xnumx(93)~(94)
(93)なぜ若い娘は冬に腹を出しててもお腹を壊さないのだろう?
「えっ?じゃあ、あの時カズが言った(アリス)って(アリスちゃん)の事だったんだぁ」
「あの時?」
我々は人っ子一人いない田舎のあぜ道を歩きながら、普段とは違う大声でお互いの記憶をすり合わせようとしていた。きっと都会とは違うパーソナルスペースの広さが気持ちと声を大きくさせているのだろう。
「俺がいつアリスの名前を出したって?」
「初対面の第一声だよ」そう言いながら沢口明菜はキャップを浅めに被りなおした。パーカー、パンツ、スニーカーまで全身XNUMXの黒い服で揃えているが、歩幅は大きく手足を振って自分を隠す必要がない環境にリラックスしている様子だ。
「第一声だったっけ?」
「うん、最初カズの家を尋ねた時にさ、チャイム押してドア開いてすぐに(誰だキミは、アリスの友達か?)って言ったじゃん」
・・・そうか・・12月28日の夜、俺はアリスが家を訪ねてくるのをずっと待っていたんだ・・そこに突然沢口明菜が訪れて・・・。
「そう言えば、あん時もアタシ、このパーカー着てたな、あはは。でも、その言葉はある意味正解だったって事だね、言われたとおり確かにアタシは(アリスの友達)だもん。その時はまさかカズの言ってるアリスが山西アリスの事とは思わなくて(ほかの女と間違えるなよ)とか言って、アタシ切れちゃったけどね、あははは」
そう言われれば、確かそんな会話をしたような気がする・・でもなぜだろう、たかだか数日前の出来事なのに、はるか昔の思い出話をしているようだ・・。俺は気を取り直して質問した。
「ところで、キミとアリスは最初、ジョニー蒼のミュージックビデオの撮影で会ったと聞いたけど?」
「そうそう!・・丁度一年ぐらい前かな?アタシがグラビアデビューしてすぐの時。最初の大きな仕事だったっけ。・・アタシ、今より全然太っててさ、ホントただの巨乳アイドルって感じだったんだけど、なんか直でオファー貰って出演したんだよね。お芝居なんかも全然やった事なくって超キンチョーしてたんだけど、スタジオ言ったらアリスちゃんがいて(何あの子、真っ白で細くって超カワイイじゃん!?)って思ってさ。女の子かと思ったら男の子だし・・アルビノって言うんだっけ?アタシ、そういう人も見た事なくって、マジ透明で向こう側が透けてんのかと思うほど綺麗で、超テンション上がっちゃってさ、すぐ声かけて友達になってもらったんだよねー」
「なるほど」
「話聞いたらアリスちゃん、その時たしか中1とかで学校も全然行ってなくて、アタシも中学不登校気味だったからバイブスが合ってすぐ仲良くなれたんだよね」
「へぇー。・・・撮影の方は上手くいったの?」
「まぁね。セリフとかもなかったし。演技と言っても、天使?みたいな役のアリスちゃんと手を繋いで廃墟みたいな所をウロウロしただけだから。あ、見た事ない?超ヒットした(XX)ダブルエックスっていう曲のMVだよ。最後ちょっとアリスちゃんとのキスシーンもあったんだけどね」
「えっ、未成年だろ?そういうのを撮っていいのか?」
「知らない。でもエンディングのシーンで二人で逃げ回って川みたいな所に飛び込んで、監督に(水の中でキスしろ)って言われたから、した。出来上がった映像だと全然映ってないし、スローで見てもわかんないぐらいだからいいんじゃない?」
分からなければいいってもんでもないだろうが・・・。
「でもね、アリスちゃんは多分、男性が好きなんだと思う。」
「ん?」
「アリスちゃん、あの歳でキスには慣れてるみたいだったけど、感触はまるで同級生の女の子とふざけてしたキスみたいだったんだ。それって多分、アタシが好きになる対象として見られてないって事だと思う」
「そうか・・・。キミはアリスの(仕事)については聞いてるのかな?」
「仕事?モデルじゃなくて?」
「ああ、それは短期バイトのようなものらしい。タレント業・・MVの出演とかもね」
「そっか。確かにあれから他の媒体では全然見かけないもんね。あのルックスならすぐどこかの事務所にスカウトされそうだけど。・・他になんかやってるの?でもまだ中学生でしょ?」
