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神獣使いではなく猫使いです  作者: 猫屋敷 春人
第五章 白銀の大地

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第四十六話 黒き核

本日3話目の投稿です。

書き方を少し変えてみました。なんか固くなっちまった気がしますねぇ。後々気に入らなかったら修正します。


仲間たちの想いを宿した剣が、白銀の光を放っていた。


黒い霧が雪原を覆っている。その向こうで、ライと黒い獣が真正面からぶつかり合っていた。黄金の雷が雪を照らし、黒い霧がその光を飲み込もうと渦を巻く。レオンは剣を握り直し、胸元で猫王の紋章が強く脈打つのを感じた。


『行くぞ、王!』


ライが雪原を蹴った。


雷神猫の巨体が一直線に黒い獣へ突っ込む。黄金の雷が四肢から弾け、踏み込むたびに雪煙が高く舞い上がった。黒い獣は牙を剥き、全身から黒い霧を噴き上げながら迎え撃つ。その瞬間、雷と闇が雪原の中央で激しく衝突した。


轟音が森を揺らす。


ライの前足が黒い獣の牙を受け止め、衝撃で周囲の雪が吹き飛んだ。枝に積もっていた雪が一斉に落ち、白い霧のように視界を包む。それでもライは一歩も引かない。黄金の瞳には、王の前に立つ者は誰であろうと通さないという強い意志が宿っていた。


『へっ! その程度か!』


ライは牙を見せて笑う。


黒い獣は低く唸り、足元から黒い霧を這わせた。霧は蛇のように雪の上を進み、ライの足へ絡み付こうとする。触れた雪は灰色に染まり、草木は音もなく凍り付いた。その冷たさは、ただの氷ではなく命そのものを奪うものだった。


「今です」


フェリスの声が静かに響いた。


その一言だけで、仲間たちは同時に動いた。クロは雪を滑るように駆け、黒い獣の背後へ回り込む。ミアは胸の前で両手を重ね、淡い浄化の光を紡ぎ始めた。アカネはミアの肩から勢いよく飛び降り、雪を蹴って獣の視線を引き付ける。


「こっちだ! のろま!」


アカネの声に、黒い獣の目がわずかに動いた。


その隙をクロは逃さない。黒い影のように低く駆け、獣の後ろ脚へ鋭い爪を走らせた。獣の体勢が崩れ、胸元に埋まった黒い結晶が雪煙の隙間から覗く。レオンの胸で、猫王の紋章が強く脈打った。


「見えた……!」


レオンは剣を構える。


黒い結晶は、まるで心臓のように脈打っていた。傷付いた獣の体へ黒い霧を送り込み、無理やり動かしている。あれを壊さなければ、この戦いは終わらない。レオンはそう直感し、剣へ宿る白銀の光をさらに強めた。


「白き加護よ……どうか、皆さんをお守りください」


ユキの祈りが雪原へ広がった。


足元の雪が淡く輝き、一行の周囲へ白銀の光が流れていく。冷たかった空気が少しだけ和らぎ、黒い霧に触れかけていた草木にも小さな光が灯った。ユキは震える手を胸の前で重ねたまま、祈りを止めなかった。その横顔には、故郷を守りたいという願いがはっきりと浮かんでいた。


黒い獣が咆哮する。


全身から噴き出した黒い霧が、一気にレオンたちへ襲い掛かった。ミアの浄化の光が前へ広がり、黒い霧を受け止める。白い光と黒い霧が空中でせめぎ合い、雪原に細かな火花のような光が散った。ミアの表情には苦しさが滲んでいたが、その足は一歩も下がらなかった。


「無理はしないでください!」


レオンが声を上げる。


「大丈夫です。レオンさんは、前を見てください」


ミアは優しく笑った。


その笑顔に、レオンは胸の奥が熱くなるのを感じた。誰か一人が戦っているわけではない。ライも、ミアも、クロも、アカネも、フェリスも、ユキも、それぞれの場所で道を繋いでいる。猫王の力とは、一人で敵を倒す力ではなく、仲間の想いを一つにする力なのだと、レオンはようやく理解し始めていた。


「やはり、これは災厄そのものではありません」


フェリスは黒い霧を見つめたまま言った。


「似ていますが、性質が違います。何者かが災厄の残滓を利用し、別の形へ変えているように見えます」


その言葉に、ユキの顔色が変わる。


白銀の大地を覆う黒い雪は、ただ自然に広がったものではない。誰かの意思がある。誰かが災厄の名残を使い、雪と命を汚している。レオンはその事実を胸の奥で受け止めながら、黒い結晶を真っ直ぐ見据えた。


『王! もう一度開けるぞ!』


ライの声が響く。


雷神猫は黒い獣を真正面から押し返した。黄金の雷が爆ぜ、黒い霧を一瞬だけ吹き飛ばす。クロが背後から再び足を払うと、獣の体勢が大きく崩れた。その胸元で、黒い結晶がむき出しになる。


