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Eden’s Gate Guardian's ‐エデンの守護者-  作者: Red/春日玲音


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第二十七話 Edenの開拓 広がる畑……(遠い目)

「これが――私が開発した農業魔法よっ!」


胸を張って宣言し、私はそのまま静かに地面へ手をついた。

意識を集中させ、ゆっくりと魔力を流し込んでいく。力任せではなく、大地の奥へ染み込ませるように、じわり、じわりと。


やがて――変化は、確かに起こった。


ぐにゃり、と。

これまでびくともしなかった地面が、まるで生き物のようにうねり始める。


「おぉ……」


思わず漏れたアリシアの声が、静かな驚きを帯びていた。


固く締まっていた土は、見る間に性質を変えていく。粘土のように柔らかくなり、持ち上がり、割れ、再び寄り集まりながら形を整えていく。そして――


やがて、きれいに区切られた区画が現れた。


広さはおよそ二メートル四方。小さいながらも、確かに“畑”と呼べる形だ。


「どう!?これなら耕すの簡単でしょ!」


振り返って胸を張ると、


「おぉー……」


「……なるほど」


二人とも、一応は感心してくれている様子だった。


……けれど。


「……反応、薄くない?」


思わず口を尖らせる。


「いや、すごいとは思うよ?」


アリシアが慌てて言葉を添える。


「でも、その……」


「畑の価値が、まだ実感として結びついていないのよ」


カスミさんが、あっさりと核心を突いた。


「うっ」


言い返せない。


「ふ、ふんっ。いいもんね」


腕を組んでそっぽを向く。


「そのうちありがたみがわかるんだから」


とはいえ、このままでは少し悔しい。

私は気を取り直し、次の成果を見せることにした。


「じゃあ、もう一個見せてあげる」


そう言って、先ほどできた畑の脇に積んでおいた土の山へと歩み寄る。

あらかじめ用意しておいた小さな“核”――コアを、その中心に埋め込む。


「いくよ……」


再び、魔力を流し込む。


今度は先ほどよりも繊細に。

ただ動かすのではなく、形を与え、保たせるための制御を意識する。


「――出でよ!農作業ゴーレム!」


その瞬間、ざざっと音を立てて土の山が崩れた。

だが崩壊ではない。内側から押し上げられるように、土が盛り上がり、まとまり、再構成されていく。


やがてそれは、一つの形を取った。


人型。

身長一メートルほどの、小柄な土の人形――ゴーレム。


「おぉーっ!」


今度はアリシアがはっきりと目を輝かせた。


「すごい!ゴーレムだ!」


「……これは、確かに驚いたわ」


カスミさんもまた、明確な驚きを隠さなかった。


「“クリエイトゴーレム”……しかも、この安定性。見事ね」


「えへへ、でしょ?」


思わず頬が緩む。


土魔法の中でも、“クリエイト系”は特殊な領域に属する。単に土を動かすだけでは足りず、形を維持し続けるための精密な魔力操作が求められる。加えて、明確なイメージと持続的な魔力供給――そのどれが欠けても成立しないため、使い手は多くない。


