第五十四話 雪原に咲く希望
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再び、ユキただ一人だった。
小さく開いた白い花を見つめ、思わず息を呑む。
見間違いではない。
黒い雪に覆われていた蕾が、確かに命を取り戻した。その奇跡を知る者は自分しかいない。ユキは胸の鼓動を抑えながら、そっとミアの横顔を見つめた。
その時だった。
ガルルルルッ!!
森の奥から黒狼たちが一斉に飛び出す。
雪煙を巻き上げながら迫る群れは、先ほどよりも数が多い。その赤い瞳には理性はなく、黒い雪に侵された獣特有の狂気だけが宿っていた。
「王!」
ライが叫ぶ。
「正面は俺が止める!」
青白い雷が弾ける。
ライは一直線に黒狼の群れへ飛び込み、その拳を地面へ叩き付けた。轟音とともに雷が雪原を駆け抜け、先頭を走っていた黒狼たちが一斉によろめく。
「クロ!」
レオンの声と同時に、黒い影が動いた。
クロは雪煙へ紛れ、一瞬で敵の背後へ回り込む。鋭い爪が閃くたび、黒狼たちの足元だけを正確に切り裂き、動きを封じていく。その姿は風より静かで、雪よりも気配がなかった。
「今だ!」
レオンが叫ぶ。
「任せろ!」
アカネは嬉しそうに笑い、炎を纏って駆け出した。
雪を蹴るたび炎が弾け、小さな火の粉が白銀の森へ散っていく。そのまま黒狼の間を縫うように駆け抜け、鋭い蹴りを次々と叩き込んだ。
「一匹!」
炎の回し蹴り。
「二匹!」
続けざまの猫パンチ。
「三匹!」
最後は身体をひねりながら飛び蹴りを放ち、黒狼をまとめて吹き飛ばす。
「やった!」
嬉しそうに拳を突き上げた次の瞬間、雪へ足を取られる。
「うわっ!」
転びかけた身体をライが支える。
「だから最後まで気を抜くなって!」
「ごめん! でも全部倒したぞ!」
「半分な!」
二匹のやり取りに、レオンも思わず笑みを浮かべた。
しかし、その笑顔はすぐに消える。
森の奥から、さらに重い足音が響いた。
ドン……。
ドン……。
雪が震える。
黒狼ではない。
もっと巨大な何かが、ゆっくりとこちらへ近付いてきていた。
「来る」
クロが低く呟く。
全員の視線が森の奥へ集まる。
その時、ミアの足元で揺れていた白い花が、ふわりと淡い光を放った。
誰も気付かないほど小さな光。
けれど、その光へ触れた黒い雪だけが静かに溶けていく。
「……やっぱり」
ユキは小さく呟く。
胸へ手を当て、静かに目を閉じる。
遠い昔。
シラユキから聞いた、一つの伝承。
『命を慈しむ者が現れた時、大地は再び息吹を取り戻す』
その言葉が、今になって胸の奥で静かに蘇っていた。
一方、少し離れた場所ではフェリスがしゃがみ込み、溶けた雪を指先ですくい上げていた。
黒い魔力は確かに弱まっている。
しかも、それは浄化の魔力とは違う。
もっと穏やかで、温かく、生命そのものを感じさせる不思議な力だった。
フェリスは誰にも聞こえないほど小さく呟く。
「……まさか」
その瞳は驚きに揺れていた。
そして森の奥から姿を現した巨大な影が、白銀の大地へ咆哮を轟かせる。
その姿を見たユキの表情が、一瞬で青ざめた。
「そんな……」
震える声が雪原へ消えていく。
「あれは……『白銀の番人』」
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