第16話「第160層、攻略対象を決めない縛り」
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今日の縛りは、
攻略対象を決めないこと。
記録帳に書いた。
書いたあとで、一度消した。
定義が曖昧だったからだ。
もう一度書く。
「第160層侵入後、特定の存在・場所・現象を『攻略すべき対象』として事前指定しない」
追加。
「捕食の地図の使用は許可」
追加。
「戦闘、解体、回収、摂取も許可」
追加。
「ただし、それらを行う理由として『攻略対象だから』を使用しない」
これでいい。
第147層では、
食べる。
殺す。
所有する。
回収する。
それらが同じではないと分かった。
なら。
そのもっと前には何がある。
見つける。
対象と認識する。
攻略すると決める。
倒す。
解体する。
回収する。
食べる。
私は今まで、
最初の三つをほとんど同じものとして扱っていた。
ダンジョンに入る。
何かいる。
それを攻略する。
それが普通だった。
今日は、
その「普通」を使わない。
前衛、準備よし。
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第一章「第160層」
扉を開いた。
広かった。
最初に見えたのは、
空だった。
雲。
青い空。
太陽。
その下に、
都市がある。
巨大都市。
建造物が地平線まで続いている。
高層建築。
市場。
道路。
水路。
橋。
塔。
地下への入口。
遠くには山。
さらに海。
一つの階層という規模ではない。
ただ。
こういう層自体は、
初めてではない。
深層には時々ある。
魔獣の巣でも、
単純な迷宮でもない。
ひとつの文明圏そのものが、
階層として閉じ込められている型。
都市。
国家。
集落群。
場合によっては、
何世代もそこで暮らしている住人までいる。
外を知らない者もいる。
ここをダンジョンだと思っていない者もいる。
珍しい。
でも、
私は何度か見たことがある。
だから驚かない。
捕食の地図が起動した。
一瞬で視界が埋まった。
【攻略候補:37,221】
多い。
表示を縮小する。
【高優先度攻略候補:184】
まだ多い。
一覧。
【地下迷宮核】
【都市防衛機構】
【南部巨大生物】
【北西部世界線亀裂】
【海底遺構】
【中央塔上層存在】
【地下食材保管庫】
【都市外縁捕食植物群】
【未確認高密度魔力反応】
全部、
攻略可能。
全部、
価値がある。
全部、
危険でもある。
いつもならここから選ぶ。
価値。
危険。
希少性。
攻略時間。
食材適性。
総合評価。
今日は選ばない。
私は地図を閉じた。
歩く。
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第二章「最初の敵」
十分ほど歩いた。
市場に出た。
普通に人がいる。
人間。
亜人。
獣人。
形のよく分からないもの。
全員、
売買している。
食べ物もある。
武器もある。
魔術道具もある。
私は串焼きを見た。
店主が言う。
「食うか?」
「何の肉だ」
「昨日、東門に出たやつ」
捕食の地図を起動。
【高熱域棲息六脚獣】
【食材適性:★★★★☆】
【推奨:塩焼き】
すでに塩焼きだ。
一本買った。
食べる。
美味しい。
記録。
「現地調理済み食材。良好」
歩く。
突然、
悲鳴。
市場の屋根を突き破って、
巨大な虫が落ちてきた。
四メートルほど。
甲殻。
鎌状の前脚。
口器。
捕食の地図。
【攻略候補】
表示された。
私はその文字を見る。
攻撃してくる。
周囲の住人が逃げる。
なら。
倒す理由はある。
「攻略対象だから」ではない。
被害が出るからだ。
虫が跳んだ。
幻影剣。
一閃。
頭部と胴体を分離。
終了。
捕食の地図。
【攻略完了】
私は表示を消した。
違う。
攻略したのではない。
危険を排除した。
記録帳。
「大型虫型生物一体処理」
その下。
「理由:周辺住民への攻撃」
攻略。