「いつの間にこんなの覚えたの?」


アリシアが不思議そうに首を傾げる。


「覚えたっていうか……作った、かな」


「作った?」


「うん。畑作るの、大変だったから」


あの固い地面と一時間格闘した記憶が蘇る。


「人の手でやるのは無理だなって思って。それなら、魔法でどうにかしようって」


畑を作る魔法と、その作業を担う存在。

その両方を、この一週間で形にしたのだ。


「……なるほど」


カスミさんが静かに頷く。


「確かに、理にかなっているわ」


「でしょ?」


満足げに胸を張った、そのときだった。


ゴーレムが、ぎこちなく腕を持ち上げ――地面へと差し込む。


ざくっ、と。


持ち上げる。


さくり、と。


「……あ」


「え」


ぽろぽろと、崩れる土。


「……え?」


「……掘れてる?」


あれほど苦労した地面が、まるで普通の畑のように、あっさりと耕されていく。


「……すごいね、これ」


アリシアが呆然と呟く。


「うん……」


私自身も、予想以上の成果に少し驚いていた。


「農業、革命かも」


ぽつりと漏らすと、


「……それ、たぶん本当に革命よ」


カスミさんが真顔で返した。


その言葉に少しだけ照れつつ、私はさらに続ける。


「……でも、これだけじゃないんだよ」


くるりと振り返り、息を整えてから声を張る。


「ファームスパイダーたち、カモォン!」


呼びかけに応じて、足元から小さな影が集まってくる。

くーちゃんの眷属たち――手のひらサイズの蜘蛛たちが、次々と姿を現した。


「え、なにするの?」


アリシアが不思議そうに見つめる中、私は言葉ではなく思念で指示を送る。


すると、数匹の眷属が軽やかに跳び上がり、そのままゴーレムへと取りついた。


「……あれ?」


次の瞬間、変化が起きる。


ゴーレムの動きが、明らかに変わったのだ。


ぎこちなさは消え、滑らかで正確な動きへと変貌する。

まるで意思を持ったかのように、土を掘り、均し、整えていく。


ざく、ざく、とリズミカルに続く作業は、人の手によるそれと遜色ない――いや、それ以上に効率的だった。


「……すご」


アリシアが息を呑む。


私は少しだけ得意げに微笑んだ。


「ゴーレム単体でも一応動くけど、眷属たちが操作すれば細かい調整ができるの。力仕事はゴーレム、制御はこの子たち」


視線の先では、畝が次々と整えられていく。


「これでサイズの問題も、効率も解決」


静かに言い切る。


振り返ると――


二人は、言葉を失っていた。


「……あれ?」


少し不安になって声をかけると、


「……シズカ」


カスミさんが、ゆっくりと口を開いた。


その表情は、もはや驚きではなく、確信に近い。


「これ、理解している?」


「え?なにが?」


「“畑を作る”という話ではないのよ、これは」


言葉が重い。


「うん、なんかすごいってことはわかる!」


隣でアリシアが頷く。


「ざっくりすぎない?」


思わずツッコミを入れるが、カスミさんは首を振った。


「力を担うゴーレムと、精密制御を担う小型個体。それを魔法と使役で一体化している……」


一歩、ゴーレムへと歩み寄る。


「農業に留まらない。建築、開拓……あらゆる分野に応用可能よ」


「え、そんな大げさな――」


「大げさじゃない」


静かに、しかし断言された。


「これが広まれば、“人が手で行う作業”という前提そのものが変わる」


「……」


そこまで言われると、さすがに少しだけ現実味が薄れる。


けれど。


もう一度、視線を畑へ向ける。


小さな蜘蛛たちが駆け回り、ゴーレムが大地を耕していく。

あれほど苦労した土地が、みるみる“使える土”へと変わっていく。


その光景は、確かに――何かの始まりのようにも見えた。


「……うん」


小さく息を吐いてから、私は軽く笑う。


「まあ、とりあえず」


肩の力を抜いて、言う。


「これで野菜、育て放題だよね?」


その言葉に、アリシアは元気よく頷き、

カスミさんはこめかみを押さえながら、深くため息をついた。



野菜のすばらしさを知ってもらうために――私は、腕まくりをした。


「今日はごちそうだからね」


そう言いながら、目の前に並べたのは、ついさっき“収穫”したばかりの野菜たち。


……そう、“収穫”だ。


最初に種を植えたのは、たった三畝の小さな畑。

それがなぜか、もう立派な収穫期を迎えていた。


「……どういうことなのかしら、これ」


カスミさんが、こめかみを押さえながら呟く。


「うーん、よくわかんないけど……二週間で育つならお得だよね?」


私はあっさり納得した。


「納得しないでほしいのだけれど……」


さらに頭を抱えるカスミさんを横目に、私は調理の準備を進める。


まずは、ジャガイモ。


