第五十九話 禁忌の山脈
本日3話目の投稿です。58話の修正前と修正後のものが混ざって59話として投稿されてしまっていました。申し訳ありません。
黒い光が立ち上る山頂を見つめながら、一行は白銀の番人の後を歩き続けていた。番人が踏みしめた雪だけは白い輝きを失わず、まるで道しるべのように禁忌の山脈へ続いている。周囲を覆う黒い雪は少しずつ濃くなり、冷たい風が吹くたび黒い結晶同士が触れ合って、不気味な音色を響かせた。それでも番人は迷うことなく、一歩ずつ前へ進んでいく。
「ここまで来ると、空気まで違うね」
ミアが小さく呟く。
フェリスは静かに周囲を見渡した。
「黒い雪だけではありません。この辺りは理そのものが乱れています」
「理が乱れるって、そんなことあるのか?」
ライが首を傾げる。
フェリスは少し考えるように目を伏せた。
「本来なら、あってはいけません」
「だからこそ、この地は禁忌と呼ばれているのでしょう」
レオンは山頂へ続く黒い光を見つめる。災厄の核で見た光景が頭をよぎり、胸の奥が静かにざわめいた。あの時ユウが守ろうとしたものが、この先にあるのかもしれない。そう思うと自然と歩幅が大きくなった。
その時だった。
先頭を歩いていた白銀の番人が足を止める。
低く喉を鳴らしながら、雪に覆われた崖の先を見つめていた。
「どうしたの?」
ミアが声を掛ける。
番人は振り返ることなく、静かに前脚を一歩踏み出した。
次の瞬間、吹雪の向こうから幾つもの白い影が姿を現す。
「誰かいる!」
アカネが身構える。
白い影は雪煙をかき分けながら近づいてくる。その正体は純白の毛並みを持つ猫人族だった。誰もが槍や弓を手にしていたが、その視線はレオンたちではなく白銀の番人へ釘付けになっている。
「番人様……?」
一人の若い猫人族が震える声を漏らした。
「本当に……番人様だ……」
その言葉を合図にするように、全員が一斉に武器を下ろす。
驚きと喜びが入り混じった表情のまま、番人の前へ膝をついた。
「お帰りなさいませ……!」
白銀の番人は静かに喉を鳴らす。
その穏やかな声を聞いた瞬間、何人もの白猫族が目に涙を浮かべた。
「戻ってきてくださった……」
「黒い雪に呑まれたと聞いて、もう二度と……」
誰かが言葉を詰まらせる。
レオンたちは互いに顔を見合わせた。
この番人は白猫族にとって、ただ強い守護獣ではない。
家族のように、大切な存在なのだ。
やがて人垣の奥から、一人の老人がゆっくりと姿を現した。
純白の長い毛並みと深い皺を刻んだその表情には、長い年月を生きてきた者だけが持つ穏やかさが宿っている。白銀の番人は老人の姿を見ると静かに歩み寄り、その前でゆっくりと頭を下げた。
老人は震える手で番人の額へ触れる。
「……よく戻ってきてくれた」
優しく語り掛けるその声に、番人は安心したように目を細め、小さく喉を鳴らした。
老人はゆっくりとレオンたちへ向き直る。
「旅の方々」
深く頭を下げる。
「白銀の番人を救ってくださり、本当にありがとうございました」
レオンは慌てて首を横へ振る。
「僕たちだけの力じゃありません」
「番人が諦めなかったから、助けることができたんです」
老人は静かに微笑んだ。
「その言葉だけで十分です」
そして北の山頂を見つめ、穏やかな表情を引き締める。
「ですが、喜んでいる時間は残されておりません」
「どういうことですか?」
ユキが尋ねる。
老人は遠くで渦巻く黒い雲を見つめながら、小さく息を吐いた。
「山の封印が、限界を迎えようとしています」
その言葉と同時に。
――ゴォォォォン。
山全体を揺るがすような轟音が響き渡った。
黒い光はさらに天高く噴き上がり、白銀の番人は全身の毛を逆立てながら低く唸る。
老人は静かに目を閉じ、小さく呟いた。
「……もう時間がないか」
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