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神獣使いではなく猫使いです  作者: 猫屋敷 春人
第五章 白銀の大地

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第四十四話 黒い雪の獣

本日1話目の投稿です。

「まだ終わっていない」


レオンの胸元に刻まれた猫王の紋章が、鼓動に合わせるように強く脈打った。


雷に包まれた黒い獣は苦しげな唸り声を上げながらも倒れない。裂けた傷口へ黒い霧が吸い寄せられ、砕けた肉や骨までも元へ戻していく。その異様な光景に、白銀の森は再び重苦しい静寂へ包まれた。吹き抜ける風さえ冷たく淀み、舞い落ちる雪はどこか色を失って見える。


『へっ……なるほどな』


巨大な神猫の姿のまま、ライが低く笑う。


『力比べじゃねぇってことか。何度ぶん殴っても、その黒いモヤが傷を塞いじまう。だったら、その根っこを叩けばいいだけだ!』


黒い獣が咆哮する。


森を震わせるほどの叫びとともに、全身から黒い霧が噴き出した。霧は蛇のように地面を這い、白い雪を飲み込みながらレオンたちへ迫ってくる。通り過ぎた場所の雪は灰色へ変わり、小さな草花は一瞬で凍り付き、その命を奪われていた。


「近付けさせません!」


ミアが前へ出る。


優しい表情は消え、真っ直ぐな眼差しが黒い霧を見据えた。手のひらへ集まった淡い光は風のように広がり、迫る霧とぶつかる。柔らかな光は霧を押し返したものの、完全に浄化することはできず、互いの力がせめぎ合うように空中で揺れ続けた。


「浄化が……効き切らない?」


ミアが息を呑む。


フェリスは冷静にその様子を見つめていた。


「予想どおりです。これは災厄そのものではありません。しかし、災厄に極めて近い性質を持っています」


「近い?」


レオンが尋ねる。


「はい。何者かが災厄の力を歪め、別の形へ変えています」


その言葉に、ユキの表情が凍り付いた。


「そんなことが……」


「本来なら不可能でしょう」


フェリスは静かに続ける。


「ですが、現実に起きています」


クロが雪の上へ身を低くした。


鋭い瞳は獣ではなく、その背後に漂う黒い霧を見つめている。風向きを読むように耳を動かし、小さく鼻を鳴らした。


「……あそこ」


クロの視線の先。


獣の胸の奥で、小さな黒い結晶が脈打っていた。


鼓動。


まるで心臓のように、不気味な光を放っている。


「王!」


ライが叫ぶ。


『あれだ! あれを壊せ!』


レオンは頷く。


胸元の紋章がさらに熱を帯びる。まるで同じものを感じ取っているかのように、その輝きは黒い結晶へ反応していた。


黒い獣が再び飛び掛かる。


巨大な牙がレオンへ迫る、その瞬間だった。


「させません!」


ユキが両手を胸の前で重ねる。


白い光が雪原へ広がった。


足元の雪が淡く輝き、小さな魔法陣が一瞬だけ浮かび上がる。透明な氷の壁がレオンの前へ現れ、黒い獣の牙を受け止めた。激しい衝撃で壁には幾筋ものひびが走るが、それでも獣の動きをわずかに止めることには成功した。


「今です!」


ユキの叫びが森へ響く。


『行けぇぇぇぇっ! 王!』


ライが雷鳴とともに突撃する。


巨大な体当たりが黒い獣を横から弾き飛ばし、その巨体は雪原を大きく転がった。雷光が弾け、舞い上がった雪が黄金色に染まる。その一瞬だけ、黒い結晶がはっきりと姿を現した。


レオンは剣を握る。


胸元の紋章から流れ込む温かな力が、刃へ静かに宿っていく。


今までとは違う。


災厄の核で感じた優しい力とも、勇者だった頃の力とも違う。


猫王としての力。


それが初めて、自分の意志へ応えてくれている。


「みんな!」


レオンが振り返る。


仲間たちは迷わず頷いた。


ライは豪快に笑い、クロは静かに構える。ミアは光を集め、フェリスは魔力の流れを見極めるように目を閉じた。アカネは牙を見せながら尻尾を大きく振り、ユキは祈るように両手を重ねる。


誰一人として迷っていない。


「行く!」


レオンは雪を蹴った。


白い雪原へ一本の足跡が刻まれる。


その足跡は、ただ前へ進むためのものではない。


白銀の大地を救うため。


黒い雪の謎を暴くため。


そして、この世界に残る災いの根源へ辿り着くための、新たな一歩だった。


閲覧ありがとうございました。誤字脱字などありましたらご報告の程お願いします。

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