第五十七話 白銀の足跡
本日1話目の投稿です。なんか体調不良から復活してアクセス数見たら急にPVが増えててビビりました。これからもよろしくお願いします。
「命と共鳴する力です」
フェリスの言葉に、その場の空気が静かに止まった。
ミアは自分の両手を見つめる。
温かな光はもう消えていた。雪原へ咲いた白い花も、風に揺れながら静かにその姿を保っている。まるで最初からそこに咲いていたかのようだった。
「私が……ですか?」
震える声だった。
フェリスはゆっくりと頷く。
「まだ確証はありません。ですが、黒い雪を浄化したのではなく、命そのものへ呼び掛けたように見えました」
「そんなこと……私には」
ミアは困ったように首を振る。
「昔から花や動物が好きだっただけです」
「それで十分だよ」
レオンは優しく笑う。
「ミアだからできたことなんだと思う」
その言葉に、ミアは少しだけ照れたように微笑んだ。
その時だった。
雪原へ横たわっていた白銀の番人が、小さく身体を震わせる。
全員が一斉に身構えた。
ライは前へ出て拳を握り、クロは音もなく番人の横へ回り込む。アカネも炎を灯しながら飛び出そうとしたが、番人の瞳を見た瞬間、そっと拳を下ろした。
「……違う」
クロが短く呟く。
番人の瞳はもう赤くない。
澄み切った青い光が静かに揺れ、その眼差しには先ほどまでの狂気は欠片も残っていなかった。
番人はゆっくりと立ち上がる。
巨大な身体を震わせるたび、黒い雪がさらさらと毛並みから落ちていく。純白の毛は朝日に照らされ、まるで雪そのものが命を宿したような美しさだった。
そして番人は、ゆっくりとミアの前まで歩いてくる。
ライは警戒を解かない。
「王」
「うん。でも……」
レオンは番人を見つめる。
不思議と恐怖はなかった。
番人はミアの前で静かに膝を折る。
巨大な頭をゆっくりと下げ、その額を雪へ付けた。
「えっ……」
ミアは目を丸くする。
恐る恐る手を伸ばすと、番人は逃げることなく、その手を受け入れた。
温かい。
見た目とは違い、その毛並みには優しい温もりが残っていた。
「ありがとう……」
ミアが小さく呟く。
番人は静かに目を閉じる。
その姿を見たユキは、涙を浮かべながら口元を押さえた。
「この子がお礼を言うなんて……」
「知ってるの?」
レオンが尋ねる。
ユキは何度も頷いた。
「白銀の番人は、代々この地を守ってきた守護獣です。誰にも頭を下げたことはありません」
その言葉に、一同は番人を見つめる。
番人はミアの手へ頬を寄せ、小さく喉を鳴らした。
巨大な身体とは思えないほど穏やかな仕草だった。
「可愛いじゃねぇか」
ライが笑う。
「さっきまで殴り合ってた相手だけどな」
「お前も結構楽しそうだったぞ」
アカネが笑う。
「へへ、ばれたか!」
そのやり取りに、重苦しかった空気が少しだけ和らぐ。
しかしフェリスだけは、番人の身体をじっと見つめていた。
「……結晶は消えました」
静かな声だった。
「ですが、黒い魔力は完全には消えていません」
「どういうこと?」
レオンが問い返す。
フェリスは北の山脈へ視線を向ける。
冷たい風が吹き抜け、遠くの雪山には黒い雲が静かに渦を巻いていた。
「あの黒い結晶は原因ではありません」
フェリスはゆっくりと言葉を続ける。
「原因から流れ出た力が、この番人を蝕んでいたのです」
「つまり……」
レオンも山を見つめる。
「あの先に、本当の原因がある」
その時だった。
白銀の番人が立ち上がる。
そして何かを決意したように北へ向かって歩き始めた。
数歩進むと振り返り、レオンたちを静かに見つめる。
「……来いってことか」
ライが笑う。
「案内してくれるみてぇだな」
レオンは仲間たちを見回した。
全員が静かに頷く。
番人の足跡だけが、白銀の雪原へまっすぐ続いていた。
その先には、誰も足を踏み入れたことのない禁忌の山脈が静かに待ち受けていた。
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