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XNUMX  作者: 一太
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(97)コーヒーとミルクでカフェオレみたいに。

今週から一話ずつ公開の、週一連載となります。

「おーい、おーい、我々は警察だ、少し話を聞かせてくれー」と、金網を隔てた林に向かって若島津は何度か呼びかけたが、その声は枯れ木に乱反射しながら暗闇の中に虚しく吸い込まれていった。

 駆け寄って来た宮元が「今のは・・一体なんだったんですかね」と言った。

 若島津は(しっかりしろ)という仕草で宮元の肩を叩いてから「さあな」と言った。

 二人は校舎に戻ろうと歩き出したが、中庭の中央に植えられたヒマラヤスギの横で若島津が突然しゃがみ込んだ。

「おい、宮元、これ見ろ」

「はい?」

 宮元も屈んで、若島津が指した場所を見てみると、木の根に近い場所の土がほんの少し盛り上がっていた。つい最近誰かが埋め直したように、12センチ四方程度の土の色が他とは違っている。

 若島津が素手で掘り返そうとすると、宮元はそれを手で制止し、バッグから小さな熊手のような物を出して土を退かしていった。

 しばらく掘っていったところで宮元が「何も・・ないですね」と言った。

「ああ、深くは掘ってないな」と若島津も同意した。

 確かにそれは本格的に穴を掘ったような跡ではなく、枝か何かで少し(探ってみた)ような痕跡だった。

「・・何かを埋めたんじゃなくて、埋まっていた何かを確認したかった、という感じですね」と宮元は言った。

「だろうな。だが、間違いない。」

「えっ?」

「これはカイエダだ。カイエダはここに来ている」と言いながら、若島津は痛む膝を徐々に伸ばしながらゆっくりと立ち上がった。


 その後、二人の刑事は暗闇に閉ざされた廃校を出て、少し舗装された道から電話でタクシーを呼んだ。待っている時間に多くの言葉は交わさなかった。ただ若島津が宮元に「あの薬は現実と(それ以外)を区別する薬だ(こういう任務)の時はちゃんと飲め」とだけ言い、宮元は頷いた。

 意外にも5分ほどですぐに来たタクシーは、やはりここまで送り届けてくれた運転手だった。やたらと話しかけてくるタイプの初老の男性で、今自分は丁度近くでご飯を食べていたのだ、と言った。

「タイミングがよかったね、こんな所じゃタクシー呼んでも中々来ないよ。ところでさっきも聞こうと思ったんだけどさ、なんでわざわざこんな辺鄙なとこまで来たの?」と、ほんのり酒の匂いをさせながら運転手が訊いてきた。

 宮元はお得意の作り笑顔と社交性を発揮して「親族に不幸がありましてね」とすぐに答えた。確かに二人はダークスーツで、県外から弔事に来た人間のようにも見えた。

「そうかいそうかい、そりゃ寂しいねぇ、ここら辺もどんどん人が減っていくなぁ」

「運転手さんは地元の方ですよね?このK町は九に頭に流布と書きますけど、読み方はクズリュウ・・・」と宮元が訊くと、運転手はよく聞かれる質問に「ああ、クトゥルフ。九頭流布町ね。まぁ、県外の人には読めねぇよなぁ」と素早く答えた。

「クトゥルフって読むんですか・・なんだか北方領土みたい地名ですね。」

「そうかい?」

「・・・あ!もしかしてクトゥルフ神話と何か関係があるんですか?30年代に活躍した米作家ラヴクラフトの・・・」

「ん?誰だい、そりゃ?」

「あ、いや・・でもあれは、頭文字がKじゃなくてCか。」

「お兄さん博学だねー、良い学校出てるんだろう?俺には何の事だが分からないよ」

「そうですか・・。ところで運転手さん、さっきご飯を食べたと言ってましたけど、駅寄りにあるラーメン屋さんですか?」

「ん?ラーメン屋?いや、ラーメン屋なんてないよ。・・ああ、そうだな、確か30年ぐらい前は一軒あったね、でももうこの辺には飯処なんてねぇから、俺は今知り合いの農家の家にお呼ばれしてきたんだよ」

