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神獣使いではなく猫使いです  作者: 猫屋敷 春人
第五章 白銀の大地

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第七十四話 黒き影

本日3話目の投稿です。

宙へ舞い上がった黒い結晶は、不気味な音を立てながら一つへ集まっていく。瘴気は渦を巻き、人の輪郭だけを残した黒い影を静かに形作り始めた。その姿には顔も表情もない。ただ二つの紅い光だけが闇の中で妖しく揺れ、祈りの間を冷たい静寂が包み込む。誰もが本能的に、その存在へ目を奪われていた。


「人……?」


ミアが小さく呟く。


巫女は静かに首を横へ振る。


「違います。あれは意思ではありません。封印の奥に眠る存在が、自らの力だけで作り出した器です」


黒い影はゆっくりと腕を持ち上げる。その動きに合わせるように、祈りの間へ散らばっていた黒い結晶が一斉に浮かび上がった。無数の結晶は黒い槍となり、音もなくレオンたちへ狙いを定める。


「気を付けて!」


レオンの声と同時に、黒い槍が雨のように降り注いだ。


ライは雷をまとった巨体で真正面から受け止め、降り注ぐ槍を次々と打ち砕く。砕けた結晶は稲妻に飲み込まれ、眩い光となって消えていく。しかし後方へ流れた槍までは防ぎ切れず、なおも仲間たちへ襲い掛かっていた。


「……任せろ」


クロの姿が影へ沈む。


次の瞬間、黒い槍の影から巨大な影神猫が現れた。鋭い爪が幾筋もの軌跡を描き、降り注ぐ槍を次々と切り裂いていく。その一撃は槍だけではなく、槍同士を繋いでいた瘴気までも断ち切り、黒い雨は力を失って地面へ崩れ落ちた。


「よっしゃ!」


アカネは神炎をまとった尾を大きく振り抜く。


渦を巻く炎は黒い影を包み込み、灼熱の熱波が祈りの間を駆け抜けた。赤黒い瘴気は燃え上がり、影の身体は一瞬だけ大きく揺らぐ。しかし炎が晴れると、その姿はなお石碑の前へ立ち続けていた。


「そんな……」


ミアは驚きを隠せない。


「効いてないの……?」


巫女は黒い影を見つめたまま、小さく息を吐く。


「理だけでは届きません。あれは封印そのものへ繋がっています」


その言葉を聞いた瞬間、レオンの視線は自然と石碑へ向いた。


砕いても再生する。


倒しても終わらない。


その理由は最初から目の前にあった。


「石碑が……」


レオンは静かに呟く。


「石碑との繋がりを断たない限り、あの影は何度でも戻ってくるんだね」


巫女はゆっくりと頷く。


「はい。それができるのは、この場にいる誰かだけです」


その言葉とともに、巫女の視線は静かにレオンへ向けられた。


同じ頃、誰にも気付かれないまま、フェリスは石碑を見つめ続けていた。


その琥珀色の瞳が、ほんの一瞬だけ淡く輝く。


まるで石碑の奥から聞こえる誰かの声へ、静かに応えるように。


閲覧ありがとうございました。誤字脱字などありましたらご報告の程お願いします。

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