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Eden’s Gate Guardian's ‐エデンの守護者-  作者: Red/春日玲音


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第三十四話 第一回領民会議??

「では、第一回領民会議を始めます」


カスミさんの落ち着いた声が、広間の空気をすっと引き締めた。


……って言っても、ね。


私は内心でこっそり肩をすくめる。


だってこれ、名前だけはすごく立派だけど、要するに「これからどうしよっか〜」っていう相談会なのよ。うん、ほんとに。


参加しているのは、領主のアリシアに、進行役のカスミさん。それからハイエルフ代表のササラさんとシシリーさん、サキュバスとヴァンパイア側からはエルちゃん、マァムさん、カミラさん。そして、なぜか当然のように私も含めて、全部で八人。


なんだか改めて並べてみると、種族も立場もバラバラで、ちょっと面白い集まりだなって思う。


「えっと、まずは私からいいかな?」


最初に手を挙げたのはエルちゃんだった。ちょっと遠慮がちだけど、決意はちゃんとにじんでる声。


話の内容は、意外と重かった。


彼女たちの集落だけじゃなくて、似たように滅びかけた場所が他にもあったらしいこと。そして、その生き残りが今もこの深淵の森のどこかを彷徨っているかもしれないこと。


「できるなら……迎え入れたいの」


そう言ったときのエルちゃんの表情は、すごくまっすぐで。


今までは生き延びるだけで精一杯だった。でも、少し余裕ができた今だからこそ、同胞を見捨てたくない――っていう気持ちが、すごく伝わってきた。


「そういう事なら、私たちも同じですね」


すぐにササラさんが頷く。


ハイエルフの人たちも、長い逃亡の中で仲間と離れ離れになった過去があるらしい。できることなら、その人たちもここに迎えたい、と。


うん、気持ちはよくわかる。


わかるけど――


「う〜ん、領民が増えるのはいいことだけど、トラブルは困るわよ?」


アリシアが腕を組みながら、少しだけ意地悪そうに笑う。


「ちゃんと、この地のあり方に従えるっていうなら、迎えてもいいわ」


あ、この言い方はわりと本気だな。


やさしいけど、線引きはちゃんとしてる。そういうところ、やっぱり領主だよね。


「そうなると住む場所が問題ですねぇ。畑の位置、外に移せますか?」


今度はシシリーさんが、すでに次の段階の話をしてくる。仕事が早い。


「うん、外に拡張した分、内側の畑を更地にすれば、なんとかなると思うよ?」


私がそう答えると、「では早速」と言って、彼女はその場で図面を引き始めた。


……ほんと、行動力すごいなぁ。


その様子を横目で見ながら、エルちゃんがふと首をかしげる。


「そうなると、またゴーレムさんたちが動くのね……ってか、今、くーちゃん様の眷属ってどれぐらいいるの?」


くーちゃん様っていうのは……うん、まあ、私のことなんだけど。ちょっとむずがゆいから、その呼び方やめてほしいなって思いつつ。


「えっとね――」


軽く数を頭の中で整理する。


農作業用のゴーレムが、今で827体。


それぞれに手のひらサイズのファームスパイダーが3〜4匹ついて操縦してるから……それだけで、たぶん2500匹以上。


それに加えて、単独で動いてるスパイダーたちや、護衛役のアークデーモンスパイダーもいるから――


「少なく見積もっても、3000匹は超えてるかな」


言った瞬間、ちょっとだけ場が静かになった。


「何気に一番多いのよね」


アリシアがくすっと笑うけど。


「いやいやいや……」


エルちゃんが、ものすごく呆れた顔をする。


「アークデーモンスパイダーさん一体で国が一つ滅びるって言われてるんですよ?この領地、世界征服でもする気ですか?」


「そんなこと言われてもぉ。あの子たちのご主人様はシズカだしぃ?」


……出た。


アリシアのこの甘えた声。完全に面倒ごとをこっちに投げるときのやつ。


「しないよ、そんな面倒なこと」


私はため息まじりに肩をすくめる。


「まあ、アリシアをいじめる国が出てきたら、みぅと一緒に行って潰すけど?」


「たぶん出来ちゃうのが怖いのですけどね……」


カスミさんが、心底呆れたように言ったあと、小さく咳払いをする。


「……そんなことより、新たな住民とその住居については、ササラさんたちに任せるとして――」


うん、話がちゃんと戻った。えらい。


そこからは、細かい調整や役割分担の話が続いていって。


そして、結局――みんな同じところに行き着いた。


「つまるところ、此処が閉鎖環境だってことが問題なんですね」


