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神獣使いではなく猫使いです  作者: 猫屋敷 春人
第五章 白銀の大地

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第六十九話 影神猫の爪

本日1話目の投稿です。

石碑の亀裂から溢れ出した闇は、まるで生き物のように祈りの間を這い始めた。床を覆う黒い紋様は白銀の結界へ食らいつき、光と闇が激しくぶつかり合う。その衝撃で石碑はさらに軋み、空気は重苦しい瘴気に満たされていく。白銀の番人は苦しげに唸りながらも、その場を決して離れようとはしなかった。


「まだ増えてる……」


ミアが石碑を見つめる。


「ライだけじゃ抑えきれない……」


雷神猫となったライは次々と迫る黒い腕を打ち砕く。しかし砕けた瘴気はすぐに集まり、新たな腕となって襲い掛かってくる。いくら力で押し返しても終わりが見えず、祈りの間は再び闇へ呑み込まれようとしていた。


「……数が多すぎる」


クロは静かに呟く。


その瞬間、黒い影がクロの足元からゆっくりと広がった。影は波紋のように揺れながら全身を包み込み、漆黒の毛並みはさらに深い闇へ溶け込んでいく。金色の瞳だけが静かに輝き、その身体は一回り、また一回りと大きくなっていった。


やがて影が晴れる。


そこにいたのは、夜そのものを纏ったような巨大な影神猫だった。漆黒の毛並みは光さえ吸い込み、鋭く伸びた爪はわずかに動くだけで空間を切り裂くような気配を放っている。姿ははっきりと見えているはずなのに、次の瞬間には視界から消えてしまいそうな不思議な存在感があった。


「クロ……」


レオンは静かにその姿を見つめる。


クロは小さく頷くと、ゆっくりと前脚を踏み出した。


次の瞬間、その姿は完全に消えた。


「えっ……?」


ミアが目を見開く。


黒い腕が一斉に宙を薙ぐ。しかし、そのどれもが空を切るだけだった。次の瞬間には石碑の上、さらに次の瞬間には巨獣の背後へと影が走る。どこにいるのか誰にも捉えられず、闇の中では金色の瞳だけが一瞬ずつ浮かんでは消えていく。


乾いた音が響いた。


黒い腕が一本、また一本と根元から切り裂かれ、瘴気となって崩れ落ちる。続いて巨獣の全身を覆っていた黒い結晶にも鋭い爪が走り、砕けた結晶は再生する間もなく白銀の光へ浄化されていった。


「……今だ」


短い声が祈りの間へ響く。


「分かった!」


レオンは迷うことなく頷いた。


ライは雷鳴を轟かせながら正面から巨獣を押さえ込み、クロは死角から瘴気だけを切り裂いていく。力で押し切る雷と、闇を断つ影。その二つの理が重なった瞬間、巨獣を包んでいた黒い瘴気は大きく揺らぎ始めた。


巫女はその光景を見つめ、静かに目を細める。


「雷と影……二つの理が共鳴しています」


その言葉と同時に、石碑の亀裂の奥から赤黒い光が脈打つ。


まるで二柱の神猫を敵と認めたかのように、封印の奥に潜む存在は、ゆっくりとその禍々しい気配を膨れ上がらせていった。


閲覧ありがとうございました。誤字脱字などありましたらご報告の程お願いします。

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