第四十五話 雷神の咆哮
本日2話目の投稿です。
『行くぞ、王!』
ライの咆哮が雪の森を震わせた。
巨大な神猫の全身を走る雷光は、白銀の世界を昼間のように照らし出している。黄金色の稲妻は毛並みを駆け巡り、一歩踏み出すたびに雪が弾け飛んだ。その圧倒的な存在感に、黒い雪を纏った獣は低く唸りながら身構え、灰色の瞳をぎらりと光らせる。
レオンは剣を握り直した。
胸元で猫王の紋章が脈打つたび、温かな力が腕へ流れ込んでくる。それは力任せに体を強くするものではない。頭の中が澄み渡り、敵の動きや仲間の位置が自然と見えるようになる、不思議な感覚だった。
『感じるだろ、王!』
ライが笑う。
『それが猫王の力だ! 一人で戦う力じゃねぇ! 仲間を繋ぐ力だ!』
その言葉が終わるより早く、黒い獣が地面を蹴った。
雪煙を巻き上げながら一直線に突っ込んでくる。巨大な爪が振り下ろされる瞬間、ライは真正面から迎え撃った。
雷鳴が轟く。
黄金の前足と黒い爪がぶつかり合い、衝撃で周囲の雪が一気に吹き飛ぶ。木々に積もっていた雪まで崩れ落ち、白い霧のように舞い上がった。押し合う二つの巨体から放たれる力だけで、地面は大きくひび割れていく。
『力は悪くねぇ! だが――』
ライが牙を見せて笑う。
『俺を倒すにはまだ足りねぇ!!』
雷光が一気に膨れ上がる。
黒い獣は弾き飛ばされ、何本もの木をなぎ倒しながら雪原を転がった。だが倒れた場所から再び黒い霧が溢れ出し、傷付いた体をゆっくりと包み込んでいく。
「また再生してる!」
アカネが叫ぶ。
ミアの肩から飛び降りそうな勢いで身を乗り出し、悔しそうに尻尾を叩き付けた。
「しぶとすぎるだろ!」
「焦ってはいけません」
フェリスは冷静に獣を見つめている。
「再生しているのは体ではありません」
「え?」
「正確には、あの黒い結晶が魔力を送り込み、無理やり肉体を修復しています」
レオンも目を凝らした。
確かに胸の奥で脈打つ黒い結晶だけは、一度も光を失っていない。傷が癒えるたびに結晶は暗く輝き、そのたび黒い霧が獣へ流れ込んでいた。
「つまり……」
「結晶を壊さなければ終わりません」
フェリスは短く答える。
クロは音もなく雪原を駆けていた。
黒い影となって木々の間を走り抜け、獣の背後へ回り込む。その姿は雪原でも驚くほど静かで、黒い獣はクロの接近に気付いていない。
「……今」
短い声だった。
それだけでライが笑う。
『待ってたぜ!』
雷神猫の巨体が再び地面を蹴る。
正面から飛び込むライに獣が反応し、大きく口を開いた。黒い霧が渦を巻き、巨大な牙がライへ襲い掛かる。その瞬間、クロが獣の死角から飛び出した。
鋭い爪が黒い結晶を狙う。
しかし――。
「防がれた!」
レオンが息を呑む。
結晶の前へ黒い霧が集まり、盾のようにクロの爪を受け止めた。高い金属音が雪原へ響き、クロはその反動で後方へ跳び退く。
「……硬い」
クロが低く呟く。
ライは豪快に笑った。
『だったら叩き割るまでだ!』
再び雷が集まる。
その時だった。
レオンの胸元で猫王の紋章が、今までになく強く輝いた。
ドクン、と。
まるで何かを伝えようとしているように、温かな光が剣へ流れ込んでくる。
「これは……」
剣が淡く白銀色に染まる。
雷とは違う。
聖なる光とも違う。
優しく、それでいて力強い輝きだった。
ユキがその光を見て目を見開く。
「猫王様の……」
その声は震えていた。
「違います」
フェリスが静かに首を振る。
「猫王様ではありません」
レオンもその意味を理解した。
「違う……」
この力は、自分一人のものではない。
ライの雷。
ミアの浄化。
クロの鋭さ。
フェリスの知恵。
アカネの勇気。
ユキの祈り。
その全てが一本の剣へ集まっている。
『へっ!』
ライが笑う。
『やっと気付いたじゃねぇか、王!』
黒い獣が最後の咆哮を上げる。
黒い霧が荒れ狂い、雪原全体を飲み込もうと広がっていく。木々は凍り付き、大地は灰色へ染まり始めていた。
レオンは静かに剣を構える。
その一歩に合わせるように、ライが雷を纏って隣へ並ぶ。
巨大な神猫と猫王。
一人と一匹ではない。
仲間全員の想いを背負った一撃が、今まさに放たれようとしていた。
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