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神獣使いではなく猫使いです  作者: 猫屋敷 春人
第五章 白銀の大地

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第四十七話 白銀の道

本日1話目の投稿です。

雪原を吹き抜ける風は、先ほどまでよりも少しだけ穏やかになっていた。


黒い獣との戦いが終わり、張り詰めていた空気もゆっくりと静けさを取り戻していく。枝に積もった雪は風に揺られながらさらさらと舞い落ち、差し込んだ陽射しを受けて淡く輝いていた。レオンは剣を鞘へ納めると、大きく息を吐き、白く染まった森をゆっくりと見渡した。


「終わった……のかな」


「少なくとも、この辺りは静かになりました」


フェリスが周囲へ視線を巡らせる。


耳を澄ませても、先ほどまで森を満たしていた不気味な唸り声は聞こえない。黒い霧もすっかり薄れ、凍り付いていた木々には少しずつ本来の色が戻り始めていた。それでもフェリスの表情は崩れず、まだどこか遠くを警戒しているようだった。


「へっ、あんなのが何匹いても負ける気はしねぇけどな」


ライがレオンの肩で大きく伸びをする。


巨大な神猫だった姿はすでに消え、いつもの猫の姿へ戻っている。その仕草は気楽そのものだったが、金色の瞳だけは北の空から一度も逸れていなかった。


「さっきまであんなに大きかったのに、戻るとやっぱり小さいな」


アカネが笑う。


「なんだと?」


「いや、事実じゃん」


「大きさなんて関係ねぇ! 強さだ!」


「はいはい」


アカネは楽しそうに笑いながら肩をすくめる。


そんな二匹のやり取りを見て、ミアも思わず口元を緩めた。戦いが終わったばかりだというのに、いつもと変わらない空気が戻ってくる。その何気ない時間が、レオンにはどこか心地よく感じられた。


「……ユキ様」


かすれた声が響く。


全員が振り向くと、雪の上へ横たわっていたミルがゆっくりと上半身を起こしていた。白い外套にはいくつもの裂け目が残り、黒い雪に汚れた跡もまだ消えていない。それでも意識ははっきりしているようで、ユキの姿を見つけると安心したように微笑んだ。


「ミル!」


ユキはすぐに駆け寄り、その体を支える。


「無理をしてはいけません。まだ傷が……」


「大丈夫です」


ミルは弱々しく首を振った。


「皆さんが助けてくれたんですよね」


レオンたちは顔を見合わせ、小さく笑う。


「助けたのはみんなだよ」


レオンがそう答えると、ミルは少しだけ目を丸くした。


「猫王様……」


「レオンでいいよ」


その言葉に、ミルは少し戸惑ったようにユキを見る。ユキも小さく笑い、「そういうお方なんです」と優しく頷いた。そのやり取りにアカネは「レオンらしいな」と吹き出し、ライも「王は昔からそういうやつだ」と満足そうに笑った。


しばらく歩くと、森の景色が少しずつ変わり始める。


背の高かった木々はまばらになり、視界の先には広く開けた白い大地が見え始めていた。雪は森の中よりも深く積もり、風が吹くたび粉雪が細かく舞い上がる。その向こうには白銀色の山々が連なり、まるで世界そのものが雪で包まれているようだった。


「……きれい」


ミアが思わず立ち止まる。


言葉を失うほどの景色だった。


どこまでも続く白い雪原。


澄み切った青空。


静かに輝く雪山。


黒い雪の異変が起きているとは思えないほど、美しく穏やかな景色が目の前へ広がっていた。


「ここが……」


レオンはゆっくりと息を吸う。


「白銀の大地」


ユキは静かに頷いた。


その横顔には懐かしさと寂しさが入り混じっている。


「本当なら、もっと綺麗なんです」


ユキは遠くの雪原を見つめる。


「冬になると、ここ一面が光る花で埋め尽くされます。夜になると雪が星空を映して、空と地面の境目が分からなくなるくらい綺麗なんです」


その声は穏やかだった。


故郷を語るユキの表情には、先ほどまでの不安とは違う優しい笑みが浮かんでいる。レオンはその笑顔を見ながら、必ずこの景色を取り戻そうと心の中で静かに誓った。


その時だった。


クロの耳がぴくりと動く。


歩みを止めたクロは、雪原のさらに奥をじっと見つめていた。


「……誰かいる」


短い一言に、一行の空気が変わる。


ライもすぐに立ち上がり、北の方角へ鋭い視線を向ける。


「俺も感じる」


風に乗って運ばれてくる気配は一つではない。


雪煙の向こうで、複数の人影がゆっくりとこちらへ近付いてくる。


レオンは剣の柄へ手を添えた。


敵か、それとも――。


白銀の世界はまだ何も答えず、静かな風だけが雪原を吹き抜けていた。


閲覧ありがとうございました。割と勢いでストックをためて書いたので誤字脱字などありましたらご報告の程お願いします。

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