第六十四話 守護の理
本日2話目の投稿です。
白銀の光は静かに祈りの間を包み込み、黒い瘴気を押し返すように広がっていく。荒れ狂っていた空気はわずかに穏やかさを取り戻し、巨獣の身体を覆う黒い結晶が軋むような音を立て始めた。紅く染まっていた瞳は激しく揺れ、その奥で何かが抗うように明滅する。レオンはその変化を見逃さず、白銀の番人へ視線を向けた。
「番人が……押さえ込んでるの?」
巫女は静かに頷く。
「守護の理が、あの怨念を縛っています。しかし、それも長くは保ちません」
白銀の番人は巨獣の前で低く唸り、その場から一歩も退こうとはしない。純白の光は番人の身体から絶え間なく溢れ出し、巨獣へと降り注いでいく。そのたびに黒い結晶はひび割れるが、瘴気はすぐに傷口を埋めるように蠢き、何度も再生を繰り返していた。
「このままじゃ押し切られちゃう!」
レオンが叫ぶ。
「何か方法はないんですか!」
「あります」
巫女は真っ直ぐミアを見つめた。
「その子の力です」
突然向けられた視線に、ミアは驚いて肩を震わせる。
「わ、私ですか……?」
「あなたが持つ生命と共鳴する力は、怨念とは正反対の力です。本来なら傷ついた命へ寄り添うためのものですが、その優しさは穢れを鎮めることもできます」
ミアは自分の両手を見つめる。旅の途中、枯れた花が元気を取り戻したこともあった。傷ついた仲間へ手を伸ばくと、不思議と痛みが和らいだこともある。だが、それが自分の力だと考えたことは一度もなかった。
「でも……私、どうすれば……」
「大丈夫です」
巫女は優しく微笑む。
「あなたは今まで通り、大切な命を救いたいと願うだけでいいのです」
その言葉を聞いた瞬間、ミアの胸の奥で温かな鼓動が響いた。両手から淡い緑色の光が溢れ始め、祈りの間へ優しい風が吹き抜ける。祭壇の周りに残っていた小さな草花は一斉に花を咲かせ、冷え切っていた空気が少しずつ柔らかさを取り戻していった。
「これが……私の力……」
その光に触れた白銀の番人は静かに目を細め、小さく喉を鳴らした。次の瞬間、番人を包む白銀の輝きはさらに強さを増し、巨獣を縛る光の輪が一気に広がる。巨獣は苦しげな咆哮を響かせると、全身の黒い結晶が次々とひび割れ始めた。
「今!」
レオンは剣を構える。
「みんな、一気にいくよ!」
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