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神獣使いではなく猫使いです  作者: 猫屋敷 春人
第五章 白銀の大地
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第三十九話 北への街道

本日2話目の投稿です。

こうして、猫王レオンと仲間たちの新たな旅が始まった。


王都を吹き抜けていた暖かな風は、一歩北へ進むごとに少しずつ冷たさを増していく。石畳だった街道はやがて土の道へ変わり、その両脇には深い森が広がっていた。木々の葉はまだ青々としているものの、北から流れてくる風だけは冬の気配を運び、旅人たちの頬を静かに撫でていく。


レオンの肩では、ライが大きく欠伸をした。


「……まだ少し眠いな」


「さっきまで寝てたじゃないか」


レオンが苦笑すると、ライは照れ隠しのように尻尾を揺らす。その様子を見たミアも思わず笑みを零し、肩に乗ったアカネは呆れたように小さくため息を吐いた。


「ライは本当に緊張感がありませんね」


「旅は力を抜く時も大事なんだぞ!」


「それを出発して十分で言う人は初めて見ました」


フェリスの静かな一言に、一行から笑い声が漏れる。


災厄との戦いを終えてから初めての穏やかな旅路だった。張り詰めた空気はもうない。誰もが自然と笑い合える時間が戻ってきたことに、レオンは胸の奥が温かくなるのを感じていた。


少し前方では、クロが音もなく森の縁を歩いていた。


黒い毛並みは木陰へ溶け込み、気配を消したまま周囲を見渡している。枝へ飛び乗ったかと思えば地面へ降り、風の流れや草木の揺れを静かに観察していた。その姿はまるで森そのものと一体になっているようで、敵に見つかることはまずないだろう。


フェリスはレオンの隣を静かに歩いている。


一定の歩幅を崩すことなく周囲へ視線を配り、ときおり後ろを振り返って仲間全員の位置を確認していた。その穏やかな瞳には油断はなく、平和な旅路であっても警戒を怠らない性格がよく表れている。


「みんな変わりませんね」


ミアが微笑む。


「何が?」


「いつもの並びです」


その言葉にレオンは周囲を見回した。


ライは肩の上。


アカネはミアの肩。


クロは少し先で偵察を続け、フェリスは隣を歩いている。


初めて旅へ出た頃から少しずつ形になってきた、この一行だけの歩き方だった。


「確かに」


レオンは笑う。


「なんだか安心するね」


その時だった。


ピクリ。


クロの耳が僅かに動く。


歩みを止めたクロは鼻を小さく鳴らし、そのまま森の奥へ視線を向けた。さっきまで穏やかだった表情が少しだけ鋭くなり、尻尾も真っ直ぐ伸びている。


「どうした?」


レオンが声を掛ける。


クロはすぐには答えない。


ゆっくりと森の中へ入り、数歩進んだところで立ち止まると、静かに振り返った。


「……誰かいます」


その一言で空気が変わる。


ライは欠伸を止めてレオンの肩から身を起こし、アカネもミアの肩の上で耳を立てる。フェリスはレオンの一歩前へ出ると、静かに森の奥を見据えた。


レオンは気配を探る。


敵意は感じない。


だが、確かに誰かがいる。


しかも、その気配は隠れることに慣れていない。息遣いも、足音も、森の獣にしては不自然だった。


「出てきてください」


レオンが静かに呼び掛ける。


返事はない。


森は静まり返ったまま、風が葉を揺らす音だけが響いている。


「大丈夫です」


レオンはもう一度言った。


「僕たちは戦いに来たわけじゃありません」


その言葉が森へ吸い込まれていく。


やがて茂みが小さく揺れた。


ガサリ、と枝葉を掻き分ける音が聞こえ、一人の小さな影が恐る恐る姿を現す。


白銀色の髪。


雪のように白い耳。


そして、ふさふさとした白い猫の尻尾。


年齢はレオンたちより少し幼いだろうか。


厚手の外套へ身を包んだ少女は、不安そうな蒼い瞳でレオンたちを見つめていた。


その瞳がレオンの胸元へ向けられた瞬間、猫王の紋章が淡く輝く。


少女は目を大きく見開いた。


「……やっと」


震える声だった。


今にも泣き出しそうなその声は、風に消えそうなほど小さい。


「やっと……見つけました」


レオンは息を呑む。


少女もまた、レオンを見つめたまま涙を零した。


「猫王様」


その一言に、一行全員が静かに息を飲んだ。


閲覧ありがとうございました。誤字脱字などありましたらご報告の程お願いします。

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