・・・俺は沢口明菜がアリスの(例の話)をてっきり聞いていると思っていたが、どうやらそうではないらしい。その件を俺から話してしまってもいいのだろうか?だが、どちらにしろ今後手助けをして貰うなら話さなくてはいけないだろうし、俺がなぜ今アリスを家に置いているのかを説明する為にはそこを避ける事は出来ない。
「てかカズ、アタシよりアリスちゃんに詳しくない?なんで?」
「そんな事はないが、実を言うと今、アリスは俺の家で生活している」
「えっ、なにそれーーー!!」と叫びながら沢口明菜は十字路で一瞬立ち止まった。
「・・まぁ色々あってね」
「えっ、キスシーンどころじゃないぐらいヤバくない?・・もしかして、付き合ってんの?」
「そんなわけないだろう。ちょっと長くなるけど聞いてもらえるかな」
「うん、怪獣モチロンだよ」
「ん?」
「気にしないで、お父さんの口癖だっただけだから、アタシも意味わかんないし。さ、そんな事より続き続き」
「ああ」
俺たちは行く当てもなく、なぜか駅とは逆の方向に向かって歩を進めた。それはいずれK町を越えてW町に入ってしまう道筋だった。山間には行くなとあれほどノダさんに止められていたのに、俺も沢口明菜もそんな事は少しも頭に過らなかった。
「なるほど・・アリスちゃんは裏で男性相手の売春の仕事をさせられてたんだ・・・」
「ああ、だからキミがアリスを同性愛者だと思うのも無理はない。彼自身、性の傾向はまだ自覚してないようだ。ただ単純に男性の方が慣れているってだけでね」
「・・そっかぁ・・親がいないからって、無理やりそういうのをやらされて・・・可哀そうだね・・じゃあアリスちゃんはヤクザとそこに売春を斡旋してる孤児院の両方から抜け出したくて、今カズの家に逃げているってこと?」
「そういう事、とりあえずうちで匿ってるという感じなんだ。」
「うんうん。・・あ、でも何日もカズが家あけちゃっていいの?今アリスちゃん一人なんでしょ?誰かが探しに来るとか・・」
「そうなんだ。俺とアリスの繋がりを知る人間はいないはずだからしばらくは安全だとは思うけど、一人で置いて来た事は失敗だったかも知れない。何があっても対応できないし・・いっそ連れて来た方がよかったのか・・・」
「うーん・・それは難しそうだよね。カズ、アタシとアリスちゃん連れて歩ける?」
確かに職務質問でもされたら、どういう構成の三人組なのか言い訳が全く思いつかない。しかも沢口明菜なら美人であっても田舎で(普通の女の子)として振る舞う事が出来るが、あの真っ白いアリスの見た目はここではどうやっても目立ってしまう。
「でもしょうがないよね。何かあっても警察に連絡したらすぐ孤児院に連れ戻されちゃうでしょ?」
「そのとおりだ。家に閉じ込めるのは気が進まなかったけど苦肉の策だった。そこでアリスに(誰か信頼できる人間はいるか?)と訊いたらキミの名前が出てきた」
「うっそ!嬉しいんだけど!・・あ、でも今アタシもカズと一緒にいるし、役に立たなくない?」
「確かに、残念ながら今アリスの信頼できる人間は二人ともT県に来てしまっている。それはもう仕方がない。でもキミの方が早く帰るだろうから、都内に戻ってアリスに何かあった時には助けてやってくれないかな?」
「怪獣モチロンだよ!!アタシにとってもアリスちゃんは唯一と言ってもいいぐらいの友達だからね!・・でも、ちょっと前に携帯のメッセージを送ったら既読にもならなくて返信もなかったんだけど・・」
「ああ、それは元締めのヤクザに携帯を壊されたからだ」
「えっ!・・そうなんだ・・」
「だから今は俺の前に使っていたスマホを渡してある。そのアドレスを教えるから、あとでアリスに連絡してやってくれないか?」
「うん、わかった!てか、今でいいよ」
「そうか」俺は自分の携帯電話をカーハートの上着のポケットから取り出した。
「あれっ?・・マジ!?」
「どうした?」
沢口明菜は服にあるポケットというポケットを探り、腰を落としめに穿いたズボンからおへそをチラつかせながら慌てはじめた。しかし、なぜ若い娘は真冬に腹を出していてもお腹を壊さないのだろう?
