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第4話


それからも時々リジェは海へと行きたがり

ありすの自転車の前カゴに座り込んでは

数時間そこから動かずに

ありすを困らせた。



 

あの日以来、ありすにとってあの海は

確かに小さな傷となり

 

思い出すたびに、頬に受けた

リジェの激しい一撃と

エメラルドの冷たい眸が

ありすの胸を突き刺すように

何度も繰り返し浮かんでくる。



ありすはどんなにリジェが強請っても

二度と海へ連れては行かなかった。


そしてありす自身もいつしかその海を

避けるようになった。



リジェは暫くは執拗に自転車の前カゴに座り

ありすへと向かい激しく泣いては

ありすの心を悩ませたが



諦めたのか、それとも海を忘れたのか

やがて海への執着はなくなり

愛らしくちょっぴり我侭でそして奔放な

いつもの可愛いリジェへと戻り

ありすを心からほっとさせた。



ただ、時々リジェが数時間

家からも家の周りからも消えることがあった。



「リジェも大人になるのだから

テリトリーも広げていかなくちゃね。」



ありすの両親はそう言って

リジェの数時間の外出には

なんの心配も要らないよと言うのだが


長く家を空けたリジェが

戻ってきて、ありすの腕に抱かれたその時


必ずリジェの身体から

潮の香りがすることに

ありすは強い不安を覚えるのだった。



もしかして リジェは

捨てられたあの海を

一人で訪れているのではないだろうか。


ありすはそんな想像をしてみる。



しかしあの途方もなく長い坂道を

小さなリジェがたった一人で下り

海へと向かうなどということは、

考えられることではなかった。



近所のボス猫に苛められては

にゃぉ・・んと怯えて啼きながら

慌ててありすの膝へと戻ってくる

臆病なリジェが。




それでも と、ありすは考える。



もしかすれば、リジェは

自分を捨てた飼い主を

今でも捜し求めているのではないだろうか、と。


もう一度 その人に

逢いたくてたまらないのではないだろうか、と。



そのことを考えると

ありすは寂しさと小さな嫉妬で

心が波のようにざわめき


あの日、ありすの髪を

引き千切るばかりに吹き荒れていた

冷たい冷たい風が

ありすの気持ちを凍らせる。



ありすは海に嫉妬していた。



今なお、リジェの心を捉えて離さない

あの海 あの波 あの空 あの風。







ありすぶるーの空が何処までも広がっている。




ありすとリジェはこの町で

この空を飽きるほど仰ぎ

日々を過ごした。


時には、

同じ風に抱かれて 同じ花を愛で

同じ想いで 小さな胸を

いっぱいに満たし


そして時には 別々の時間を過ごし

異なる雨の音に 心を震わせたりした。





そうして ありすとリジェが

初めてあの海で出逢ってから


いつしか 3年の月日が流れ


リジェは、美しい雌猫に成長し

ありすは、16歳になろうとしていた。








 

 

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