マァムさんが静かに言う。


その一言で、全部がまとまった気がした。


ここは、深淵の森の奥深く。


自給自足はできているし、今いるメンバーで暮らすだけなら何も困らない。むしろ、かなり快適なくらい。


でも――それは「今」だけの話。


次の世代のことを考えると、話は変わってくる。


ハイエルフの人たちは一族の繁栄を願ってるし、長命だからこそ、安定して外から男性を迎えたいはず。


サキュバスのエルちゃんたちにとっては、それはもっと切実で……生きていくために必要なことでもある。


そして、その「外」との繋がりを完全に断っているのが――この森。


「なんて言っても、この森の中で一番弱いって言われてる兎さんですら」


カスミさんが、少しだけ苦笑しながら言う。


「A級冒険者のパーティが苦戦するレベルですからね。単独だと、七割方は負けるそうです」


A級冒険者。


それって、人族の間では「英雄」って呼ばれるレベルらしい。


つまり――


人族がここまで辿り着ける可能性は、ほぼゼロ。


外から人を迎え入れるなんて、夢みたいな話で。


……だからこそ。


この問題、思ってるよりずっと大きいのよね。


カスミさんの言葉を受けて、今度はカミラさんが静かに口を開いた。


「私たち魔族でも、この森はヤバいからね」


さらっと言ってるけど、その一言の重さは、ここにいる全員がちゃんと理解してると思う。


魔族は、人族よりもずっと高い身体能力と魔力を持っている種族だ。戦うために生まれてきたような存在――って言っても、ちょっと大げさじゃないくらいには。


その中でも、サキュバスやヴァンパイアは「戦闘特化じゃない」って言われることが多いけど、それでも普通の人族からしたら、十分すぎるくらい強い。


実際、あの森の中で「最弱」なんて言われてる兎さん程度なら、エルちゃんたちでも苦もなく倒せるはずで。


……でも。


「まあ、あの時みたいにね」


エルちゃんが苦笑いを浮かべる。


うん、忘れようにも忘れられないよね。


彼女たちがここに来た時の状況を思い出す。


成す術もなく捕らえられて、あっさり運ばれてきた――その相手が、戦闘用でもなんでもない、ただの農業用のファームスパイダーだったっていう事実。


しかもそのファームスパイダー、この森の中では「中くらいの強さ」扱いなんだよね。


……うん、改めて考えても、やっぱりこの森おかしい。


「今なら、道を作ることもできるんだけどねぇ」


私はぽつりと呟く。


みんなの視線が、自然とこっちに集まった。


「街道を整備して、その周囲に結界を張れば……安全にここまで来れる道は作れると思うよ。ちょっと大変だけど、不可能じゃないし」


自分で言いながら、頭の中ではもう設計図みたいなものが浮かんでる。


ゴーレムたちに作業を任せて、スパイダーたちで巡回させて、要所に強めの結界を配置して――うん、やれないことはない。


でも。


「……それが正解かどうかは、わからないのよね」


言葉の最後は、少しだけ小さくなる。


道ができれば、人は来られるようになる。


でも、それは「いい人」だけじゃない。


むしろ――


「厄介ごとも一緒に連れてくる、ってことよね」


アリシアが、私の考えをそのまま言葉にした。


「そう。盗賊とか、領地を狙う連中とか……ね」


この世界、平和なだけじゃないのは、もう十分すぎるほど知ってる。


だからこそ、軽々しく「外と繋がる」って決めていい問題じゃない。


「まだ出来たばかりの領地だし、焦る必要はないと思うけど……」


カスミさんが、ゆっくりとした口調で言う。


「流通経路は、いずれ必要になりますね」


「むつかしいよねぇ……」


思わず、ため息みたいに言葉がこぼれる。


誰かが悪いわけじゃないし、正解も見えない。ただ、どっちを選んでも何かを抱えることになる――そんな感じ。


気がつけば、みんな少しずつ黙り込んで、それぞれ考え込んでいた。


その時だった。


頭の奥に、ぴりっとした感覚が走る。


――思念波。


しかも、くーちゃんからの。


『空から侵入者……どうする?』


短くて、でもはっきりとした警告。


空から、ってことは――飛行系の何かか、人か、それとも。


一瞬だけ考えて、私はすぐに返事を返す。


(とりあえず捕まえて。無理しないでね)


『了解』


それだけで、通信は切れた。


私は顔を上げて、みんなを見回す。


「ごめん、ちょっと状況が動いたみたい」


自然と、空気が引き締まる。


「侵入者。空からだって」


さて――


今度は会議どころじゃ、なくなりそうだね。

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