【7】
事件の新たな被害者が…。
朝からどのニュース番組でも、取り上げられているのは11人目の被害者について。
『戸田瞬くん。9才の小学3年生』
行方が分からなくった日の行動は、関係者の証言や現場写真などを使い詳しく報じられていた。
サッカークラブの練習が終わった後、父親の方に瞬くんから電話がきた。
その日は母親と妹は母方の祖父母宅に泊まるという事で不在。父親と瞬くんは2人で外食に行く予定だった。父親が校門前に迎えに行くも、他の生徒が帰る中に瞬くんの姿はない。電話をかけるも繋がらなかった。家に帰ったのかと思い帰宅した所、玄関前にあの折り鶴を見つける。他の事件に巻き込まれた可能性もあわせて捜索中、情報提供を求むとキャスターが伝えている。
「…今までと少し違うな。学校から出ていない」
「確かに…」
「学校内でも連れ去る事が出来る。…まぁ出来るよな。人目に付かずに動く事が出来るなら可能だよな」
「…うん。だけど、今までと違うといってもそこまで気にしなくても良いような気がする。気になるのはこれ」
「へ?何?」
識き目が持ち上げたのはみくちゃんから貰ったあの赤い花だった。
「よく見て。花の周りに、なんかうねりが見えるでしょ」
「…ほんとだ。なんか蜃気楼みたいな、湯気にも似ているな…」
「うん。それと、これに触れると…」
「…え!?消えてる!」
「そう。触れてる所が透明になる。でも離すと、元に戻る」
識き目の指先は花に触れると確かにそこだけ消えていた。
「もらった時はこんな現象は起こらなかった。みくちゃんも特に何も言ってなかったし」
「どういうことだ?今までとは何か違うことが起きているってことか?」
「これまでとは違う。昨日瞬くんがいなくなった時も特に変化はなかった」
つんつん花をつつきながら呟く。その間も指が消えたり現れたりしている。
「みくちゃんに連絡してみよう。花がこの状態になっているってまだ知らないと思う。何かあったら連絡してくれって伝えていたしな」
学校は終わっている時間か?時計を見ると16時前だった。
家にいるなら電話に出づらいかな。そう思ったが意外と早く3コール目で電話に出てくれた。
『…もしもし、お兄ちゃん?』
「あ、みくちゃん?今、大丈夫?」
『うん、大丈夫。ちょっとまって……』
なんか、声が小さい。ガサゴソと音もするし、本当に大丈夫か?
「みくちゃん?ほんとに大丈夫?何かあるなら…」
『だいじょぶ…、もう、ちょいだから、ちょっと待ってて…』
「う、うん…」
耳を澄ませてみるとガサゴソという音はしなくなった。でも、なんだかザザッ、ザザッいう音がする。風の音?あれ、外にいるのか。
『……よし!大丈夫、ごめんなさい。隠れて移動してたから』
「え!みくちゃん、それはお母さんに心配かけるんじゃ…」
『大丈夫!お兄ちゃんたちを呼ぼうとしてたし。男の子を見つけられるかもしれないし』パタパタと走る音がする。移動してるのか…?
