第六十五話 命が紡ぐ光
本日3話目の投稿です。
祈りの間へ満ち始めた柔らかな光は、冷え切っていた空気を少しずつ溶かしていく。ミアの両手から溢れる淡い緑色の輝きは、まるで春風のように白銀の番人を包み込み、その身体を流れる白銀の光と静かに重なり合った。荒れ狂っていた瘴気はわずかに揺らぎ、黒い結晶から漏れ出る禍々しい気配も少しずつ弱まっていく。レオンはその光景を見つめながら、小さく息を呑んだ。
「……ミア」
ミアはゆっくりと頷く。
「うん……この子、まだ苦しんでる」
その言葉に白銀の番人は低く喉を鳴らした。まるで応えるように黄金色の瞳を細めると、全身を包む白銀の輝きはさらに強くなっていく。巨獣も苦しげに咆哮を響かせるが、その声には先ほどまでの荒々しさではなく、どこか悲しみが滲んでいた。
「怨念が暴れてるだけなんだ……」
レオンは巨獣から目を離さない。
「本当は、この子も苦しいんだね」
巫女は静かに微笑んだ。
「あなたは、やはり猫王なのですね」
レオンは驚いたように巫女を見る。
「え……?」
「普通の人なら、あの姿を見て倒すことだけを考えます。ですが、あなたは違いました。苦しんでいる命を見つめ、その心へ寄り添おうとしている。それこそが猫王の在り方なのです」
その言葉を聞いた瞬間、レオンは仲間たちへ視線を向ける。ライは巨獣の動きを止めるように正面で踏ん張り、アカネは再生する結晶を砕き続けている。姿の見えないクロも影の中を駆け、巨獣が動くたびに鋭い爪で死角から揺さぶりをかけていた。誰一人、自分のために戦ってはいない。その姿が胸の奥を温かくした。
「みんな」
レオンは静かに剣を握り直す。
「もう少しだけ力を貸して」
「へっ」
ライは口元に笑みを浮かべる。
「そんなの決まってるだろ」
「よっしゃ!」
アカネは炎をまとったまま大きく跳び上がる。
「最後まで付き合うよ!」
「……任せろ」
クロの短い声が影の中から返ってきた。
その瞬間、白銀の番人が大きく天を仰ぎ、澄み切った遠吠えを響かせる。祈りの間へ広がった白銀の波紋はミアの光と重なり合い、黒い瘴気を少しずつ押し返していく。巨獣の全身を覆っていた黒い結晶は次々とひび割れ、その奥から眩い白銀の毛並みがわずかに姿を現し始めた。
しかし次の瞬間、石碑の奥深くから今までとは比べものにならないほど濃密な瘴気が噴き上がる。その禍々しい気配に触れた祈りの間は再び激しく震え、ひび割れた黒い結晶が一斉に赤黒く脈打ち始めた。
巫女の穏やかな表情が、初めて曇る。
「いけません……間に合わない」
その言葉と同時に、石碑の最奥から低く重い笑い声が静かに響いた。
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