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神獣使いではなく猫使いです  作者: 猫屋敷 春人
第五章 白銀の大地

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第四十五話 雷神の咆哮

本日2話目の投稿です。

『行くぞ、王!』


ライの咆哮が雪の森を震わせた。


巨大な神猫の全身を走る雷光は、白銀の世界を昼間のように照らし出している。黄金色の稲妻は毛並みを駆け巡り、一歩踏み出すたびに雪が弾け飛んだ。その圧倒的な存在感に、黒い雪を纏った獣は低く唸りながら身構え、灰色の瞳をぎらりと光らせる。


レオンは剣を握り直した。


胸元で猫王の紋章が脈打つたび、温かな力が腕へ流れ込んでくる。それは力任せに体を強くするものではない。頭の中が澄み渡り、敵の動きや仲間の位置が自然と見えるようになる、不思議な感覚だった。


『感じるだろ、王!』


ライが笑う。


『それが猫王の力だ! 一人で戦う力じゃねぇ! 仲間を繋ぐ力だ!』


その言葉が終わるより早く、黒い獣が地面を蹴った。


雪煙を巻き上げながら一直線に突っ込んでくる。巨大な爪が振り下ろされる瞬間、ライは真正面から迎え撃った。


雷鳴が轟く。


黄金の前足と黒い爪がぶつかり合い、衝撃で周囲の雪が一気に吹き飛ぶ。木々に積もっていた雪まで崩れ落ち、白い霧のように舞い上がった。押し合う二つの巨体から放たれる力だけで、地面は大きくひび割れていく。


『力は悪くねぇ! だが――』


ライが牙を見せて笑う。


『俺を倒すにはまだ足りねぇ!!』


雷光が一気に膨れ上がる。


黒い獣は弾き飛ばされ、何本もの木をなぎ倒しながら雪原を転がった。だが倒れた場所から再び黒い霧が溢れ出し、傷付いた体をゆっくりと包み込んでいく。


「また再生してる!」


アカネが叫ぶ。


ミアの肩から飛び降りそうな勢いで身を乗り出し、悔しそうに尻尾を叩き付けた。


「しぶとすぎるだろ!」


「焦ってはいけません」


フェリスは冷静に獣を見つめている。


「再生しているのは体ではありません」


「え?」


「正確には、あの黒い結晶が魔力を送り込み、無理やり肉体を修復しています」


レオンも目を凝らした。


確かに胸の奥で脈打つ黒い結晶だけは、一度も光を失っていない。傷が癒えるたびに結晶は暗く輝き、そのたび黒い霧が獣へ流れ込んでいた。


「つまり……」


「結晶を壊さなければ終わりません」


フェリスは短く答える。


クロは音もなく雪原を駆けていた。


黒い影となって木々の間を走り抜け、獣の背後へ回り込む。その姿は雪原でも驚くほど静かで、黒い獣はクロの接近に気付いていない。


「……今」


短い声だった。


それだけでライが笑う。


『待ってたぜ!』


雷神猫の巨体が再び地面を蹴る。


正面から飛び込むライに獣が反応し、大きく口を開いた。黒い霧が渦を巻き、巨大な牙がライへ襲い掛かる。その瞬間、クロが獣の死角から飛び出した。


鋭い爪が黒い結晶を狙う。


しかし――。


「防がれた!」


レオンが息を呑む。


結晶の前へ黒い霧が集まり、盾のようにクロの爪を受け止めた。高い金属音が雪原へ響き、クロはその反動で後方へ跳び退く。


「……硬い」


クロが低く呟く。


ライは豪快に笑った。


『だったら叩き割るまでだ!』


再び雷が集まる。


その時だった。


レオンの胸元で猫王の紋章が、今までになく強く輝いた。


ドクン、と。


まるで何かを伝えようとしているように、温かな光が剣へ流れ込んでくる。


「これは……」


剣が淡く白銀色に染まる。


雷とは違う。


聖なる光とも違う。


優しく、それでいて力強い輝きだった。


ユキがその光を見て目を見開く。


「猫王様の……」


その声は震えていた。


「違います」


フェリスが静かに首を振る。


「猫王様ではありません」


レオンもその意味を理解した。


「違う……」


この力は、自分一人のものではない。


ライの雷。


ミアの浄化。


クロの鋭さ。


フェリスの知恵。


アカネの勇気。


ユキの祈り。


その全てが一本の剣へ集まっている。


『へっ!』


ライが笑う。


『やっと気付いたじゃねぇか、王!』


黒い獣が最後の咆哮を上げる。


黒い霧が荒れ狂い、雪原全体を飲み込もうと広がっていく。木々は凍り付き、大地は灰色へ染まり始めていた。


レオンは静かに剣を構える。


その一歩に合わせるように、ライが雷を纏って隣へ並ぶ。


巨大な神猫と猫王。


一人と一匹ではない。


仲間全員の想いを背負った一撃が、今まさに放たれようとしていた。


閲覧ありがとうございました。誤字脱字などありましたらご報告の程お願いします。

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