表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
XNUMX  作者: 一太
PR
50/51

xnumx(95)~ (96)

(95)一般的な中年男性だから少し勘が鈍いところがあるんだ。


「カズはさ、セーラちゃんの・・えっと、心もよう・・じゃない、心のこり・・じゃない」

「心当たり?」

「そう、それ!行きそうな所の心当たりはないの?」

「セーラが行きそうな所かぁ・・実家だと思ったんだけど、行ってないようだし・・」

「地元の溜り場とかはなかったの?うちの方はイオンだったけど」

「キミの所もまぁまぁ田舎みたいだね。でもこの辺りは御覧の通りイオンもスタバもないし、見渡す限りの畑、畑、畑だよ」

「おさかな天国の歌詞みたい。」

「ん?」

「いや、いいの。でもどっか思い出の場所とかはないの?」

「残念ながら・・ないね。海岸とか見晴らしの良い公園もないし。」

 俺の言葉を聞いて沢口明菜は一度腕を組んで「うーん」と言いながら、右手の人差し指をこめかみにコツコツと当てた。

「セーラは中学受験をして小学校卒業と同時に地元を離れてしまったし、マツシタも同じタイミングで地元の横浜に戻ってしまったから俺達は、実質小4から小6の二年間しかここで顔を合わせていなかったんだ。だから二人とは青春と呼べるような思い出は全く共有してなくて、この土地で思い出すのは小学校の頃のランドセルをしょった彼らの姿だけなんだよ」

「セーラちゃんの仲良かった女子の友達は?」

「ああ・・こう言うと彼女には申し訳ないけど、誰が見ても当時のセーラは同性にあまり好かれていなくてね、友達らしい女の子はいなかったと思う。だから俺とマツシタが作っていた学級新聞を手伝ったりしてくれてたんだ」

「ふーん・・・じゃあ、その小学校は?」

「・・小学校?」

「うん、セーラちゃんにとってもこの辺じゃ小学校ぐらいしか思い出の場所ってないんじゃないの?」

「・・まぁそうかも知れないけど、あそこはもう十年ぐらい前に廃校になっててね、建物はまだ残ってるだろうけど、行ったところで何か出来るわけじゃないよ。寝泊り出来るわけじゃないし、せいぜい金網をくぐって校庭をブラつくぐらいさ」

「校庭をブラついてるかもよ」

「あれ?やまびこかな?今俺が言った言葉がそのまま返ってきたぞ。」

「茶化さないでよ」

「ごめん、ごめん。でも今学校に行って偶然、母校を訪れたセーラと出会えるとはやっぱり思えないよ」

「でも確率は0じゃない。」

「ああ、確かに0じゃない。でも限りなく0に近い。渋谷で野生のイリオモテヤマネコに出会うぐらいの確率で」

「カズのそういう例え好きだけど、今はムカつく」

「すまない」

「だって、アタシの言いたい事が全然分かってないんだもん」

 彼女はパーカーのポケットに両腕を入れて下を向いた。その姿はとても幼く見えた。

「俺は一般的な中年男性だから少し勘が鈍いところがあるんだ。言いたい事はダイレクトに頼むよ」

「もちろんアタシだって実家に行ってないセーラちゃんがホームレスみたいに廃校に泊ってるとは思わないよ。流石にアタシのいたリゾート・オハラじゃないと思うけど、友達がいないならどっか目立たない宿泊施設に隠れてるんだと思う。でも今聞いた話だとセーラちゃんにとっても楽しい思い出はきっと二人といた小学校の2年間だけだと思うの。だったら久しぶりに帰って来て特にやる事もなければ、学校には絶対行くと思う。何となく足がそっちに向かっちゃうんだよ・・そういうもんでしょ?んで行ったとしたらそこでカズの事やテッちゃんの事を考えるはず。考えたくなくてもね。そしたらきっと(自分はここに来たよ)っていう印?、小さな証しみたいな物を残すと思うんだ」

