10食べてない
*未成年の喫煙描写がありますが、この作品はフィクションです。現実とは関係ありません。
喫煙と飲酒は20歳になってから。
「最近食べてないよねー」
「ん?」
ふと、横合いから声をかけられ、ブラックライズは視線を向ける。そこではスリーナイトが、自分の腕を枕にして、ブラックライズを見上げている。
口と隣接している腕には涎の痕。拭う事無く寝起き一番に、思いついたことを言ったらしい。とりあえず目に留まったので、傍らに置かれたティッシュの箱から数枚取り出して、スリーナイトの口元を拭う。
されるがまま、暫く拭かれてから、それで、とスリーナイトは再び口を開いた。
「ブラックライズ、最近食べてないよね」
「は?」
不意打ちだった為、若干聞き逃し気味だった最初の言葉と同じ事を言われ、ブラックライズは首を傾げる。重要な主語が欠落していることしか分からない。
だが、分かった者がいた。プロフェッサーである。
「そういえばそうだね。最近ブラックライズが食べてるところ、見てないや」
「だから、何の話だって」
自分は察しが悪い方ではないと自負するブラックライズであるが、やはりさっぱり分からない。
こんな時、助け船を出してくれるガーネットとドン・ルークは生憎と不在で、仕方がないと呟いたブラックライズは、彼女たちは何を言いたいのかを、本腰を入れて考えてみることにした。
食べる食べないと言うのだから、恐らく飲食物関係の話だと言うことは容易に想像できる。なら、以前自分が食べていたが、今は食べていない物を考えればいいのかもしれないが、残念なことにそんな品には心当たりがない。一応飲み物についても考えてみるが、やはり心当たりはなかった。
「分からん。さっぱり分からん」
「ん?何が?」
「おまえが言い出した言葉の意味」
「えー。ブラックライズが最近食べてないなって思っただけだよ」
「何を?」
「飴。前はしょっちゅう食べてたじゃん。球体の飴に棒がついた奴」
「飴……ああ、そう言えば食べてたな」
6年程前から3年間。そう言えば毎日、1日に最低10本くらい食べていた気がする。コンビニで1本42円(税込)の輸入販売されてる奴である。徐々に本数が減っていたとは言え、中々馬鹿にならない出費であった。
「でも何で今更思い出したんだ、そんな事?」
「夢で見たの。初めて会ったときも食べてたし。それ以降も、食べていない方が珍しいくらいだったのに」
「私が初めて会ったときも食べてたよね。敵の基地への潜入工作中だったはずなのに……」
「そもそも疑われないか、姿を見られないのどっちかが潜入の前提条件だろ?完璧だったじゃないか」
「それはそうかもしれないけど……」
超目立ってた。目立ちすぎて、誰もが疑わしいと思っても近づきたくないと思わせるくらいに。自分を勧誘にきた別の組織の人間だと聞いたときは、プロフェッサーも耳を疑った。幾ら何でも、マイペース過ぎるだろうと。
「それで?前はあんなに食べてたのに、どうして最近食べてないの?」
「何でって言われてもな。必要なくなったからとしか言いようがないな」
「もともとこれをやめるのに食べてたんだよ」
そう言うブラックライズが右手をピースサインのように2本たて、口の前に持ってきて軽く動かす。
きょとんとした様子のスリーナイトに対して、その動作の意味を察したプロフェッサーが、僅かに渋い顔をした。
「ブラックライズ、タバコ吸ってたの。体に悪いよ」
「もう吸ってないって。やめたんだ。吸ってるとこ、見たこと無いだろ?」
「まあ、止めたなら良いけどさ」
どこか釈然としない様子のプロフェッサーは、ブラックライズの言った言葉を反芻し、ふと引っかかる言葉を見つけた。
「ねえ、ブラックライズ。少なく見積もっても、私とスリーナイトに会った頃に禁煙してたって事だよね?」
「まあ、そうだな」
「それって、今から5年前位だから、その頃ってブラックライズは20歳かそこらだよね?」
「そうだけど、それがどうし--「じゃあ、何歳から吸ってたの?」」
「え?あー……」
言葉を濁しながらブラックライズがプロフェッサーを見ると、まっすぐ向けられたジト目と目があった。
逃げられない。そう察したブラックライズが観念して口を開いた。
「10歳です」
「Sit properly.(正座しろ)」
数時間後。
漸く帰ってきたドン・ルークとガーネットが指令室に入ってきた。
そこで行われていたのは、プロフェッサーの説教であった。
怒られているのはブラックライズ。内容から喫煙に関してのことだと悟ったガーネットが、今更蒸し返すことでもないからと、プロフェッサーを止めようとして、足を止めた。
正座をさせられブラックライズの顔。下に向けられたその顔が、どこか嬉しそうだったから。
大人しく怒られろと、そう思って、ガーネットは普段の自分の席へと歩み出した。
EF幹部に聞きました
Q.好きな飴の味は?
A.ブラックライズ「サイダー。因みに今でも時々食べてる」




