【8】
智と識き目が辿り着いた場所はー。
どこまでも真っ白な空間を、識き目に手を引かれながら歩く。
何の音もしない。風とか匂いとかもない不思議な空間だが、恐怖感とかはないんだよな。どのくらい歩いただろう。ふいに、識き目が立ち止まった。
「着いたのか?」
「うん。この先」
手を解くと識き目が両手を前にかざす。
「智。私の後ろに」
識き目の背に移動するとかざした手のひらの周辺に波紋の様なうねりが広がっていく。
白いだけの空間にその透明な波紋が、高さは2m、幅は3m程広がっている。
「この位でいいかな……。智、手」
「お、おう」
また手をつなぐと識き目が一歩前に出る。
「ちょっと待ってて」
波紋が広がったままの空間に繋いでいない方の左手を指切りの形にして出すと、クイクイっと自分の方に引っ張った。
「…よし、繋がった。こっちの事は分かってるみたいだけど、邪魔してこないから大丈夫だと思う」
識き目が波紋に足を入れた。手を引かれるまま進むとちょっとむにっとした弾力?を感じるが向こう側へ進めている。景色は白いままだ。距離的に5m、いや10m位歩いただろうか急に弾力がなくなり景色が一変した。
「……ここは、体育館か?」
いたって普通の体育館だった。
フローリングの床には子供たちが円形状に寝かされている。
「………11人。みんないるね」
1人ずつタオルケットが掛けられていて、みくちゃんの姿もあった。怪我とかはしてないだろうか、一応確認しないと、
「待って、智。近づいちゃだめ」
「は?」
「もう術?ていうのかな…。始まってる」
「え」
「着いたんだ。…人間と、同族?かな」
振り返るとそこには12、3才くらいの女の子、いや男の子にも見える。大き目の黒っぽいジャンパーにジーンズ。……こいつか?確かに識き目と印象が似てる。
「そこから動かないで。陣が崩れると面倒くさいから」
「は?陣って何だ?子供たちに何をする気だ?」
「何も」
何もって、じゃあ陣?に加えてるのはどういう事なんだ。
「何か呼ぶのかな?それとも作るの?」
「うーん。どっちもって感じかな」
「そう」
ふむふむと納得している識き目の方を見るとえぇっと、と話し始めた。
「今から何か呼んだり作ったりするんだって」
「いや、それは聞いてた。どうしてそこで子供たちが必要なんだ」
「あ、そうか。理由聞いてなかった」
おい!という顔をした俺に気まずそうな顔をしながらそいつに尋ねる。
「子供たちがどうして必要なの?」
「子供が欲しいから。子供が必要」
「そう」
そういうことみたいだよってこっちを見るな。全然意味が分からない。直接そいつに聞くしかないかと声を掛けようとした途端、
「…よし。輪っかが出来たから後は呼ぶだけ」
子供たちの周辺が急にパァッと光り始める。いつの間に置かれたのか子供たちの中央には、大量の折り鶴が山のように置かれている。手前の男の子が淡く光りだすと左の女の子も同じ様に光だし隣の子、隣の子と光出していく。
「…識き目」
「…大丈夫。これは子供たちを保護する光。危害を加えるものじゃない」
確かに子供たちは眠ったまま。苦しそうな様子はない。
最後に瞬くんだろう男の子が光り出すと、子供たちが寝かされている床に細い糸のような赤い光がまるで木の年輪の様に層になって浮かび上がり、子供たちの中央に積み上がっている折り鶴まで届く。
その瞬間、子供たちの外側にパアッと光の壁が出来、天井まで届いた。
「わたしは子供を傷つけたりしない。約束する」
識き目と俺の方を見てそいつが言った。識き目はそいつの方をじっと見ているが、感情は読み取れない。
「きみの言葉を信じたい」
そいつがこっちを見る。
「子供たちを傷つける事をするなら許すことはできない。どうやるかも分からないけど、その時は絶対に止めるぞ」
じっと俺を見たそいつが頷く。
「わかった。子供たちを危険に晒すことはしない」
そこで見ていてくれ。そいつは光の壁の前に進むと、上着の背中側に両手を入れ鈴がたくさんついた楽器のような物を取り出した。
「……、…、……」
何か呟いているがはっきり聞こえない。
光の壁がゆらゆらと波打っている。
シャン、シャンと両手の鈴を鳴らすと光の壁が一瞬強く光った。
すると今度は壁の上の方からリーン、リーンと音がする。
見上げると天井がなくなり暗い海のように波打っていた。
「…、……、…、……」
シャン、シャンと両手の鈴を鳴らしながら、そいつがまた何かを呟いている。
リーン、リーンとまた天井から音が鳴る。
「……よし、大丈夫だ。呼ぶ子が来る」
そいつがそう呟き、光の壁から一歩下がると、折り鶴が淡く光りだし一羽ずつ繋がりながら天井へゆっくり上がっていく。
「少し話してもいいかな」
こちらに来るまで時間が掛かるから。そう言って振り返ったそいつは小さく笑みを浮かべていた。
ここまでご覧頂きありがとう御座います。次回、何が語られるのか。