芽の部分には毒があるから、そこはきちんと取り除く。

皮付きのまま鍋に入れて、蒸し上げる。


「これ、時間かかるからね」


そう言いながら、次の準備へ。


トウモロコシと枝豆を、さっと水洗いして鍋へ放り込む。


「それ、どうするの?」


興味深そうにアリシアが覗き込んでくる。


「塩ゆでだよ」


「……塩で?」


きょとん、とした顔。


そういえば、この世界ではトウモロコシや大豆はそのまま飼料にするのが一般的で、調理する発想自体がないんだった。


「こうするとね、美味しくなるの」


そう言って、私は“塩”をひとつまみ入れる。


その塩も、ここならではのものだ。


「“塩の実”っていうんだって」


「塩の……実?」


「うん。木に実るやつ」


くーちゃんに教えてもらった木から採れる実を絞って、その果汁を天日干しにすると、塩の結晶ができる。


「……不思議ね」


「ファンタジーだよね」


思わず笑ってしまう。


鍋からは、やがてほくほくとした香りが立ち上り始めた。


「へぇ……こんな風にするのね」


アリシアが感心したように呟く。


その様子を横目に、ふと私はトマトに手を伸ばした。


「……あ、おなかすいた」


もいだばかりの赤い実を、ひとつ手に取る。


ついでに、二人にも差し出す。


「はい、これ」


「……」


「……」


けれど、二人はそれを受け取ったまま、じっと見つめるだけで動かない。


「……食べないの?」


「それ、“悪魔の実”よね……?」


カスミさんが慎重に言う。


「うん。でも美味しいよ?」


答えながら、私は先に一口かじった。


――その瞬間。


「……えっ」


思わず、声が漏れる。


口の中いっぱいに広がる、濃厚な甘みとほどよい酸味。

みずみずしさが弾けて、香りが鼻へ抜ける。


「……おいしすぎるんですけど?」


思わず固まる。


知ってるトマトじゃない。

いや、トマトなんだけど、レベルが違う。


フルーツトマトなんて比べ物にならない甘さ。

それでいて、ちゃんとトマトらしい味も残っている。


「これ、すごすぎ……」


呆然としながら、私は残りをかじる。


そしてふと、周囲を見ると――


くーちゃんと、その眷属たちが集まってきていた。


「……食べる?」


差し出すと、躊躇なく受け取る。


そして。


ぱくり。


次の瞬間。


ぴたり、と動きが止まり――


一斉に、こちらを見た。


「……?」


直後、どっと思念が流れ込んでくる。


ゴーレム。畑。トマト。大量生産。


「……あー」


理解した。


「トマト増やせってことね」


こくこくこく、と、ものすごい勢いで同意が返ってくる。


「うん、まあ気持ちはわかる」


あの味を知ったら、そうなるよね。


一方で。


「……本当に、食べるの?」


アリシアとカスミさんは、まだ手に持ったトマトを見つめている。


「大丈夫だって」


軽く背中を押すと、二人は恐る恐る口に運んだ。


そして――


「……っ!」


「……これは……!」


次の瞬間、空気が変わった。


「……確かに、“悪魔の実”ですわ」


カスミさんが、震える声で言う。


「こんな……こんな味を知ってしまったら……」


「シズカ!」


アリシアが勢いよくこちらを振り向いた。


「ゴーレムのコアって、何で作ってるの!?足りないものない!?」


「えっ」


「すぐ増やそう!いっぱい作ろう!」


さっきまでの温度差がすごい。


その横で、くーちゃんの眷属たちも、ものすごい圧で思念を送り続けてくる。


トマト。増産。今すぐ。大量に。


「ちょ、ちょっと待って――」


完全に押し切られた。


* * *


――そして、二週間後。


気がつけば。


私たちは、広大な畑のど真ん中に立っていた。


見渡す限り、畑。

四方すべて、畑。


「……何ヘクタールだっけ、これ」


「十ヘクタールほどね」


カスミさんがさらっと答える。


「さらっと言う規模じゃないよね?」


その畑のあちこちで、土の巨人たちがせっせと働いている。


その数――二百体以上。


「……増えたねぇ」


遠い目になる。


「効率化の結果よ」


カスミさんは真顔だった。


「シズカのおかげで、食の安定は確保されたわ」


「うん……うん?」


なにかスケールがおかしい。


その横で、アリシアがにこにこしながら言う。


「トマトもいいけど、トウモロコシも美味しかったよね!」


「ジャガイモも捨てがたいわね」


「枝豆も!」


「……増産計画、必要ね」


「だね!」


「いやちょっと待って!?」


声を上げるけど、もう遅い。


こうして――


私たちの畑は、さらに拡張されていくことになったのだった。

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