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神獣使いではなく猫使いです  作者: 猫屋敷 春人
第四章 千五百年の約束

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第二十六話 最後の願い

本日3話目です。ストックができたからといいて少しさぼってしまいストックが2桁切ってしまった。頑張ります。

『本当はね、ずっと分かってたの』


エルは少しだけ笑った。その笑顔は悲しくて、どこか諦めたようにも見えた。千五百年という時間の中で、何度も同じ結論に辿り着いたのだろう。その声には迷いよりも覚悟の方が強く滲んでいた。


『私がいなくなれば終わるんだって』


レオンの胸が強く痛む。千五百年間、エルは災厄を閉じ込め続けてきた。誰にも知られず、誰にも感謝されず、それでも世界を守るためだけに耐え続けてきたのだ。ようやく救われ始めた少女が、再び自分を犠牲にしようとしている。その事実を受け入れられるはずがなかった。


「駄目です」


レオンは即座に答えた。エルが目を見開く。予想していなかった返答だったのだろう。それでもレオンは視線を逸らさなかった。


「絶対に駄目です」


『でも、それしか方法が――』


「違います」


レオンは首を振る。そして一歩前へ出た。胸の奥から込み上げる感情が言葉となって溢れ出す。


「それは方法じゃないんです。誰かが犠牲になることを方法って呼びたくない。千五百年前もそうだったんですよね。誰かを犠牲にしたから今の悲劇が生まれた。だったら僕は、もう同じことを繰り返したくないんです」


白い世界に沈黙が落ちる。エルは何も言えなかった。レオンの言葉を否定できなかったからだ。千五百年前の悲劇は、一人の少女へ全てを押し付けたことから始まった。そして今、エルは再び同じ結末を選ぼうとしている。


「エルも助けます。黒竜も助けます。そして災厄とも向き合います」


静かな声だった。だが、その瞳には迷いがない。救えないかもしれない。失敗するかもしれない。それでも手を伸ばすと決めた。その覚悟だけは揺るがなかった。


「諦めたら終わりなんです。だから僕は諦めません」


エルの瞳が大きく揺れる。信じたい気持ちと、裏切られることへの恐怖。その二つがぶつかり合い、少女の表情を震わせていた。千五百年間誰にも救われなかったのだから当然だった。


「エルはもう一人で抱えなくていいんです」


その言葉を聞いた瞬間、エルの瞳から涙が零れ落ちた。悲しみの涙ではない。苦しみの涙でもない。誰かを信じたいと思ってしまった涙だった。救われるかもしれないと期待してしまった涙だった。


その瞬間、黒い影の奥で大きな鼓動が響く。白い世界が震え、空には無数の亀裂が走った。黒い霧は嵐のように荒れ狂い、まるで災厄そのものが激しく動揺しているかのようだった。


ユウの表情が変わる。猫神も静かに目を細めた。そして黒い影は初めてレオンを睨み付ける。その瞳に宿っていたのは怒りだけではない。理解できないものを見るような戸惑いと恐怖だった。


『なぜだ』


低い声が響く。今までのような威圧感はない。本当に理解できないのだ。絶望を知ったはずなのに。救われなかった願いを見たはずなのに。なぜまだ前を向けるのか。


『なぜ諦めない』


レオンは静かに息を吸った。目の前にいるのは怪物ではない。救われなかった願いそのものだ。だからこそ、この言葉を伝えなければならない気がした。


「諦めたら終わりだからです」


その声は静かだった。だが真っ直ぐ響いた。次の瞬間、黒い影の中心に今までで最も大きな亀裂が走る。絶対に壊れないと思われていた何かが、内側から崩れ始めたような音が世界に響いた。


白い世界が大きく震える。黒い霧が悲鳴のような唸り声を上げる。そして影は初めて苦しそうな表情を浮かべた。長い年月をかけて積み上げられた絶望が、今ようやく揺らぎ始めていた。


猫神はその光景を静かに見つめていた。黄金の瞳が細められる。その表情には安堵にも似た色が浮かんでいた。まるでずっと待ち続けていた瞬間を見届けているようだった。


「ようやく届き始めたか」


その小さな呟きと共に、黒い影の奥で何かが静かに目を覚まそうとしていた。

閲覧ありがとうございます。誤字脱字などあればご報告の程よろしくお願いします。

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