とは書かなかった。
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第三章「一番価値がある場所」
市場の店主が、
虫を見ながら言った。
「姉ちゃん、強いな」
「そうか」
「冒険者か?」
「たぶん近い」
「なら中央塔へ行くといい」
私は中央塔を見る。
捕食の地図では高優先度だった。
「なぜだ」
「今日、塔の上で試験がある」
「試験?」
「最上層まで行けば、何でも一つ持っていっていい」
何でも。
地図を起動。
中央塔。
【推定資源価値:極高】
【未知素材多数】
【希少食材反応】
【世界線断片保管確認】
【最優先攻略推奨】
良い。
普通なら行く。
しかし。
私は今日、
攻略対象を決めない。
塔へ行くこと自体は禁止されていない。
問題は、
「価値が高いから攻略する」
と決めること。
私は店主へ聞いた。
「他には何がある」
店主が笑う。
「他?」
「塔以外だ」
「そりゃ何でもあるさ。今日は東で競技会、西で祭り。港じゃ巨大魚が上がった。地下街はまた一部崩落したらしい。北門の外では旅商人が来てる」
選択肢が増えた。
私は止まった。
選ばない。
では、
どう動く。
店主が言った。
「行きたいとこに行けばいいだろ」
私は店主を見る。
行きたいところ。
その判断基準は、
記録帳にない。
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第四章「地下街」
私は結局、
市場をそのまま歩いた。
塔へは行かなかった。
港へも行かなかった。
進行方向だけ、
曲げなかった。
三本目の通り。
地面が震えた。
次の瞬間。
道路が、
消えた。
崩れたのではない。
都市の地下構造そのものが、
抜け落ちた。
私は落下した。
下を見る。
暗い。
捕食の地図。
【地下構造崩壊】
【落下距離:3,846m】
【下層:旧都市圏】
【重力異常発生中】
なるほど。
都市の下に、
さらに都市がある。
文明型階層では時々ある。
上に新しい街を作り続け、
古い街を下へ押し込んでいく。
何世代も。
何層も。
その旧都市圏の一部が、
今、
重力井戸になっている。
捕食の地図。
【局所重力:通常比 18,400倍まで上昇予測】
私は落ちる。
問題ない。
この程度なら、
私一人なら。
地面へ衝突。
轟音。
旧都市の街区が沈んだ。
半径数百メートル。
瓦礫が吹き飛ぶ。
私は立っている。
服に埃。
身体に損傷なし。
普通だ。
周囲から、
人の声。
「誰か!」
捕食の地図が展開する。
【生存者:26】
【三次崩落予測:4分12秒】
【攻略価値:低】
私は止まった。
攻略価値。
低。
中央塔は極高。
地下街は低。
だが。
声がする。
瓦礫の下。
私は剣を消した。
身体強化。
瓦礫を持ち上げる。
一人。
救出。
次。
三人。
次。
七人。
捕食の地図を使う。
弱点ではなく、
空洞構造。
荷重。
崩落予測。
次々に瓦礫を外す。
三分。
二十二人。
残り四。
奥。
旧都市深部。
地図。
【侵入非推奨】
【救助対象4】
【期待資源価値:ほぼなし】
期待資源価値。
私はその表示を見た。
面白い。
そこには、
何もない。
食材も。
素材も。
希少物も。
ただ四人いる。
私は奥へ入った。
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第五章「自分だけなら」
三次崩落。
旧都市全体が沈む。
今度は、
落下ではない。
重力方向そのものが、
下へ引き裂かれた。
捕食の地図。
【局所重力:32,000倍】
【空間圧壊開始】
自分一人なら、
問題ない。
ここをそのまま突破できる。
完全強化も必要ない。
反射バリアも最低出力で足りる。
しかし。
瓦礫の奥。
最後の四人。
私は一人ずつ外へ出す。
短距離テレポート。
一人。
戻る。
二人。
戻る。
三人。
残り一人。
最深部。
子供だった。
壁際で、
小さく丸まっている。
足を挟まれている。
