第七十九話 千五百年越しの約束
本日2話目の投稿です。
石碑に浮かび上がった八つ目の紋様は、静かな鼓動を刻むように淡く明滅を繰り返していた。その光は七つの紋様とはどこか異なり、見る者の心へ直接語りかけるような不思議な温もりを宿している。祈りの間を包んでいた神聖な空気はさらに澄み渡り、先ほどまで激しく戦っていたことが遠い出来事のように思えた。
「こんな紋章……見たことがありません」
巫女はゆっくりと首を振る。
「白猫族に代々伝わる記録にも、この印は残されていないはずです」
長老も石碑へ歩み寄り、静かに紋様へ手を伸ばす。しかし指先が触れる寸前、紋様は水面のように揺らぎ、柔らかな光となってレオンの前へ流れてきた。
「僕に……?」
レオンが思わず呟く。
白銀の番人はその様子を静かに見守り、小さく喉を鳴らした。隣に立つもう一体の守護獣も穏やかな瞳でレオンを見つめ、ゆっくりと頷く。その仕草には迷いがなく、まるで二体とも同じ答えへ辿り着いているようだった。
すると紋様から一筋の光が伸び、レオンの胸元へそっと触れる。
温かい。
春の日差しのような優しい温もりが全身へ広がった瞬間、レオンの脳裏へ無数の光景が流れ込んでくる。
雪に閉ざされた山々。
白銀の毛並みをなびかせながら駆ける守護獣たち。
笑顔で寄り添う白猫族の人々。
そして――空を覆い尽くす黒い瘴気。
「っ……!」
レオンは思わず息を呑む。
それは誰かの記憶だった。遠い昔、この地で本当に起きた出来事が、映像となって心へ流れ込んでくる。
「レオン!」
ミアが慌てて駆け寄る。
「大丈夫?」
「ああ……大丈夫。でも……」
レオンは石碑から目を離せない。
「この石碑は、僕に何かを見せようとしてる」
巫女と長老は顔を見合わせ、小さく頷いた。
「封印は、あなたを認めたのでしょう」
長老が穏やかな声で言う。
「猫王としてではありません。この時代を生きる、一人の継承者として」
その言葉を聞いたライは腕を組みながら笑う。
「へっ、さすがレオンだな!」
「最初からそうなると思ってた!」
アカネも嬉しそうに尻尾を振る。
一方でクロは石碑を見つめたまま、小さく呟いた。
「……来る」
その一言に、その場の空気が変わる。
石碑の奥から、新たな光が静かに溢れ始めていた。
それは先ほどまでの優しい輝きとは違う。
誰かが長い眠りから目を覚まそうとしているような、確かな気配だった。
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