「・・どうして?」

「カズに気づいて欲しいからに決まってんじゃん、バカ!!」

 そう言って沢口明菜は俺のケツを蹴った。

「イテテ・・そうか・・?」

「だからタイミング良く会えなくたっていいんだよ、注意深く校内を見て回れば、きっと何かヒントが落ちてるって!」

「そうかな・・」

 ・・俺にはどうも沢口明菜の言っている事のイメージが湧かなかったが、彼女の発する言葉には何か説得力があった。・・・確かにそうかも知れない。あらゆる物事において可能性が全くの0になる事は存在しないのだから、目の前の壁を崩したければ思いついた方法を片っ端から試せばいい。

「学校まで・・少し距離があるけど歩けるかい?」

「若者の足腰なめんなよ」

 俺達はさっきよりも少し早い足取りで我が母校、六角橋小学校に向かって歩き出した。


 

         ~ その前日(12月30日)の二人の刑事 ~


 J市に到着してすぐ、若島津と宮元は滞在先のホテルのベッドの上に、持ってきた大量の捜査資料を広げていた。建物の中では最も安い部屋で、白を基調とした室内は清潔ではあるがお金のない学生カップルが初めての旅行で使用するような狭い間取りだ。結局のところ旅行とは名ばかりで、大して観光もせずにセックスして眠るだけ。シャワーとベッドがあればいい。そういうニーズに応える為の部屋で、二人の刑事は今後の捜査方針を固めていた。


「若さん、上の階に泊ってる沢口明菜はとりあえず泳がしておいて、やっぱり海江田の実家から攻めるのが妥当なんじゃないですか?」と金縁の細いフレームの眼鏡をかけ、黒髪を真ん中で分けた宮元が言った。

「まぁそうだろうな・・」と刈り込んだ白髪で、皴なのか傷なのか分からない無数の筋を顔に這わせた若島津は、マイルドセブンに火をつけながら応えた。

「あれ?この部屋、禁煙じゃありませんでした?」

「知らねーよ、野暮なこと言うな」

「すいません。でも沢口の部屋は最上階のスイートですもんね、喫煙ルームもあるのかな。きっとここより全然広くて景色もいいんでしょうねー」

「そりゃそうだろう、そこに俺の娘みてぇなガキが一人で泊ってやがるんだ」

「娘じゃなくて孫でしょう?」

「うるせーよ、進めろ」

「はい。しかし新幹線内での彼らは面白かったですね、カワハラが沢口を(自分の姪)って言った時には笑いそうになりましたよ」

「ああ。だが、まさかあの野郎が死んだ漫画家の件の重要参考人でもある沢口とも連るんでるとはな。・・こりゃ相当デカい山だぞ」

「ええ。通常捜査のようにそれなりの人員割ければ助かるんですけど」

「バカか。あの漫画家は世間じゃただの病死で終わってんだ、県警だって同じ見解で済ませただろ、動かねーよ」

「分かってますよ、表向きはモウリだってそうでしょう?沢口の母親も。だから我々がこうやって内密に・・・」

「分かってんならくだらねぇ事を言うな。」

「そんなに怒らないでくださいよ、僕はあくまでもう少し人手があったらいいなーという希望を言っただけです・・で、どうします?やっぱり海江田の実家から・・」

「いや・・・海江田ん家はいい。」

「え?」

「海江田の母ちゃんはフィリピン人だろ?あいつらは自分の身内を売るような事はしない。娘の事は訊いても話さねぇだろう」

「では、そもそもセーラは実家に戻ってもいないと?」

「ああ。日本にいる外国人、特にアジア系の横の繋がりはすごい。やつらだけのコミュニティの情報網は俺達でも侮れねぇもんだ。海江田は、娘が何らかのトラブルに巻き込まれて地元に戻って来ることを少し前から分かっていただろうな。それで娘が戻って来ても家にいる方が危険だと、わざと寄せ付けないようしているはずだろうからな。」

「なるほど・・・」

 若島津は煙を鼻から吹き出しながら「信じねぇか?」と言った。

 宮元は眼鏡を中指で押し上げて「まさか。」と言った。

「自分は若さんの勘が、いわゆる(刑事の勘)をはるかに凌ぐモノだって知ってますから。その力を買われてただの地方交番勤務から日本のCIAと言われる(別班)に引き抜かれたんだって」