「今だ、レオン!」


アカネが叫ぶ。


その声には迷いがなかった。乱暴で、真っ直ぐで、考えるより先に心が動くアカネらしい声だった。レオンはその声に背中を押されるように、一歩前へ踏み出す。雪が足元で軋み、剣の光が一段と強くなった。


「みんな、力を貸して」


レオンの声は静かだった。


けれど、その言葉に仲間たちは迷わず応えた。ライの雷が剣へ走り、ミアの浄化が白銀の輝きを包む。クロの鋭い気配が道を開き、フェリスの魔力が黒い霧の流れを見極める。アカネの真っ直ぐな勇気と、ユキの祈りもまた、温かな光となって剣へ集まっていった。


レオンは雪を蹴った。


黒い霧が視界を塞ごうとする。だが、剣から放たれる白銀の光がその闇を切り開いた。黒い獣は最後の抵抗のように牙を剥き、結晶を守るために霧を集める。そこへライの雷が真横から叩き込まれ、黒い霧を大きく弾き飛ばした。


『行けぇぇぇっ! 王!』


ライの咆哮が背中を押す。


レオンは大きく踏み込んだ。雪煙の向こうで、黒い結晶が不気味に脈打っている。そこへ向かって、白銀の剣を真っ直ぐ振り抜いた。剣先は黒い結晶の中心へ届き、甲高い音を響かせながら深く食い込んだ。


黒い結晶に亀裂が走る。


その隙間から黒い霧が溢れ出し、悲鳴のような音を上げた。レオンは歯を食いしばり、剣をさらに押し込む。仲間たちの光が剣を通して流れ込み、亀裂は一気に広がっていった。やがて黒い結晶は耐えきれなくなったように震え、雪原の上で黒い光を散らしながら砕け散った。


黒い獣が苦しげに咆哮する。


その声は怒りではなかった。長い間閉じ込められていた何かが、ようやく解き放たれるような悲鳴だった。体を覆っていた黒い毛並みは雪へ溶けるように崩れ、灰色だった瞳はゆっくりと琥珀色を取り戻していく。大きな体は力を失い、白銀の雪の上へ静かに横たわった。


「元に……戻ったのか?」


アカネが息を呑む。


そこにいたのは、もう黒い獣ではなかった。傷付いた一匹の白銀の狼が、静かにレオンを見つめている。その琥珀色の瞳には凶暴さはなく、長い苦しみから解放されたような穏やかな光だけが宿っていた。狼はゆっくりと頭を下げ、一度だけ尻尾を揺らした。


それは、礼を伝えるような仕草だった。


次の瞬間、白銀の狼の体が雪の粒へ変わっていく。細かな光は風に乗り、森の奥へ静かに舞い上がった。レオンはその光を見上げたまま、しばらく動けなかった。戦いは終わったはずなのに、胸の奥にはまだ小さな痛みが残っていた。


森に静寂が戻り始める。


降り続いていた雪は勢いを弱め、厚い雲の切れ間から柔らかな陽射しが差し込んだ。灰色へ染まりかけていた雪も少しずつ白さを取り戻し、張り詰めていた冷気はわずかな温もりへ変わっていく。けれど、レオンの胸元の紋章だけは、まだ小さく脈打ち続けていた。


「助かった……ってことでいいんだよな?」


アカネが周囲を見回す。


その場にいた誰もが、戦いの終わりを感じていた。ライの体を包んでいた雷も少しずつ穏やかになり、ミアは深く息を吐く。ユキは胸元に手を当て、涙を堪えるように目を閉じていた。けれど、その静けさの中で、フェリスだけが黒い結晶の砕けた場所へ歩いていく。


「まだ終わっていません」


フェリスの声は低かった。


雪の上には、砕けた黒い結晶の欠片が散らばっていた。ほとんどは光を失い、ただの黒い石のように沈黙している。だがその中心に、親指ほどの欠片だけが残っていた。その欠片だけは、まだ小さく脈打っていた。


「触らないでください」


フェリスの一言に、全員が動きを止める。


黒い欠片は雪の中で不気味な光を放っていた。周囲の雪は再び灰色へ染まり、細い黒い霧が立ち上っていく。ライは神猫の姿のまま低く唸り、クロは静かに身を低くした。レオンも剣を握り直し、ユキは青ざめた顔でその欠片を見つめていた。


その時だった。


黒い欠片の奥から、低く濁った声が響いた。


『……まだ、足りない』


一瞬で空気が凍り付く。


声はすぐに消えた。だが、その一言だけで十分だった。黒い雪の異変は、この一匹の獣だけで終わるものではない。欠片の奥には意思があり、その意思は今も白銀の大地のどこかで静かに動き続けている。


ライの雷光が低く唸る。


『へっ……黒幕がいるってわけか。上等だ、王。そいつもまとめてぶっ飛ばそうぜ』


レオンは黒い欠片を見つめたまま、静かに頷いた。


雪原に戻りかけていた温もりは、再び冷たい緊張へ変わっていく。それでも、もう迷いはなかった。白銀の大地で待つ本当の戦いは、まだ始まったばかりなのだ。


閲覧ありがとうございました。誤字脱字などありましたらご報告の程お願いします。

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