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神獣使いではなく猫使いです  作者: 猫屋敷 春人
第五章 白銀の大地

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第五十三話 白き花

本日1話目の投稿です。

ユキだけが静かに目を見開いていた。


その表情を見たレオンは、小さく首を傾げる。


「ユキ?」


呼び掛けられたユキは、はっと我に返る。


「い、いえ……気のせいかもしれません」


そう答えながらも、視線は黒く染まった草から離れなかった。ほんの一瞬だけ、あの草が息を吹き返したように見えた。しかし、それを確信するにはあまりにも短い出来事だった。


「先へ進みましょう」


フェリスが静かに言う。


全員が頷き、再び北へ向かって歩き始める。雪を踏み締める音だけが森へ響き、黒い雪は少しずつその量を増していった。


しばらく進むと、クロが突然立ち止まる。


耳をぴくりと動かし、雪原の奥をじっと見つめていた。その瞳は鋭く細められ、全身から無駄な力がすっと消えていく。


「……いる」


短い声だった。


その瞬間、クロの姿が雪景色から消える。


「クロ!」


レオンが声を上げた時には、もう姿は見えなかった。


静まり返った森。


次の瞬間だった。


ガァァァァッ!!


黒い雪を巻き上げ、一体の黒狼が茂みから飛び出す。


しかし、その喉元には黒い影が張り付いていた。


「遅い」


クロの低い声が響く。


一閃。


黒狼の身体が大きく揺れ、そのまま雪の上へ叩き付けられる。


「今だ!」


ライが叫ぶ。


全身へ青白い雷を纏い、一気に駆け抜ける。雷光は一直線に雪原を裂き、黒狼へ激突した。轟音とともに雪煙が舞い、黒狼は大きく吹き飛ばされる。


「まだ終わってねぇ!」


アカネが笑う。


炎を纏った身体が雪を蹴り、一瞬で宙へ舞い上がる。そのまま回転しながら飛び蹴りを叩き込み、吹き飛んだ黒狼をさらに奥の岩へ弾き飛ばした。


「やった!」


勢いよく着地した瞬間、足元の雪が崩れる。


「あっ!」


そのまま転びそうになったアカネを、ライが尻尾で引っ張り戻した。


「危ねぇな!」


「えへへ、助かった!」


「調子に乗るな!」


「ごめんごめん!」


そのやり取りに、緊張していた空気が少しだけ和らぐ。


しかしクロだけは黒狼を見つめたまま動かなかった。


「……違う」


低く呟く。


「まだいる」


その言葉と同時に、森の奥から低い唸り声が響く。


一体。


二体。


三体。


黒い雪の向こうから、次々と赤い瞳が浮かび上がる。


「囲まれたか」


ライが低く笑う。


「へっ……面白ぇ」


雷が弾ける。


アカネも拳へ炎を灯し、大きく笑った。


「今度は転ばないぞ!」


「そこじゃねぇだろ」


ライが思わず突っ込む。


レオンも剣を構え、一歩前へ出た。


その時だった。


背後から、小さな風が吹く。


誰も気付かないほど穏やかな風だった。


その風はミアの足元を優しく撫で、黒い雪へ埋もれていた小さな花の蕾を揺らす。


ミアはふと足を止めた。


「……頑張って」


自然と、その言葉が零れる。


誰へ向けたものなのか、自分でも分からなかった。


ただ、そう願わずにはいられなかった。


次の瞬間。


固く閉じていた白い蕾が、ほんのわずかに開く。


雪の中で咲いた、小さな一輪の花。


それは吹き抜ける風へ揺れながら、静かに命の色を取り戻していた。


その奇跡に気付いたのは――。


再び、ユキただ一人だった。


閲覧ありがとうございました。誤字脱字などありましたらご報告の程お願いします。

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