から、春の山野が広がっていく。

魔力を音に込める技術が明らかに高い。

演奏と魔力操作を同時に繊細に動かすことは、かなりのハードルのはずだ。

それを感じさせない技巧のうまさは、おそらく同世代で卓越している。

私自身も、細かく操作すること自体は慣れているが……、ノクチリカは魔力を込めた音を、明確に意識して置いているように感じる。




二羽の小鳥が囀りながら、かなり速いスピードで飛び、お互いにちょっかいをかけ合っている。


咲いている花は穏やかな風に吹かれ、たんぽぽの綿毛が風にあおられて舞った。


高く、忙しなく細かく音が聞こえるのに、響きが優しく、強弱のおかげで穏やかにすら感じる。

春の、曲だ。


優しい一音で、ノクチリカの手が止まる。


「ふぅ。

リュクス様、如何でしたか――、リュクス様?」


微笑んでいる彼女が、いつになく遠く感じる。


音楽療法の授業では彼女の魔力を込めた演奏の上手さに圧倒され、この間の訪問時のノクチリカの芸の細かさに圧倒された。

しかし、今日のこれは、ピアノ演者としての表現力での、圧倒だ。

彼女と俺では、技術ではない壁があることを、実感させる音楽だった。


「リュクス様?

もしかして、お耳汚しでしたか?」


ノクチリカに声をかけられているのに、返事ができなかった。


彼女が弾いたこの一連の曲を、自分自身がこれと同じように、いや、これ以上に美しい春として弾けるイメージが出来ない。

俺自身の演奏技術だけではなく、春を親しみ、今まで受け取ってきた情報量の差が、おそらく出ている。


心配したノクチリカが、俺に近づいてきている。

動かなくては、と思うのに、圧倒されて言葉が出なかった。


「リュクス様?」


大丈夫だと、今の俺では言えない。

その事実が、俺とノクチリカの間にある溝だった。


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