「やばっ、アタシ、まさかの携帯不携帯!!」
「落としたのか?」
「違う、部屋に置いてきたっぽい。そう言えばお散歩の時も持ってってないかも!」
「そうか・・失くしたんじゃないなら良かった。・・多分こっちに来て、無意識的にそういうものがあまり必要じゃないと感じているのかも知れないね」
「確かに・・・そもそも電波も悪いし・・でもこんな事、小6から携帯を持つようになって初めての事だよ」
「なるほど。そういえば煙草も最近あまり吸ってないようだけど?」
「マジじゃん!!」
「19だっけ?本来はまだ吸っちゃいけない歳だろ」
「あと数か月で二十歳だよ。てか、アタシこっち来て別人になっちゃったのかも?!」
「キミが言うとそのままの意味になっちゃうだろう?」
「あはは、そうか。でもチェンジはしてないから安心して」
「ああ。」
「あっ!」
「どうした?」
沢口明菜の視線を追いかけると、畑の隅に一軒の小さな商店があった。店先にリヤカーのような物が置かれている。
「さっきのサンドウィッチ屋さん!ここから来てたんだ」
(94)なんかスースーしそうだね
沢口明菜は俺を置き去りにして、畑の前の十字路にポツンと佇むその小さな商店へと駆け出して行った。・・だが数メートル走った所で振り返り「あ、あとでアリスちゃんとの出会いについても聞かせてね!どうして四十近いオジサンとアルビノの美少年が出会ったのか、その辺すっごく気になるから!」とだけ言ってもう一度走り出した。・・アリスとの出会いを話すならノアール・ホテルでセーラの代わりにバンバと会った事や、ドラゴンたちに監禁されて拷問を受けた事も話さなければならなくなる。俺は想像しただけで途方もないほど面倒くなって頭を掻いた。
ゆっくり歩きながら店に向かうと、沢口明菜はもう店内で主人と思われる男性と楽しそうに会話をしていた。俺はプラスチック製の薄いドアをスライドさせて中に入った。
「・・・いやマジ、ウリ坊って狂暴なんだって!おじちゃんも可愛いと思って手を出さない方がいいからね、ウリ坊は女と一緒だから!」
「あはは、わかった気をつけるよ」
「・・お邪魔します・・・?」
三坪程度の狭い店内で沢口明菜と盛り上がっているその初老の男性の顔に、俺は見覚えがあった。
「いらっしゃい。・・んん?キミは・・・」
向こうも同じようだ。
「六丁目のカワハラです。鉄工所の・・」
「ああ!カワハラさんのとこの息子さんかー、うん、分かるよ、大きくなったねぇー、確かうちのと同級生だったよね?」
「あ、はい、そうです、えっと・・(息子か娘か分からないぞ)お子さんはお元気ですか?」
「うちのは東京行っちゃってねー、アイツ全然連絡よこさねーんだよ、元気だとは思うんだけど、何やってるんだろうね、あはははは」
「あははは」・・・誰だろう?・・この人は一体誰の父親だっけ?
