第七十六話 救うべきもの
本日2話目の投稿です。
揺らいでいた紅い瞳が、ゆっくりとレオンへ向けられる。
その瞳に宿る憎しみは薄れ、代わりに苦しみと戸惑いが滲んでいた。全身を覆っていた瘴気も勢いを失い、黒い影は頭を押さえながら苦しげに唸る。まるで身体を支配する何かへ必死に抗っているようだった。
「やっぱり……」
ミアは胸を押さえながら一歩前へ出る。
「この子、助けてって言ってる」
レオンは静かに頷いた。
「ああ。もう分かった。僕たちが倒すのは、この子じゃない」
その言葉に巫女は静かに目を閉じる。
「あなたなら、そう答えへ辿り着くと思っていました」
その瞬間だった。
黒い影の胸から禍々しい黒い結晶がゆっくりと姿を現す。心臓のように鼓動を繰り返し、そのたびに黒い瘴気が影の身体へ流れ込んでいく。苦しみの原因は誰の目にも明らかだった。
「……あれだ」
クロが短く告げる。
「へっ! 分かりやすくて助かるぜ!」
ライが雷をまとい、一気に飛び出した。轟く雷撃が黒い結晶を守る瘴気へ叩きつけられ、その壁を大きく揺らす。続いてアカネが炎をまとい、燃え盛る蹴りで瘴気を吹き飛ばした。
「今だよ!」
影が揺らいだ一瞬を逃さず、クロが足元の影から飛び出す。鋭い爪が結晶を覆う最後の闇を切り裂き、黒い結晶が完全に姿を現した。
「レオン!」
仲間たちの声が重なる。
レオンは迷わず駆け出した。
白銀の番人も並ぶように石碑の前へ立ち、氷の理を解放する。石碑から溢れる白銀の光が剣を包み込み、祈りの間全体へ優しい輝きが広がった。
「もう終わりにしよう」
レオンは剣を真っ直ぐ突き出す。
狙うのは黒い影ではない。
その胸に宿る、闇だけだった。
白銀の光をまとった剣が黒い結晶を貫く。
乾いた音が響き、結晶は大きく亀裂を走らせた。
「ギャアアアアァァァッ!」
耳をつんざく悲鳴とともに結晶は砕け散り、黒い瘴気が天井へ向かって一気に噴き上がる。闇は悲鳴を上げながら霧となって消えていき、祈りの間を覆っていた重苦しい空気は嘘のように晴れていった。
黒い影は力なく膝をつく。
全身を覆っていた闇が静かに剥がれ落ち、その奥から淡い白銀の光が姿を現し始めた。
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