春を呼ぶ曲
手元にバイオリンを喚び寄せる。
飴色の美しい木目のバイオリンはしなやかに弦が張り、綺麗に音が響く。
リュクスも手元に立派なグランドピアノを喚び寄せた。
そのピアノはクリスタルでできているかのように、美しく透き通っている。
鍵盤を押せば、中のハンマーが叩く様が見える、破綻のない美しいピアノだ。
「リュクス様のピアノは美しいです。見た目も優雅で、やはり披露することを意識してらっしゃるのね。」
「ノクチリカ嬢も、楽器というものに忠実だな。性格が表れてるようで面白いね。」
「ふふ、そうですわね。私自身、中身が伴ってるものが好きですから。」
そこで言葉を区切り、楽譜を指差す。
「これ、実はバイオリン合奏として書いた曲ですの。お兄様と合奏するために幼い頃に書いたもので……、なので、今回、バイオリン合奏をピアノとバイオリンの合奏として書き換えています。
なので、何か弾きにくい箇所があれば教えていただきたいわ、まだ完璧とは言い難いから。」
真剣な顔で楽譜を見つめていたリュクスが顔を上げる。
「書いたのか?ノクチリカ嬢が?」
「?
ええ。書きました。弾きたい曲が無かったので。」
「それは、随分と……アグレッシブな幼少期を過ごしているんだね。これを幼い君が……、レベルの高さ的に、信じられないくらいだ。」
「褒めても、楽譜しか出ませんわよ!」
そこで、バイオリンは近くの机に置いて、少しリュクスから離れてもう一度魔力を練る。
手元に呼び寄せるはグランドピアノだ。
美しい黒と白だけで構成されたピアノを前に、椅子に軽く腰をかける。
「それでは、今から私が見本として、ピアノのパートを弾きますので、覚えてくださいね。
あ、弾く時の細かいところや、強弱の込め方はまたご相談ということで、一旦お聞きください。」
「あぁ。ありがとう、」
一呼吸、置く。
この曲は春の陽気を思わせる明るい音で構成されている。
小鳥の囀りを思わせる細かく刻まれた音と、高く響く音、そして、わかりやすく付けられた強弱。
この曲は強弱のおかげで、穏やかさ、急く必要のない陽気さが表現され、春たらしてめている。
両手が忙しなく動く。
指が攣りそうなほどに細かく細かく細かく細かく!テンポよく、一音も逃さずに!小鳥の囀りや花のせせらぎを全て音に乗せる!
そして今度は春の威厳感じさせる音の深さ、まるで2人で歩いていくようにテンポの強弱をはっきり付けて合わせていく。
最後は綺麗に、優しく最後の一音を丁寧に出して――この曲は終わった。
「ふぅ。
リュクス様、如何でしたか――、リュクス様?」
いつに無く、色を無くして佇む男がそこに立っていた。