俺の頭の中ではモーターが高速回転したが、ヒートアップ寸前になっても中々答えを導き出してくれなかった。・・・農業用と思われるグレーのブルゾンに腰だけのエプロンを巻き、白髪の短髪、目は細く、目じりは下がっていて唇が薄い、鼻も特に印象的ではないし・・どれだけよく観察してみてもこの人物と似てる顔は思い当たらなかった。
「この子はキミの娘さんか?・・にしては結構大きいけど、結婚早かったの?」と謎の主人は言った。
「ああ、いや、えーっと・・」
「叔父さんなんです」と、すかさず沢口明菜が言った。「この人はアタシのお父さんの弟なの」
「そう、そうなんです、この子は兄の子で・・」
「ああ、そうか、カワハラさんちは二人息子だったもんな!お兄ちゃん元気?工場継いでるって聞いてたけど全然この辺で見かけないねぇ」
それはそうだ。兄貴のテリトリーは駅寄りのスナックと実家だけ。町はずれのこの辺りに来る事はまずないだろう。ある意味では地元を出た俺よりも偶然の遭遇は難しい生物かも知れない。
「兄も、元気は元気ですよ」
「そうかそうか・・しかしこんなに大きくてべっぴんさんの娘がいるとは知らなかったよ」
「やだーおじちゃん、べっぴんじゃないでしょー、超べっぴんでしょー」
「あははは、確かにそうだ、お嬢さんみたいな子はこの辺じゃ見かけないよ、都会に行って女優でもやればいいのに」
たりめーだ、もうやってるよ、と沢口明菜は小声で言った。
店内を見渡すと品物は殆どが野菜や果物などの青果で、それらが段ボールと籠に入れられて乱雑に置かれていた。銭湯などに置いてあるガラス張りの中が見える縦型冷蔵庫には飲み物類、棚には生活雑貨(いつからあるかわからない歯ブラシやタオル、ティッシュなど)が申し訳程度に置かれていた。無人野菜売り場と、旅行者が(コンビニがないからしかたなく)利用する日用品店を合わせたような品揃えだ。見る限りサンドウィッチは売られていない。
「野菜も果物もうちで作ったもんだ、全部無農薬栽培だぜ。東京の高級レストランにも卸してるんだから」と主人は自慢げに言った。
「あ、おじちゃんさっきのサンドウィッチも美味しかったよ!ここいっそサンドウィッチ屋さんに改装すれば?」と沢口明菜が元も子もない事を言った。
「そうかい?でも、あれはただの道楽さ。休みになって時間が出来ると、なぜか急にサンドウィッチを大量に作りたくなるんだよ。それを家族と朝飯に食って、余りを売り歩いてんだ。不思議なことにとても好評でね、いつも正午ぐらいには売り切れるよ」
「確かにさっきアタシが買ったのが最後だって言ってたもんね。じゃーあのリアカーはいつ来るか分かんないんだ?!激レアじゃん!明日も食べたかったんだけどなー」
「すまんね、でもありがたい事にこの辺の人たちには、あれが食べられたらラッキーな事があるって(幸せのサンドウィッチ)とか呼ばれてるよ、あはは」
俺は食品衛生責任者の資格を持たずに食べ物を売ってる事が気になったが、この辺りの人にとっては物々交換の感覚なのだろうと無理やり納得した。
「流石に年の瀬だから農業も休みでね、今日は久しぶりにリアカーを出したんだ。お嬢ちゃんは運がいいよ」
「やった!良い事あるかなー」
「このお店は長いんですか?」と俺は訊いた。
「いや、この店自体は俺が十年前ぐらいから勝手に始めたもんだからそれほど長くはないよ。でも元々ここはうちの祖父が金物屋をやってた場所なんだ。キミが生まれる前の話だけどね」
「そうなんですね」
「親父は祖父から金物屋を継がずに、農家を始めたんだ。でも親父は週末だけ駅の方でラーメン屋をやってた。道楽でね。俺もその血を受け継いでるのかな?あはは」
・・ラーメン屋?・・・まさかな。
「そのラーメン屋も結構評判良くてさ、わざわざ東京から食べに来た人もいたらしいよ。でも80年代の前半に親父が身体を壊して店を閉めたんだ。そのまま割とすぐに亡くなっちゃったんだけどね」
「そうですか・・」
「それも食べたかったー、てか、おじちゃんがここでサンドウィッチとラーメンのお店やってよ!だってこの辺まともな飲食店ないんだもん」と、沢口明菜は何かを掴んで手に付いた埃を掃いながら言った。
「あはは、そうしようかな。・・そう言えば、さっきお嬢ちゃんに女優になればいいって言ったけどさ、ホントの女優さんが二、三日前にここに来たよ。あの子、地元の子だよね?関西の方に出て女優になったって聞いてたけど、綺麗になっててびっくりしたなー、ほら、あの、お母さんがフィリピン人の・・・」
「えっ!もしかしてセーラですか?!」と俺は慌てて返事をした。
「あれ?そんな名前だったっけ?」
「セーラは芸名です、本名は・・・」
「ああそうか、芸名か。あの子小さい時からこの辺で目立ってたもんねぇ」
「ここに来たんですか?」
「そうそう、あの子ここに来て歯ブラシとタオル買って行ったよ」
・・やっぱりもう戻っていたのか・・もしかして、この辺にいるのか・・?
