第五十八話 命が示す道
本日2話目の投稿です。初めて1日で300PVついててかなり本気で困惑。緊張してしまう。
白銀の番人は振り返ることなく歩き続けていた。
大きな足跡が真っ白な雪原へ一直線に刻まれていく。その足跡だけは不思議と黒い雪に覆われることはなく、淡い光を宿したまま北の山脈へ続いていた。レオンたちは顔を見合わせ、小さく頷き合う。
「行こうか」
その一言で、再び旅が動き始めた。
番人の後ろ姿は大きく、それでいてどこか穏やかだった。先ほどまで狂気に支配されていたとは思えないほど静かな足取りで、時折こちらを気にするように耳を動かしている。
「ずいぶん大人しくなったな」
ライが肩をすくめる。
「さっきまで本気で殴り合ってたんだけどな」
「ライが楽しかっただっただけだろ」
アカネが笑う。
「違ぇよ」
「絶対楽しかった!」
「だから違うって!」
二匹のやり取りに、張り詰めていた空気が少しだけ和らぐ。
クロはそんな二匹を横目で見ながら、小さく息を吐いた。
「……うるさい」
短い一言だった。
「クロ!」
アカネが頬を膨らませる。
「たまには笑えばいいのに!」
「今笑ってる」
「どこが!?」
思わず全員が笑う。
クロは本当に少しだけ口元を緩めていた。
その光景を見たユキも、小さく微笑む。
「皆さん、本当に仲が良いんですね」
「旅をしてると、自然とそうなるんだ」
レオンが照れくさそうに答える。
番人はその声を聞いたのか、小さく喉を鳴らした。
まるで安心したような優しい音だった。
しばらく歩くと、雪景色が少しずつ変わり始める。
白銀だった木々は黒い雪に覆われ、枝先には氷ではなく黒い結晶が実るように付着していた。冷たい風が吹くたび結晶同士がぶつかり、不気味な音色を森へ響かせる。
「ここから先は侵食が強いようですね」
フェリスは結晶を見つめながら呟く。
「番人がいなければ、私たちも黒狼と同じようになっていたかもしれません」
レオンは静かに番人を見る。
その背中は今も黙って皆を守るように前を歩いていた。
その時、ミアが足を止める。
「……また」
小さく呟き、雪へしゃがみ込む。
黒い雪の下には、小さな若木が埋もれていた。葉は黒く染まり、今にも枯れてしまいそうだったが、ミアはそっとその幹へ触れる。
「まだ頑張ってる」
誰へ言うでもなく呟く。
すると若木の枝先が、ほんの少しだけ揺れた。
「まただ」
ユキが目を見開く。
今度は見間違いではない。
風は吹いていない。
それでも若木は、まるでミアへ応えるように小さく枝を震わせていた。
フェリスも静かに近付く。
その様子を観察しながら、雪へ膝をついた。
「魔力は感じません」
「ですが……生命の反応だけが強くなっています」
「やっぱり私なんですか?」
ミアは戸惑いを隠せない。
フェリスは首を横へ振った。
「まだ分かりません」
「ですが一つだけ言えることがあります」
フェリスは若木を見つめたまま続ける。
「あなたは命に選ばれています」
その言葉に、ミアは何も返せなかった。
胸の奥が温かい。
懐かしいような、不思議な感覚だけが静かに広がっていく。
その時だった。
先頭を歩いていた番人が立ち止まる。
大きく空を見上げ、低く唸り声を上げた。
全員が顔を上げる。
北の山脈。
その頂上付近で、黒い雲がゆっくりと渦を巻いていた。
雲の中心からは、一本の黒い光が天へ向かって伸びている。
「……あれが」
ユキは震える声で呟く。
「黒い雪の源です」
誰も言葉を発さなかった。
ただ、白銀の番人だけが静かに一歩を踏み出す。
その背中は、もう迷ってはいなかった。
レオンは剣の柄を握る。
ここから先が、本当の戦いなのだと全員が理解していた。
閲覧ありがとうございました。誤字脱字などありましたらご報告の程お願いします。




