第十五話 世界が滅びかけた日
本日2話目です。そろそろストックがやばい…。
気が付くと、レオンは白い世界に立っていた。
どこまでも白い。空も地面も境界が分からない。音もなく、風もない。ただ静寂だけが広がっていた。
「ここは……」
レオンは辺りを見回す。確か黒竜の核に飲み込まれたはずだった。だが王都も神猫たちの姿もない。代わりに目の前には一人の青年が立っていた。
黒い髪。金色の瞳。どこかレオンによく似た雰囲気を持つ人物だった。青年は静かに微笑む。
「ようやく会えたな」
レオンは目を瞬かせた。
「あなたは……?」
青年は少しだけ肩をすくめる。
「名乗る前に気付くと思ったんだがな」
そして小さく笑った。
「私はユウ」
「千五百年前の猫王だ」
レオンは固まった。数秒遅れて言葉の意味が頭に届く。
「え?」
沈黙。
「えええええっ!?」
ユウは苦笑した。
「その反応は毎回見るな」
「毎回って何ですか!?」
「猫王は代々似たような反応をする」
レオンは頭を抱えた。黒竜の心を救いに来たと思ったら、伝説の猫王が出てきたのである。理解が追いつくわけがない。
ユウはそんなレオンを見ながら笑った。
「まあ落ち着け」
「無理です」
即答だった。
ユウはさらに笑う。英雄というより、近所のお兄さんのような雰囲気さえある。
「ここは災厄の核の内部だ」
「核の中……」
「正確には記憶の世界だな」
レオンは辺りを見回した。白い空間は相変わらず続いている。だがよく見ると、遠くに黒い影のようなものが浮かんでいた。
「黒竜の記憶なんですか?」
「いや」
ユウは首を振る。
「世界の記憶だ」
その瞬間、景色が変わった。
白い世界が崩れ、無数の光が周囲に広がる。レオンは思わず息を呑んだ。目の前に現れたのは巨大な都市だった。今の王都よりも遥かに発展した街並みが広がり、空には飛行する魔導船が浮かんでいる。街には神獣たちの姿も見えた。
人と神獣が共に暮らしていた。
そんな光景だった。
「これが……千五百年前?」
「そうだ」
ユウの表情が少しだけ柔らかくなる。
「まだ世界が壊れる前だ」
人々は笑っていた。子供たちは神獣と遊び、大人たちは仕事をしている。
平和だった。
少なくともレオンにはそう見えた。
「すごい……」
思わず声が漏れる。
だがユウの表情は変わらない。むしろ少しだけ悲しそうだった。
「みんなそう言う」
「え?」
「この景色を見れば誰もが平和だったと思う」
ユウは遠くの街を見つめる。
「私もそう思っていた」
次の瞬間だった。
空が黒く染まる。轟音が響き、街の中心で巨大な爆発が起きた。
レオンは目を見開く。人々が逃げ惑う。神獣たちが叫ぶ。黒い霧が空へ噴き上がっていた。
「なっ……」
「これが始まりだ」
ユウの声は静かだった。
だがその瞳には後悔が滲んでいる。
黒い霧は生き物のように広がっていく。触れた人々は苦しみ、倒れた。神獣たちも例外ではない。体が黒く染まり、理性を失っていく。
「災厄……」
レオンは呟いた。
「そうだ」
ユウは頷く。
「世界が滅びかけた日だ」
景色はさらに変わる。
燃える街。崩れた城壁。倒れた神獣たち。
絶望しか残っていなかった。
レオンは拳を握る。あまりにも悲惨だった。
「どうしてこんなことに……」
その問いにユウはすぐには答えなかった。しばらく黒く染まった世界を見つめる。
そして静かに口を開いた。
「世界が滅びかけた理由は、災厄だけじゃない」
レオンは顔を上げる。ユウは手の中に現れた古い紋章を見つめていた。
見覚えがある。
今の教会が使っているものと同じ紋章だった。
「教会……?」
ユウは小さく頷く。
そしてレオンを真っ直ぐ見つめる。
「本当の話を始めよう」
白い世界に静寂が落ちた。
閲覧ありがとうございました。ちょっと本格的にストックをためる作業していきます。




