第五十五話 白銀の番人
本日3話目の投稿です。
「あれは……『白銀の番人』」
ユキの震える声が雪原へ響く。
森の奥から現れた巨体は、ゆっくりと雪を踏み締めながら姿を現した。白銀だったはずの毛並みは黒い雪に汚れ、全身には黒い結晶が幾つも突き刺さっている。その瞳から優しさは消え、深紅の光だけが静かに揺れていた。
「守護獣か……」
レオンは剣を握り直す。
巨大な身体から放たれる圧力は、今までの黒狼とは比べものにならない。それでも番人の姿には、どこか痛みに耐えているような悲しさが残っていた。
「……倒さない」
クロが静かに言う。
「助ける」
短い言葉だった。
だが、その一言だけで全員の気持ちは一つになる。
「うん」
レオンは力強く頷いた。
「みんな、あの黒い結晶だけを狙う!」
番人が咆哮を上げる。
その衝撃だけで積もった雪が一斉に舞い上がり、白い景色がかき消された。次の瞬間、巨大な前足が振り下ろされ、雪原を砕きながらレオンたちへ迫る。
「王!」
ライが飛び出す。
全身へ雷を纏い、真正面から巨大な前足へ拳を叩き込む。雷鳴が轟き、激しい衝撃が雪原を揺らした。前足は止まったが、ライの身体も数歩押し戻される。
「重てぇな!」
それでも口元には笑みが浮かんでいた。
「なら……燃えてきた!」
「行くぞ!」
アカネが炎を纏って駆け出す。
一直線ではない。
右へ。
左へ。
雪煙を利用しながら番人の周囲を高速で駆け回る。その動きに番人の視線が揺れ、一瞬だけ体勢が崩れた。
「今!」
レオンの声が飛ぶ。
クロの姿が消える。
次の瞬間には番人の肩へ飛び乗り、黒い結晶へ鋭い爪を叩き込んだ。甲高い音が響き、小さな亀裂が走る。
「効いた!」
アカネが嬉しそうに叫ぶ。
そのまま炎を纏った拳を振り抜き、亀裂の入った結晶へ追撃を叩き込む。結晶はさらに砕け、黒い霧がわずかに漏れ出した。
番人が苦しそうに叫ぶ。
その声は怒りではない。
助けを求めているようだった。
「やっぱり!」
ユキは胸を押さえる。
「あの子はまだ……!」
「生きてる!」
レオンも叫ぶ。
「絶対に助ける!」
その時、番人の身体から黒い霧が噴き出した。
霧は蛇のようにうねりながらレオンたちへ襲い掛かる。
「下がれ!」
ライが雷を放つ。
しかし黒い霧は雷をすり抜け、なおも迫ってくる。
「普通の攻撃じゃ止まらねぇ!」
ライが歯を食いしばる。
フェリスは霧を見つめ、素早く状況を分析していた。
「あれは実体ではありません!」
「魔力そのものです!」
「結晶を壊さない限り、霧は消えません!」
その声を聞いたレオンは大きく頷く。
「なら狙うのは一つだ!」
全員が再び番人を見据える。
その後ろでは、ミアが苦しそうに番人を見つめていた。
黒い霧に包まれた番人から、かすかな温もりを感じる。
苦しい。
助けて。
そんな声が、心の奥へ直接届いてくるようだった。
「……大丈夫」
ミアは小さく呟く。
「きっと助けるから」
その言葉に応えるように、足元へ咲いていた白い花が静かに揺れる。
誰も気付かない。
ただ一人。
フェリスだけが、その小さな光を見逃さなかった。
「やはり……」
その瞳に浮かぶ驚きは、もう確信へ変わり始めていた。
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