「ふっ、おめぇだってそうだろ?どんな力があるか知らねーが、元々刑事でもない二十代のやつが別班に入ってるなんてただ事じゃねーぞ。」

「僕は別に一生フリーランスのSEでも良かったんですけどね」

「・・ったく、食えねぇヤツだ。」

「じゃあ海江田の家は止めて、どこから探ります?」

「そうだなぁ~・・・確か海江田とカワハラと漫画家は、ガキの頃同級生だったんだよな?」

「はい、この資料によると・・小学校が一緒です。セーラとカワハラは一年から同じ学校で、四年の時に漫画家・・マツシタが転校して来てますね。それから卒業までの約二年間、三人はクラスメイトです」

「ふぅー・・ってこたぁ・・やっぱり学校だろうなぁ・・」

「えーと、彼らの母校は1999年に廃校になってるようです、まぁ地元に残ってる同級生もいるかも知れないんで、近所で卒業生とかをあたりますか?」

「まぁそれもいいが、なにも今いる人間に話を聞かなくてもいいんだ。学校の跡地に行けばいい。出来事があった場所、始まった場所、場所そのものが俺たちに情報をくれる」

「・・そういうもんですか?」

「現場百遍って言ってな、そういうもんなんだよ」

「昭和ですね」

「ああ、古き良き昭和の魂よ。文句あっか?」

「いいえ」

 若島津はジャケットの胸ポケットから携帯灰皿を取り出し、煙草をねじ切るようにして消した。そのしぐさを見て宮元は、書類を鍵付きのバッグの中に片づけた。若島津が出発の合図を出した事に気づいたからだ。そしてハンガーから二着のコートを下ろし、濃いグレーの方を若島津に渡して薄い方を着用した。

「おい、宮元」

「はい?」

 先に部屋を出ようとした宮元が振り向くと若島津の手には赤いカプセルが二錠乗っていた。

「一つ飲め」

「何ですかこれ?」

「これからアッチの方に向かうからな、心までアッチに行かないように意識をコッチに留めておく薬だ」

「はぁ・・出来れば変な物は飲みたくないんですけど・・上の命令ですか?」

「そうだ」

「分かりました」

 二人はカプセルを一錠ずつ飲み込んで部屋を出た。



(96)どうやら同じ場所で違う物を見ているみたいだ


 本通りから見渡す限りの田畑を抜けて林道を東へ進むと、町境に偏西風が吹き溜まりやすい盆地があり、堆い山々が囲むその中に小さな学校がある。

 J市立K町六角橋小学校。K町の子供たちが必ず通ったその学校は、過疎化による急激な児童の減少で創立75年目の年に廃校になった。今ではこの土地に住む数少ない子供たちはバス通学で駅前の小学校に通っている。

 

 ホテル・リゾート・オハラからローカル線の駅を使ってK町に行き、そこからタクシーで約30分。トータルで一時間半ほどかかって、やっとの思いで二人の刑事は廃墟と化した学校に到着した。

「この3690円のタクシー代は経費で落ちますかね?」と宮元が言った。

「無理だろうな」と若島津が言った。「新幹線も宿代も俺が出してんだ、文句言うな」

「ええー」

 既に日は暮れ始め、ひとけもなければ周囲に灯りらしい灯りもない。ほどなく全ては闇に包まれるだろう。何も見えなくなる前に、何かを見つけなければならないと若島津は考えていたが、それは宮元も同じだった。

 敷地を囲うように金網が設置されていて、入り口には門はなく、そこに鎖が斜め十字にかけられて立ち入り禁止の金看板が張り付けられている。近辺の草木は伸び放題で、それらが図らずも何者かの侵入を拒む規制線の効果を生んでいる。ここで誰も死んではいないだろうが、なぜか死を連想させるような場所になっていた。

 あまりにも田舎過ぎて落書きや肝試しに来る人間もいないんだろうな、と思いながら宮元は金網の目立たない一部をバッグに忍ばせていた小さなペンチで挟み切った。

「小せえ穴だな、お前は入れるだろうが、俺には無理だ。もう少し広げろ」と若島津は言った。

「はいはい・・僕はあんまりこういうタスクには向いていないんですけどね」と不平を言いながら宮元はもう何本かの鉄線を切った。

 