「みくちゃん、とりあえず一旦止まって、話を聞いてほしいんだ」
『わかった!じゃあ。この前の公園に来て!待ってる!あ、あと、妖怪のお兄ちゃんにあげたお花も持ってきて』
急いでね、とガチャと電話が切られた。いや、なんか行動的な子だったんだな…。
「みくちゃんはなんて?」
「公園で待ってるって…」
「この前のとこだね」
「あぁ、花も持ってきて欲しいって」
「わかった。じゃあ急ごう」
預かっていた花をしっかり抱えると急ぎ公園へ向かった。
入り口で手を振るみくちゃんを見つける。
「こっちこっち」
「ごめん。お待たせ」
「ううん、お花持ってきた?」
識き目がズイッとみくちゃんの前に花を出す。
「ありがとう」
みくちゃんはリュックから出した花と識き目から受け取った花を一束にする。…特に変化はない。
「……やっぱり聞こえる。鈴の音。さっきより大きくなった。お兄ちゃんたちも聞こえる?」
「…え?今、鳴っているのか?」
「うん。この前、入り口で聞こえた音と一緒」
識き目をみると目が青みがかったまま花を見つめていた。
「識き目、何か分かるか?」
「…うん。音は聞こえないけど、引き糸が出てる」
「引き糸?」
「うん。向こうから」
識き目が指したのはみくちゃんが見つかったベンチの後ろの森の方だった。
「みくちゃん、音はそこから聞こえているかな?」
「…わからない。もう少し近くに行っても良い?」
ちらっと識き目をみると頷いた。
「一緒に行こう」
みくちゃんだけ先に帰した方が良いかもしれない。でも、この子が大人しく帰るとも思えないしな。俺だけじゃない、識き目もいるなら一緒に行った方が良い。この事件を起こした奴がどんな奴か分からない。ただ、今まで一人の子供も傷つけず無事に返しているなら暴力的な奴ではないんじゃないか?まぁ、攫ってるって時点で危ない奴ではあるが。
「…ここから、聞こえてるよ!」
ベンチまで移動したみくちゃんの近くにいるのに、俺には全く聞こえない。識き目をみると森の向こうをじっと見つめていた。
「どうだ。何か分かったか」
「うん。この先に入り口がある」
「えっ!?」
「ほんと!?」
驚く俺とみくちゃんに識き目が告げる。
「行く?やめとく?」
「え…」
「…行きたい!」
元気よく宣言するみくちゃん。
「智はどうする?」
俺は…いやこれはまぁ、
「…行く」
「わかった。みくちゃん、音はまだ聞こえてるかな?」
「うん。多分あっちから聞こえる」
「…うん、合ってる。じゃあ。行こうか」
みくちゃんが指した何もない空間を目指して歩き出す。
「みくちゃん、お花持ってない手はわたしと繋ごう?」
「いいよ」
「智はこっちね」
空いてる方の手をひらひらさせる識き目。仕方なしに繋ぐと少し体温低めの手がぎゅっと握り返してくる。
「出来るだけ近づいて離れないようにね」
「はーい」
みくちゃんはなんだか楽しそうだな。いや、子供って意外と強いな。
「智も、もう少しこっちに寄って」
「お、おう」
手を繋いだ俺達が目的の地点までもう少しの所で、識き目が止まる。
「あと数歩行くと向こうの領域に入る。ここから先は行ってみないとわからないよ?」
戻るなら今だよ?と識き目の瞳が確認してきた。
「行くよ。みくちゃんはどうする?」
「行く!」
「分かった」
じゃあ行こう。識き目の瞳が紺色に近い深い色に変わった。ぎゅっと識き目を真ん中にして身を寄せ合った俺達が一歩踏み出す。
景色は変わらない。森の中だ。ただ、さっきまでと明らかに違うと感じる。
風が止んでいる。いや、鳥の鳴き声や葉擦れとか、音が全くしない。
「…おい、識き目」
「うん。もう入ってるよ。帰されはしないから、このまま進む」
「…わかった」
チラッとみくちゃんを見ると、周りをきょろきょろ見ているが怖がっている様子はない。
…リーン。……リーン。突然聞こえてきた音に驚く。この音か。
「…鈴の音」
「聞こえるね。そろそろ着くな」
識き目がそう言った瞬間、目の前が真っ暗になる。
「えっ!?…識き目、みくちゃん!」
「私は大丈夫。ただ、ミクちゃんは連れて行かれた」
「!?」
パッと突然現れたのは真っ白な空間。手を繋いだままの識き目の隣からみくちゃんが消えていた。辺りを見渡すがどこまでも真っ白な空間が広がっていて、俺達以外に誰も見当たらない。
「大丈夫。見えないだけ。近くにいるよ」
慌てた様子のない識き目は紺色の瞳で少し先の方を見ている。
「わかるのか?」
「うん。一応、みくちゃんに私の引き糸を結んでいたんだけど…うん。大丈夫。怪我とかもしてない。落ち着いてる」
「…そうか」
「よし、じゃあ私たちも行こう。みんなもそこにいる」
「みんな?」
「子供たちだよ」
「!?」
さらっと爆弾発言をかました本人が涼しい顔すぎて俺の方がおかしいのか?と思ったがそんなはずないよな…。
「…お前と似たような奴ってのは、いそうか?」
「うん。多分」
「そうか。まぁ、行ってみないとわかんないよな」
こんな異空間にいるのに緊張感よりも気疲れが上回るって、ある意味貴重な体験だな。
「じゃ、真っすぐ向こうだよ」
謎にテンションが少し高め?の識き目に引きずられるように躊躇いなく前進した。
ここまでご覧頂きありがとう御座います。智と識き目もいよいよ異空間へ―。