「ああ・・無いんですね、やっぱり。」

 宮元は若島津の方を見た。若島津は運転手との会話を全て宮元に任せて、腕組みをしたまま考え事をしていた。

 ・・・俺がさっき見たあの着物の老婆は実在する人間だ・・だが、ただの地元の人間にしてはやけに(雰囲気)がありやがった・・・話が出来ればあの場所について少しは教えて貰えたかも知れないが・・・中庭の木の根にあった掘り返しの形跡はカイエダだろう・・俺の勘がそう言っている・・しかし独特な校舎の造りといい、宮元が見た景色といい、あそこにはそれ以上の何かがある・・・九頭流布町・・六角橋小学校・・・三人の出会い・・・。

 タクシーは乗車した時と同じくローカル線のイワサキ駅前に停まった。

「はい、4320円」と運転手は言った。

「えっ?行きは3690円でしたよ」と宮元は言った。

「そう?そんな事言われてもなぁ・・別に遠回りはしてないよ、他に道なんてないんだから」

「・・まぁ、確かに回り道できる道路がなかったですね・・・」

 しぶしぶ財布を出そうとする宮元をよそに、若島津は五千円札を運転手に渡し「釣りはいらないから」と言ってさっさと車を降りて行った。

「あ、待ってください!」宮元はバッグ抱えて若島津を追いかけた。

「おい、宮元」

「はい」

「駅ん中の立ち食いでいいから蕎麦奢れよ」と若島津は言った。

 追い付いた宮元は「もちろんです、一緒にコロッケもどうぞ」と言った。

 二人は寒さから逃げ込むように駆け足で駅に向かいながら短い言葉を交わした。

「行きのタクシー代は369だったって言ったよな?」

「はい、そうです」

「九頭流布町、六角橋小学校で、カワハラ、カツシタ、カイエダの三人が出会った・・・」

「え?・・それが何か?」

「さっきホテルでお前に、先にチェックインした沢口明菜を尾けさせて部屋番号確認させただろ?」

「はい・・・えっ!?」

「覚えてるな、何番だ?」

「リゾート・オハラ、369号室でした・・」

 二人は構内に入って次の電車があと一時間近く来ない事を確認してから、切符を買ってホームの中にある立ち食い蕎麦屋に向かった。

 若島津は「ただの偶然の一致、数字の語呂合わせだと思うか?」と言った。

 宮元は「いえ。・・円・・ニコラ・テスラが発見した周波数・・弥勒ミロク菩薩・・・東洋哲学者の老子も3は万物を生む数字だと言っていましたし・・」と応えた。

「ああ、数字っていうのはただのカズじゃねぇんだ。記号、暗号・・またはそれを解くパスワードでもあるからな」

「なるほど・・・」

「分からねぇが、俺達は刑事としてカイエダを確保する事よりも、別班としてこの土地を調べる事を優先した方がいいのかもな。」と言いながら、若島津は蕎麦屋の暖簾をくぐった。


           

            ~ その翌日(12月31日) ~


「なんだって!?キミもバンバに会ってるのか?」

「うん、ちょっとね」

 俺と沢口明菜は林道を歩いて我が母校、六角橋小学校に向かっていた。幸い風もなく、太陽は真上に昇り、大晦日とはいえ肌寒さの中に自然の温もりを感じられる。このぐらいが冬の散歩には適切な時間かも知れない。

 あの小さな商店からすでに20分ほど歩いているが、その間に俺は沢口明菜にせがまれるまま、アリスとの出会いを簡単に説明した。

 ノアール・ホテルでセーラの代わりにオチアイ・ユキエというカウンセラーに会い、その後ホテルを経営している新日本連合の人間たちに監禁されて「ここに出入りするな」と釘を刺された事や、深夜に解放された後、気づいたら家の近くの駐車場に停まっている自分の車(実際にはセーラのだが)の中にいて、そしてそこに(売春の仕事の後)迷子になっていたアリスが偶然現れて出会ったという事を話した。

