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神獣使いではなく猫使いです  作者: 猫屋敷 春人
第五章 白銀の大地

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第七十三話 静かなる違和感

本日2話目の投稿です。

石碑の亀裂から姿を現した黒い爪は、ゆっくりと空を裂くように動いた。その一振りだけで祈りの間を満たしていた瘴気が渦を巻き、氷色の結界へ重くのしかかる。砕けることはない。それでも結界は悲鳴を上げるように軋み、白銀の番人は苦しげに低く唸った。封印の限界は確実に近付いていた。


「まだ……出てくるの」


ミアは思わず息を呑む。


巫女は石碑から目を離さない。


「封印は、奥に眠る存在のほんの一部しか抑えられていません。あれは、その力の欠片にすぎないのです」


その言葉に、祈りの間の空気はさらに重く沈んだ。


白銀の番人は再び前脚を踏み込み、氷の理を結界へ送り続ける。ライは正面で黒い爪の動きを抑え、クロは影から死角を狙い続ける。アカネの神炎は押し寄せる瘴気を焼き払い、ミアの生命の光は白銀の番人を優しく包み込んでいた。


その時だった。


フェリスがゆっくりと石碑へ歩き出す。


「フェリス?」


レオンが声を掛ける。


しかしフェリスは返事をしない。ただ静かに亀裂を見つめ、その場で足を止めた。いつも穏やかな瞳は石碑の奥だけを映し、何かを確かめるように微かに揺れている。


巫女はその姿を見た瞬間、わずかに目を見開いた。


「……まさか」


小さく漏れたその声は、誰の耳にも届かないほど微かなものだった。


「どうかしたんですか?」


レオンが尋ねても、巫女は静かに首を横へ振る。


「いいえ……今は戦いに集中してください」


それ以上は何も語らなかった。


次の瞬間、黒い爪が大きく振り下ろされる。


轟音とともに氷の結界が激しく揺れ、祈りの間の床へ深い亀裂が走った。吹き荒れる瘴気にレオンたちは思わず身構えるが、白銀の番人は一歩も退かず、力強い遠吠えを響かせる。その声に応えるように、ライの雷が一層激しく輝き、クロの姿は完全に影へ溶け込んだ。


「……上」


クロの短い声が響く。


ライは迷うことなく天井近くまで跳び上がり、雷をまとった拳を黒い爪へ叩き込む。ほぼ同時に、影から現れたクロの鋭い爪が黒い爪の付け根を深く切り裂いた。そこへアカネの神炎が渦を巻くように重なり、三つの理が一つとなって黒い爪を包み込む。


激しい爆音が祈りの間を震わせる。


黒い爪はひび割れ、その表面から無数の黒い結晶が砕け散った。


しかし――。


砕けた結晶は消えることなく宙へ浮かび、一つ、また一つと集まり始める。


やがて、それらは人の形を思わせる黒い影をゆっくりと形作っていった。


閲覧ありがとうございました。誤字脱字などありましたらご報告の程お願いします。

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