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神獣使いではなく猫使いです  作者: 猫屋敷 春人
第五章 白銀の大地

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第六十六話 石碑の奥から響く声

本日1話目の投稿です。

祈りの間へ響いた低い笑い声は、生き物のものとは思えないほど冷たく、不気味だった。その声が耳へ届いた瞬間、白銀の光はわずかに揺らぎ、押し返していた瘴気が再び勢いを取り戻していく。祈りの間の壁や床へ刻まれた古代文字まで赤黒く染まり始め、まるで建物そのものが侵食されていくようだった。レオンは剣を握る手へ力を込めながら、石碑の奥を見つめる。


「この声は……」


巫女は険しい表情のまま静かに答えた。


「まだ目覚めてはいません。それでも、その意志だけがここまで届いています」


「意志だけで、こんな力なの……?」


ミアの声には隠しきれない震えが混じる。


巫女は小さく頷いた。


「だからこそ、この場所で止めなければなりません」


その時、白銀の番人が前脚を強く踏み込んだ。白銀の光が足元から波紋のように広がり、巨獣へ絡みついていた黒い瘴気を押し返していく。苦しげに暴れていた巨獣も、その光に包まれるたび動きが鈍り、紅い瞳にはわずかな理性が戻り始めていた。


「……まだ助けられる」


レオンは巨獣を見つめ、小さく呟く。


その言葉に応えるように、ミアはそっと両手を重ねた。淡い緑色の光は先ほどよりも優しく、そして力強く広がっていく。祈りの間へ咲いた白い花々はさらに数を増やし、黒い雪に覆われていた床から小さな若葉が顔を覗かせた。生命の温もりが少しずつ、この場所へ戻り始めていた。


しかし、その穏やかな空気は一瞬で打ち砕かれる。


石碑の奥から伸びた一本の黒い腕が、白銀の番人へ向かって勢いよく襲い掛かった。鋭い爪が空気を切り裂き、番人は身をひねって避けるものの、その肩口をわずかに掠める。純白だった毛並みへ黒い瘴気が染み込み、番人は苦しそうに低く唸った。


「番人!」


レオンは思わず一歩踏み出す。


「……右」


クロの声が響いた次の瞬間、影の中から飛び出した鋭い爪が黒い腕を切り裂いた。続けざまにライが雷をまとった拳で叩きつけ、黒い腕は轟音とともに砕け散る。逃さずアカネが炎をまとった蹴りを放ち、砕けた瘴気ごと焼き払った。


「これで終わり!」


炎が激しく燃え上がる。しかし黒い煙は消えることなく石碑の奥へ吸い込まれ、再び不気味な笑い声だけが祈りの間へ響いた。


『まだ足りぬ』


その一言だけで空気が凍り付く。


巫女は石碑を見据えたまま、静かに目を閉じる。


「とうとう……こちらを認識しましたか」


石碑の表面へ、これまで存在しなかった一本の大きな亀裂がゆっくりと走り始めた。


閲覧ありがとうございました。誤字脱字などありましたらご報告の程お願いします。

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