 敷地内に入ると校舎の裏側も山林のせいか運動場はさほど広くもなく、一目で見渡す事が出来た。少し錆びた鉄棒が何台かと、ネットの無くなったサッカーゴール、バスケットゴールが二つずつ。乾いた砂に短距離走用のコースの目印であったであろう何かが、間隔を置いて埋まっている以外には特に何もない。二人は無言のまま校舎の方へと向かった。

 まだ使われなくなって10年足らずだからか、よく見れば外壁に多少の経年変化は見られるものの建物自体が荒廃しているというほどではない。掃除をすれば何か違う使い道があるかも知れない・・例えばドラマや映画の撮影なんてどうだろう?と宮元は思った。でも誰がわざわざこんな辺鄙な場所まで大勢の人間を引き連れて何かしようと思うのだろうか?

「どうしてもっと町に近くて広い場所に建てなかったんですかね?来る途中、土地なんていくらでも余ってるように見えましたけど。子供達もここまで通うのは大変だったんじゃないですかね」と宮元は言った。

「まぁな。だが・・いや、だからこそ、何かここじゃなきゃいけない理由があるんじゃねーか?」と若島津は言った。

「なるほど・・流石です」

「おだててもタクシー代は出ねーぞ」

「分かってますよ」

 ガラスの無くなった一階の窓を跨いで二人は校舎内に侵入し、ワックスが完全に乾ききって歯ぎしりのような音を立てる廊下を歩いて行った。


 木造二階建ての狭い建物は六学年全て一クラスずつの教室と、他は音楽室、家庭科室、理科室、職員室などで、全てを見回っても大した時間はかからなかった。室内はどれも数脚の椅子と机が残っていて、それらは一様に埃にまみれて床に倒れていた。水分のない木の匂いと、酸化した鉄の匂い、黒板は白く変色し、放置された備品や筆記用具もはるか昔に役目を終えているようだった。五年生の教室の壁にびりびりに破れた99年春の運動会のお知らせが張り付いていたが、それは廃校寸前の頃の物で、二人が捜す数十年前の卒業生について何かを知り得るような痕跡は、当然だが残っていなかった。窓の外から射す西日はそんな人間たちの勝手な問題など素知らぬ顔で、さっさと山間に隠れてしまおうと急ぎ足で落陽していた。


「何もありませんねぇ・・まぁカワハラやカイエダが卒業したのは20年以上前ですし・・」と宮元は、前を歩く若島津に向かって言った。しかし返答がなかったのでそのまま話し続けた。

「そろそろ引き上げましょうか?日が落ちて視界も悪くなってきましたし、そろそろ夕食時ですしね。・・あ、ラーメンなんてどうです?タクシーに乗ってすぐ美味そうなラーメン屋がぽつんとありましたよね?帰りに寄っていきませんか?」

 若島津は背中を向けたまま「緊張感がねぇやつだな、ラーメン屋なんてあったか?」と言った。

「ありましたよ、町中華みたいな渋い店が。あそこからなら駅までも歩いて戻れそうですし、帰りに店の前でタクシーを降りれば・・・」

「なぁ」と若島津は宮元の会話を止めて、足を止めた。

「おっと、どうしました?」

「ここから中庭に出れるんだよな?」

 そこは一階の図書室の前の廊下で、突然壁が途切れていて中庭に出れるようになっている。

「そう・・みたいですね、開放的ですね」と宮元は、あまり興味なさそうに応えた。

「ここが開放的か?」と言いながら、若島津は中庭の方へと出て行った。

 宮元は「やっぱり行くんだ」と独り言をいってからコートの肩をすくめてついて行った。

 中庭は狭く、申し訳程度の花壇と、真冬な上に世話をする人間がいないせいで枯れかけた大きな木が一本植えられているだけだった。その奥は金網が張られていて、そこを越えるともう山林が広がっている。二人は枯れ木の横で立ち止まった。