地図。
【脚部損傷】
【生命危険度:中】
【救助所要時間:41秒】
【空間圧壊まで:18秒】
私は瓦礫へ手をかけた。
動かす。
まだ。
重力井戸が強くなる。
【局所重力:51,000倍】
子供の身体が、
床へ押し潰され始める。
私は反射バリアを展開する。
いつもとは逆。
自分を覆わない。
子供だけを包む。
全出力。
重力。
圧力。
瓦礫の荷重。
全部、
子供から逸らす。
その分、
自分へ通す。
私は瓦礫を持ち上げる。
十三秒。
動いた。
子供を引き抜く。
残り五秒。
空間断絶。
出口との接続。
失敗。
重力井戸で座標が潰れている。
三秒。
私は子供を抱える。
反射バリア。
子供側へ固定。
自分側。
なし。
旧都市圏が、
落ちた。
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第六章「3,846メートルの下」
暗転。
次に見えた時。
私は、
さらに下にいた。
落下距離。
推定4,200メートル追加。
ただし、
単純な落下ではない。
重力井戸。
局所圧壊。
空間圧縮。
全部重なっている。
着地。
地面が割れた。
旧都市の一街区が、
底へ沈んだ。
私は立っている。
腕の中。
子供。
無傷。
反射バリア。
維持成功。
私は自分を見る。
左袖。
肩から裂けている。
皮膚に、
細い線。
血。
それだけ。
自動回復スフィアが起動する前に、
傷は閉じた。
骨格。
問題なし。
内臓。
問題なし。
魔力消費。
高。
私は記録帳を出す。
「救助対象:生存」
その下。
「自己損傷:表層」
さらに。
「原因:防御リソースを救助対象へ偏重」
書く。
もし。
自分だけだったら。
無傷だった。
救助対象がいなければ、
もっと早く抜けられた。
つまり。
今回の損傷は、
ダンジョンに負けた結果ではない。
自分の防御を、
使わなかった結果。
私はその事実を記録した。
特に感想はない。
子供が、
腕の中で言った。
「……お姉ちゃん」
「動くな」
それだけ。
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第七章「損」
地上へ戻る。
先に助けた住人たち。
歓声。
最後の子供の母親らしい女性が走ってくる。
子供を抱きしめる。
泣く。
私は立っている。
服は破れている。
身体はもう治っている。
魔力消費。
かなり多い。
素材回収。
ゼロ。
食材回収。
ゼロ。
討伐数。
一。
攻略実績。
ほぼない。
中央塔の試験開始時刻は過ぎた。
捕食の地図が通知する。
【中央塔イベント終了】
【世界線断片入手機会消失】
【極高希少資源取得機会消失】
私は表示を見る。
つまり。
今日の行動によって、
私は大きく損をした。
中央塔へ行けば、
世界線断片。
希少食材。
未知素材。
入手できた。
代わりに得たもの。
二十六人の生存。
魔力消費。
服の損傷。
左腕の一瞬の裂傷。
それだけ。
記録帳を出す。
書く。
「中央塔:未攻略」
「高価値資源:取得機会消失」
「地下街:救助26名」
「素材:0」
「食材:0」
「損耗:軽微」
最後。
「総合効率」
私は止まった。
数字が出せない。
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第八章「対象」
子供が来た。
さっき助けた子。
母親と一緒。
手に何か持っている。
小さな包み。
「これ」
渡された。
開く。
焼き菓子。
三枚。
地図。
【食材価値:低】
私は消した。
子供が言う。
「ありがとう」
私は焼き菓子を見る。
食べる。
普通。
少し硬い。
甘い。
世界線断片より、
価値は低い。
比較にならない。
私は三枚とも食べた。
「美味しい」
子供が笑った。
その瞬間。
捕食の地図が自動起動した。
私は何も命令していない。
視界中央。
子供。
表示。
【攻略対象:該当なし】
私は止まった。
初めて見た表示だった。
攻略対象ではない。
当然だ。