 そんな中、バンバについて沢口明菜が「ねぇ、そのオチアイっていう人って白髪の短髪?」と訊いてきた。

「ああ、そうだよ」

「韓国ドラマ好き?」

「ああ、確かそうだ」

「手作りドーナツ超ウマい?」

「美味いね・・ん?もしかして知ってるのか?」

「うん、アタシもその人に会ったことあるかも」

「なんだって!?キミもバンバに会ってるのか?」

「うん、ちょっとね」

 ・・という話の流れになったのだ。


「そっか、サッちゃんの本名はオチアイっていうんだ」

「いや、逆だよ。バンバ・サチヲが本名でオチアイはカウンセラーの時に名乗ってる名前らしい」

「ふーん」

「キミはいつどこでバンバに会ったんだ?」

「うーん・・・」

 沢口明菜は歩きながらジャンプしてギリギリ届くぐらいの木の枝をはたいた後「今は言いたくない」と言った。

「そうか。」

「それよりカズ、アリスちゃんとはHした?」

「してないよ!」・・・いや、してないはず・・。

「ふーん。・・だってその日泊って帰ったんでしょ?初対面なのに」

「でも相手は男で子供だよ。深夜で電車もなくって送ってあげたかったけど、俺は変な薬をヤクザに打たれていて意識濛々としてたんだ。」

「・・ふーん」

「そもそも俺はロリコンでもゲイでもない」

「そうだろうけどさ、確かにアリスちゃんは男の子で中学生だけど、あの子に惹かれるのっていうのは、そういう理由だけじゃないと思う。」

「俺は惹かれてるってわけでもないよ」

「でも嫌いじゃないでしょ?今も家に住まわせているんだし」

「まぁね」

「最後まで聞いてよ。例えばカズがアリスちゃんと寝てて、未成年との性交渉の罪で捕まったとしたら世間は多分、どっかのロリコンのゲイのおっさんがまた逮捕されたってニュースで騒ぎ立てるだろうけど、それはあくまで知らない人たちが数字的な年齢と、生物学的な性別だけを見て言ってることだと思うのね、でもアリスちゃんはアタシから見てもすっごく魅力的な子だと思うの。アタシも会った瞬間に仲良くなりたいって思ったし、なんて言うか・・それこそ年齢とか性別とかを越えて親しくなりたくなっちゃうのは分かるのね」

「ああ」と俺は適当に返事をした。

「それでさ、この世界じゃ人間同士ってどうやってもすっごく仲良くなっても限界があるじゃない?毎日会いたいっていう友達がいても実際にはなかなか毎日は会えないだろうし、よく連絡とってご飯に行って、旅行とかにも行くっていっても、普通はそれ以上何かするわけでもないし、どうしようもないっていうか・・・。男女だったら付き合って結婚して子供産んでって分かりやすいステップがあるけど、それにしても当事者二人はそのルートを進んで行っても、それ以上には成り様がないでしょ?」

「それでいいじゃないか、真っ当な男女交際を経ての子孫繁栄。現代人の進むべき道だ。」

「だからトランキーロ!」

「すまん」

「・・んで、ましてや、カズとアリスちゃんは男性同士で歳も離れてて、親しくなるルートも方法も確立されてないし・・・だから、もし二人に肉体関係があって、それで世間から非難されたり法で裁かれたとしても、アタシは二人を否定しないよ!(ただ仲良くなりたかっただけ)なんだって、近づく為にはそれしか方法がなかったんだって」

「なるほど、それは心強い。まぁ俺とアリスはそういう関係ではないけどね。・・えーっと、要するにこれは、愛し合う二人には社会的な常識は適応されないっていう話かな?」

「そう・・・でもそれだけじゃない・・・」

「じゃあ結局、何が言いたいんだ?」

「結局・・・結局、アタシはいつも思うの・・」

「ん?」

「自分が愛した人ともっと一体化したいな、って」

「一体化?」

「そう、セックス程度じゃなくて、コーヒーとミルクでカフェオレみたいに。」

「・・・混ざり合いたいって事かな?」

「そう」

「・・カレーとうどんで、カレーうどんみたいに?」

「そう!」

「ロカビリーとパンクでサイコビリーみたいに?」

「それは分かんない!」

 

 道が少し広くなって視野が開けると、山間の盆地に金網に囲われた母校が現れた。二度と訪れる事はないと思っていた六角橋小学校・・・俺は33年ぶりにその前に立っていた。

今週から一話ずつ公開の、週一連載となります。

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