「あの、どこに宿泊してるとか、いつまでいるとか聞いてませんか?」と俺がどう見ても取り乱しているような喋り方をしていると、沢口明菜が「トランキーロ(焦るなよ)」と小声で言った。
「うーん、分からないなぁ・・元気?とか仕事うまくいってんの?とかそんな当たり障りのない話しかしてないからなぁ~・・でも実家で年越しする為に戻ってきてんじゃないの?キミもそうだろ?」
「ええ、まぁ・・・」違うんだが・・。
「キミとあの子、あとうちの息子もずっと小学校で一緒だったろう?」
「そう・・ですね」この人の子供は息子なのか・・しかし誰なんだ?
「うちのヤツはずっとあの子のことが好きだったんだよ・・・あっ思い出した!そうだ、海江田!海江田さんだったよな?、あの子の苗字」
「そうです」
「綺麗になっちゃったなぁ・・うちの息子じゃあ釣り合わねーか、あはははは」
・・・俺と沢口明菜は欲しくもない瓶のコーラとガムを買い、主人と年末らしい挨拶をして店を出た。一応外観を確認してみたが、看板や表札もなく、結局店主が誰の父親だったのかは分からなかった。
冬の散歩道を歩きながら、沢口明菜は店で開けて貰った瓶コーラを飲み「アタシ、瓶のコーラって初めて飲むよ、こっちの方が美味しく感じるね」と言った。
「そうかもな」と俺はそっけなく答えて、きっと包みを開けないまま存在を忘れるであろうガムを上着のポケットにしまった。
「ねぇ、セーラちゃんの本名何て言うの?さっきおじちゃんが苗字言ってたよね、カイ・・カイ・・なんだっけ?」
「海江田。」
「そうそう、カイエダだ!フルネームは?」
「海江田・モンターメ・文香」
「モンターメ?」
「モンターメはミドルネームでお母さんの方の苗字だったと思う」
「そうなんだ。なんかゴツくてセーラちゃんに合ってないね」
「ああ。でも子供の頃、同級生はみんな彼女の事をメンソレと呼んでいたんだ」
「メンソレ?何それ、アダ名?」
「ああ。当時、幼かった俺たちは彼女のルーツをよく知らなくてね、セーラはこの辺では見かけないハッキリした顔立ちだったから、誰かが(海江田は沖縄生まれだろ?海江田モンターメじゃなくて、海江田メンソーレだ!)って言ってからかった。子供は遠慮がないからね、それでそのうちメンソーレが短縮してメンソレと呼ばれるようになった」
「なにそれイジメじゃん」
「ああ、今の感覚で言えばね。でも悪気はないんだ、田舎では何かでちょっとでも目立てば必ずいじられる。マツシタも転校して来てしばらくの間は田舎の洗礼を強烈に受けていたよ。そういう文化なんだ」
「・・変なの。てかメンソーレってどういう意味?」
「沖縄の方言で、ようこそ、とか、いらっしゃい、みたいな感じだったと思うよ」
「ふーん、なんかスースーしそうだね」
「ん?」
沢口明菜はあっという間にコーラを飲み干して、空き瓶を俺に渡してきた。
「てか、セーラちゃんやっぱ来てるんだね」
「そうみたいだな」
「それが分かっただけでもラッキーサンドウィッチじゃん」
「ああ、ラッキーサンドウィッチだ」
「イエーイ、ラッキーサンドウィッチ!」と言いながら沢口明菜は右手を掲げ、俺たちはパチンとハイタッチをした。