しかし。
今まで地図は、
世界に存在するものを、
攻略候補。
食材候補。
危険物。
素材。
そういう形で分類していた。
この子供には、
何も表示されない。
私は地図を閉じた。
そして初めて、
今日の縛りの意味が分かった。
攻略対象を決めない。
ではない。
もっと前。
世界にあるもの全部が、攻略対象候補ではない。
私はそれを、
今まで明確に分けていなかった。
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第九章「第160層のボス」
帰還しようとした時。
都市全体に警報。
空が赤くなる。
捕食の地図が強制展開。
【階層主出現】
来た。
中央塔の上空。
巨大な輪。
直径三キロ。
都市全体を覆う。
内部に無数の眼。
地図。
【第160層階層主】
【世界線選別機構】
【一定周期ごとに都市構成要素を『不要』として削除】
【次回削除対象算出中】
私は空を見る。
なるほど。
これがボス。
ようやく、
普通のダンジョンになった。
地図が弱点を表示する。
【中核部破壊推奨】
私は幻影剣を生成する。
その瞬間。
表示が切り替わった。
【次回削除対象】
【地下街住民:26】
私は止まる。
さっき助けた人間たち。
その下。
【選定理由】
【都市生産性への寄与率:低】
【資源消費:中】
【復旧費用:高】
【総合価値:低】
私は空を見る。
階層主。
こいつは、
私と同じことをしている。
価値を測る。
対象を決める。
不要なものを処理する。
攻略する。
効率化する。
私は剣を握った。
階層主。
攻略対象。
今度は、
迷わなかった。
理由は、
「ボスだから」
ではない。
「価値の低いものを消すから」
でもない。
もっと単純。
私は、
さっき助けた二十六人を、
もう一度消したくない。
それで十分だった。
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第十章「0.31秒」
空間断絶。
上空へ。
完全強化。
幻影剣。
千本。
階層主の眼が開く。
都市全体へ光線。
反射バリア。
反射。
空が白くなる。
地図。
【中核座標固定】
今度は従う。
攻略対象を決めない縛りは、
攻略してはいけない縛りではない。
理由ができた。
なら。
最適解を使う。
短距離テレポート。
中核前。
螺旋断核。
打ち込む。
0.31秒。
階層主が停止。
巨大な輪に亀裂。
崩壊。
赤い空が青へ戻る。
終了。
私は地上へ戻る。
記録帳。
「第160層階層主」
「討伐時間:0.31秒」
「討伐理由」
ここで止まる。
いつもなら、
攻略。
食材。
危険。
素材。
を書く。
今日は違う。
私は書いた。
「地下街住民26名が削除対象となったため」
さらに。
少し考えて。
「私が、それを望まなかったため」
書いた。
消さなかった。
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第十一章「今日の最適解」
帰還。
自室。
記録帳を開く。
今日の結果。
第160層。
攻略対象を決めない縛り。
達成。
討伐。
二。
食材回収。
ゼロ。
素材回収。
ゼロ。
希少資源。
取得機会消失。
救助。
二十六。
階層主討伐。
一。
損傷。
表層。
魔力消費。
高。
効率。
低。
私は書く。
「今日の最適解」
止まる。
中央塔へ直行。
報酬取得。
その後、
階層主出現時のみ討伐。
これが最適だった可能性が高い。
地下街は無視。
救助は現地住民へ任せる。
希少資源を確保。
損傷なし。
魔力消費も少ない。
高効率。
私はその計算を書く。
次。
「実際の行動」
地下街救助。
資源取得失敗。
防御配分変更。
魔力消費増加。
階層主討伐。
比較。
数字だけなら、
負けている。
私はしばらくページを見る。
そして。
「最適解を選ばなかった」
と書いた。
第147層でも、
似たことを書いた。
しかし今回は違う。
第147層では、
所有しないという判断。