「変な造りじゃねーか?進入禁止の金網がなければ、山からそのまま中庭に繋がってる感じだ。」

「そう・・ですね、校舎自体もコの字型ですし。中庭をわざわざ作ったような・・」

「だよな、俺達が入って来たのは北側だったから、コの字で言うと上のー(横棒)辺りからだろ?」

「そうです、コの上の横棒の端から入って書き順のように|(縦棒)を歩いて、その後下のー(横棒)を進みました。それから2階に上がって1階とは逆の順序で南側から見て回って、また1階に戻って来た感じです。」

「ここの図書室はコの字の|の丁度真ん中辺りだろ?そこからしか中庭に出れねぇ造りだよな」

「ですね、あとは校舎を入らずに外を回るか・・・」

「山からの風をわざと塞き止めるような、不自然なコの字型の校舎か・・・」

「あ、雨降ってきましたよ」と言って、宮元はそうそうに屋根のある校舎の方へと引き返した。

「ん?雨なんて降ってるか?・・くそう、日も暮れてきたし、今日はここまでか・・」と若島津も校舎内に戻ろうとした。

 すると先に図書室前の廊下に入った宮元が「ところで若さん、我々はどうしてこんな辺鄙なところに来たんでしたっけ?・・これ、なんの捜査ヤマですか?」と言った。

「あ?・・お前、どうしたんだ急に」と若島津は宮元の方を見た。

 宮元は若島津の後方を見ているかと思うと突然「ああっ!」と声を上げた。

「あっち!金網の向こう側に人影が!」

「何?」若島津が振り返って金網の方を見ると、暗闇の中に小さな白っぽい影が動いているように見えた。若島津は校舎に入らず、中庭の木の辺りまで急いで戻った。・・・よく見ると金網から10メートルほど奥の木々の間に何者かがいるように見える。だが暗くてよく見えない。若島津はジャケットの内側にH&K自動拳銃がある事を無意識的に確認した。

 その緊張感の中、宮元が「デカ!なんだ、あのババア」と中庭に向かって声を上げた。

「でかい?」

 若島津は林の方を見ながらジャケットに手を入れ、ゆっくりと金網に近づいて行った・・・するとその人影が白っぽい着物を着た、小さな老婆である事がわかった。・・なんだ小柄な老人じゃないか。

 若島津は少し緊張感がほどけたものの、老婆からは目を離さずに「おい、宮元、一体お前にはどう見えてるんだ?」と言った。

 宮元は校舎の中から「えーっと金網から10メートルほど先、霧雨の降る林の中に180センチぐらいのお婆ちゃんが見えます。霧がかっていて細部は把握出来ませんが、手拭いのような物を被っていて・・農家のような恰好ですね・・雨の中立ち尽くしてこちらを見ています、何か怖い、何とも言えない存在感です」

「霧雨?さっきから言ってる雨って言うのはなんだ!?」

「え?雨は雨ですよ、天気雨のような霧雨が降ってますよね?・・日が暮れてきてますけど雲間から夕日が射して、若さんの横の大木を照らしています」

「なに?・・・俺にはな、金網から10メートル先に白い着物を着た、推定140センチほどの小柄な老婆が見えてるよ、日が暮れて真っ暗に近いが、雨は降っていない」

「えっ!それ、どういう事ですか!?」

「・・俺達は、どうやら同じ場所で違う物を見ているみたいだぞ」

「マジですか?!天候も違うじゃないですか!」

「ああ。・・・そうか、お前・・さては、さっき赤いカプセルを飲まなかっただろう!」と若島津は宮元の方を振り返って怒鳴った。

「あっ!・・いや・・すいません!・・飲んだフリしました・・よく分からない物を飲んでお腹壊したくなかったもんで・・」

「バカやろう!そのせいでアッチ側に引っ張られて、任務も忘れかけてんじゃねぇか!」

「すいません!捨ててはいないんで、すぐ飲みます!!」

 宮元はシャツの胸ポケットから赤いカプセルを取り出して急いで飲んだ。

 若島津は振り返り、金網の方へ向かって行ったが着物を着た小さな老婆の姿はもうどこにもなかった。

 校舎の方から宮元が「あ、雨やんだ」と言った。

来週からは1話ずつ公開になります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