15学校生活(三山よる編)
三山よるという数学教師について生徒たちに訪ねれば、恐らくその返答の殆どは、自分たちと同レベル、もしくは下、である。生徒受けは良くとも、同じ教師や保護者には受けが悪い、友達のような先生。それが三山よるだ。
加えて言うなら、よく分からない先生でもある。数学教師なのに数学が苦手で、それどころか勉強そのものが苦手で、そのくせ、身体能力に関して言えば、学校内で1番。オリンピック選手にでもなってろよと言わずにいられないハイスペックに加え、屏部の顧問だからか絵も上手い。これは流石に学校で1番ということはないが、それでも10本の指に入るだろう。
つまり、何故わざわざ苦手なもので教師になろうと思ったのか、そして何故なれたのか。5年単位で変化する久野木高校7不思議において、唯一の絶対不変の不思議である。
ただそんな彼女でも分かりやすい点が幾つかあって。その中の1つに特定の教職員に対しての熱烈な好意が上げられる。
とりあえず、生徒の前でいちゃつくなと、千里は声を大にして言いたかった。
「せんせー。部活動のことで質問があるんですけどー」
「おー、何だ?」
声の具合こそいつも通りで、但し右手の先には絞められた、よるの頭がある。離れていても聞こえてくる気がするミシミシと軋む音。何が軋む音なのかは考えたくなくて、千里は必死にタップするよるには気がつかない振りをして、話題を進めることにした。
「春休み中の部活動はどんな感じ何でしょうか?通常通りですか?」
「ああ、それについては次の部活の時に――ってそうか。明後日には終業式だから、もう無いんだな。やれるなら終業式に集まれればその時に話すって伝えて貰えるか?一応連絡網も回すから」
「分かりました。じゃあ伝えておきます」
「おう頼むわ。にしても悪いな。雑用頼んじゃって」
「まあ、整体部の数少ない部の掛け持ちをしていない組ですから。多少の雑用なら構わないですよ」
「そう言って貰えると助か――「抜けたー!でも痛い、超痛い、まだ痛い!何で絞めるのさ!」――るわ。ありがとな」
「いえ。気にしないで下さい。雑用とか、別に嫌いじゃないですから。それじゃあ、私はこれで」
ぺこりと一度頭を下げて。千里が振り返り歩き出すと、その後ろからよるの声が響いた。
「酷いよね!色々と!」
「いいから、次の準備して授業いけよ。煩いから」
「ニャー!」
猫だ、猫が居る。ここに教頭が居れば説教の1つもあったかもしれないが、幸か不幸か不在。ここに残っている先生たちも何も言わなければ、あの2人を止めるものは多分自分以外に居ないのだろうと千里は思い、再び振り返った。
その先には、フシャーッっと牙――八重歯を剥き、周囲に逆立つ尻尾と猫耳を幻視させるよると、呆れ顔の暁深が睨み合いの硬直状態だった。だが、その直後。
「やかましい」
ズパンッ。
「ニャッ!?」
いつの間に持ったのか、暁深が出席簿でよるの頭をしばいた。きっちり1発だけだが、不意打ちで頭に響いたのか、よるが頭を抑えてうずくまる。猫耳が畳まれ、尻尾が力無く垂れているように見えた。
「相手だったら後でしてやるから、兎に角授業に行け。遅れんぞ」
「うぅ、あーい……」
頭を押さえたままで立ち上がり、自分の机で何やら準備を終えてから、よるは職員室を出ていく。
その背を見送り、溜息をこぼして。やはり職員室を出て行こうとした暁深は千里に気がついた。
「どうした?早く戻らないと、授業に遅れるぞ」
「あ、はい」
立ち竦む千里の頭をポンと叩きつつ、暁深がその脇を抜けて職員室を出て行く。
「……やっぱり、訓練が足らないのかなー?」
喧嘩を止めるぞと息巻いたこのやる気をどう処理しようか悩み、千里は肩を落とす。
そんな千里を笑うように、授業開始のチャイムが響いた。遅刻確定である。
久野木高校生に聞きました
Q.先生が喧嘩中だ。どうしますか?
A.
全員-1人「黒本先生とよる先生なら何もしない。それ以外なら校長先生か天宮さんを呼びに行く」
桐生千里「他の先生を呼びに行くか、自分で止めようとしてみます。おかしくないですよね?普通ですよね?」