今回は。
そもそも、
「何を最適化するか」
が途中で変わった。
最初は、
攻略成果。
資源。
未知。
だった。
地下街で、
別のものが入った。
二十六人。
そして、
一度評価関数へ入った二十六人を、
私は後から消せなくなった。
記録帳。
新しい欄。
【DECISION VARIABLE】
「既に関与した対象」
追加。
「自分の行動によって生存した対象」
追加。
「一度判断に含めた対象は、その後の評価から完全には除外できない可能性」
私はペンを置いた。
これは、
少し面倒だ。
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終章「攻略する理由」
深夜。
冷蔵庫を開ける。
第133層の素材。
第147層までの回収物。
いろいろある。
第160層のものは、
何もない。
私は冷蔵庫を閉める。
机。
記録帳。
今日の縛り。
「攻略対象を決めない」
結果。
私は最後に、
攻略対象を決めた。
階層主。
なら、
縛り失敗か。
違う。
最初から決めなかった。
必要になった時、
理由ができた。
だから決めた。
私は記録帳に書く。
「存在しているものと、攻略すべきものは同じではない」
次。
「攻略対象は、状況と理由によって決まる」
次。
「価値が高いから攻略するとは限らない」
次。
「危険だから攻略するとも限らない」
最後。
「私が何を残したいかによって、攻略対象が変わる場合がある」
長い。
でも消さない。
第13話。
3秒。
第14話。
縛りなし。
第15話。
食べない。
そして今日。
攻略対象を決めない。
私は少しずつ、
できることを増やしているわけではない。
むしろ逆かもしれない。
今まで一つだったものを、
分けている。
食材。
敵。
素材。
対象。
価値。
必要。
最適。
それぞれを。
別々に。
これは、
効率が悪い。
考える項目が増えるからだ。
でも。
今のところ、
やめる理由はない。
私は記録帳を閉じる。
最後に一行。
「次回:判断変数増加による処理時間への影響を確認」
少し考える。
その下。
「ただし、速ければ良いとは限らない」
さらに。
「この一文は非常に非効率」
書いた。
少しだけ笑った。
前衛、準備よし。
────────────────────
◇クルー視点モノローグ
翌朝。
食堂。
摩天はいつも通り食べていた。
量もいつも通り。
速度もいつも通り。
違うのは、
一度だけ手が止まったことだった。
皿の上。
最後に残った一切れの肉。
摩天はそれを見る。
食べる。
それだけ。
誰も気づかない。
摩天自身も、
特別なことだとは思っていない。
ただ。
その日の記録帳には、
以前なら存在しなかった文章が一つ増えていた。
「食べられる」
の下。
「食べたい」
さらにその下。
「食べる必要がある」
そして、
三つの項目の横には、
同じ答えではなく、
それぞれ別の空欄が作られていた。
まだ何も記入されていない。
けれど。
摩天はもう、
それらが同じ質問ではないことだけは知っている。
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◇M社内部記録
《第160層探索結果》
取得食材:0
取得素材:0
取得希少資源:0
討伐対象:2
救助対象:26
攻略効率:低
判断変数増加:確認
既存評価基準からの逸脱:継続
新規分類候補:
《TARGET SELECTION》
対象選定。
備考。
「対象を発見したことと、対象を攻略すべきと判断することの分離を確認」
追加記録。
「摩天個体において、価値最大化以外の選択基準が継続的に発生」
重要度。
中。
さらに数秒後。
自動判定が、
中
から、
高
へ変更された。
理由欄には、
一行だけ追加された。
《最適解を認識した状態で、別解を選択》
そして、
誰にも読まれないまま、
次の項目が生成された。
《QUESTION》
「最適解とは、誰にとっての最適解か?」




