内気で不器用な少女の願いと、王子様の頼み
「私の……リジャール王子との、出会いは、縁談でした……。私の……セプレンディ家は、コミエフィンの、貴族……中央の、コミエフィンの中でも、外交政務の、重役で、活躍してきました……セプレンディ家は、特に桜日や、インフレンダといった……このスエティーラ大陸の国々との交流……特に文化的な交流や、魔法研究……魔物への、対策や、魔族との、交流……主に、国の人々の、暮らしに関わる、友好関係の為に、頑張ってるのが、お父様……です。」
「インフロールには魔族は居ないけど、インフレンダや桜日には魔族が居るからね。近年になって、魔族と人間族の交友関係がようやく結ばれてきたからこそ、繊細な部分……特に、違う国での魔族の扱いなどといった、これからの魔族との関わりの中で障害になる壁の調整に力を入れているから、ボクとベルナが出会った時以上にセプレンディ家の存在は大きくなっているよ。」
魔族。
リジャール王子の説明の通り、このインフロールには居ないが、他国の幾つかに居る、独自の社会性を気づいた魔物とは似て非なる存在、もしくは、それと人間の混血を指す。
魔物は本能のままに暴れて人間……この場合魔族と対照的にする為に人間族と呼ぶが、魔物は人間族だけでなく魔族にもその牙を向ける。
だが魔族はその中で独自の社会性を築いている。
特に、最近魔族との和平が大々的に公表されたインフレンダには、六つの魔族があり、それを長となる特別な因子を持った物が統制、更にその長達を纏め上げる「魔王」と呼ばれる王が統治していた。
魔族の王、魔王と人間族の王は、それまで長い間戦争や小競り合いを繰り返していたが……最近になって、とある『英雄と勇者とその仲間たち』、そして、『偉大なる魔王とその妃』の活躍によって、魔族と人間族の和平が実現した、という話を聞いた事がある。
そのニュースはスエティーラ大陸に大きく広がり、今では桜日も魔族と人間族の会談を行って和平実現に向けて取り組んでいる、という話だ。
つまり、セプレンディ家は、「魔族という存在が居ないこのインフロールという国だからこそ、魔族と人々の間にある壁をどう取り除くか」をずっと話し合っている、という事になる。
……もし、これが原作の世界でも同じだとしたら、セプレンディ家の失墜はかなり影響が大きいのでは?とも思ったが……。
私は、冷静になって考えてみた。
そもそも、「やがて光の君と共に」の世界観設定の中に、こんな話は存在しないのだ。
つまり、原作の世界では、そもそもこの魔族と人間族の和平という出来事が起きていない、もしくは、そういう問題もリジャール王子とソルスが解決した、という事なのだろう、と推測する。
つまりは、こういう出来事も、話の大筋には関係の無い細かな事である、という事なのであろう。
「でも、忙しくなったのは、特に最近……私が、リジャール王子に出会ったのは、もっと子どもの頃……。」
「その頃からボクは既に未来の妻となる存在の選定をするように教育されていたからね。その縁談相手の一人がベルナって事さ。」
「ん……私は、国交の重役の娘、だから……そして、元々貴族としての地位も歴史も……国に尽くしてきた歴史も……沢山あったから、幸運な事に、リジャール王子と、縁談を、持ちかけられました……。でも……私には、光属性の、魔法が使えない……そして、こういう風に……本当は、人付き合いも、得意じゃ……ない……人と、上手く話す事も……得意じゃ、ない……。だから……今まで、ずっと……リジャール王子に、どうすれば良いか……どう、接すれば良いのか……分からなかった……でも、どうにか、したかった……。」
「……なるほど。」
「……そんな君が、どうしてボクを花見遊覧に誘ってくれたんだい?」
「それは……。」
ベルナはこちらを見る。
そして、私達に向かって小さく微笑んだ。
「……私は、リジャール王子を……貴方を、笑顔に、したい……。でも、どうすれば良いのか、分からないし……頑張って、勇気を出したくても……そもそも、頼れる人が、周りには、居なかった……。……私は、ある意味、貴族の世界で、孤立、していたから……。でも……私の事を、尊敬してくれる、ティエラに出会って……先生の紹介で、マルニと、ウルティハと、エスセナに出会って……皆、貴族の中でも、難しい立場に居る人で……でも、それでも、皆自分の為に精一杯頑張ってて……。そして、皆は、私を……私の我儘を、真剣に聞いてくれて……一緒に、考えてくれて……そこから、一緒に時間を、過ごしてみて……この人達の事を、信じてみたいって、思って……。」
「うん……うん。」
リジャール王子は、頷く。
優しく、精一杯の言葉を受け止めるように。
ああ、だからこの人は、人に愛されるのだろう。
こんなたどたどしい、不器用な気持ちも笑わずに受け止めて。
これなら、確かに優しい暖かい、まさに春風のような王子様だ。
ベルナは、改めてリジャール王子の方を向き直す。
「だから……皆と、考えた、このやり方で、貴方と、過ごして……貴方を、笑顔にしたい……です。皆で、頑張って……貴方と、楽しい時間を、過ごして……私の事、好きになって、もらいたい……です。」
「……そうか。」
深く頷く両者。
……やがて、思案の後、リジャール王子は口を開いた。
「君は、ボクよりお姉さんなのに、不思議な人だ。不器用で、何処か少女らしくって……ボクよりも、どこか子どもっぽくも感じる。」
「……不器用な、お姉さんで……ごめんなさい……。」
「でも……ああ。その不器用ながらも精一杯の思い、確かにボクの胸に伝わった。」
「……っ!それ、じゃあ……!」
「ああ!そのデートのお誘い、喜んでお受けしようじゃないか!」
「……!ありがとう、ございますっ……!」
ほっ、と私達は胸をなでおろす。
……もしかしたら、この王子様は最初からこのデートの話を受けるつもりだったのかもしれない。
それでも私達に興味が湧いた、というのも嘘ではないであろうが、それ以上に、ベルナの本心を言葉で伝えてほしかったのかもしれない。
これから、きっとその勇気は必要な物になるかもしれないから。
これからその勇気は、ベルナにとって大事な物になるかもしれないから。
そう考えると、やはり私達を呼んだ事に意味がある、というのは色々な意味でそういう事だったのだな、と思う。
爽やかなだけでなく、全く良い性格の王子様だ、リジャール王子は。
「それで、こうしてデートに行くことが決まったわけなんだけど……そこで、最初に言った君達に頼みたい事があるんだ。」
「……ん?」
「頼みたいこと……?」
そういえば、そんな事を言っていた。
あれは方便なのかと思っていたのだが……果たしてそれは何なのだろうか?
「君達に頼みたい事……それは他でもない。マルニーニャ・オスクリダ嬢。ウルティハ・インベスティ嬢。エスセナ・デ・ヌエ・アクトリス嬢。そして、ティエラ・バレンティア嬢。君達に、この花見遊覧デートの護衛部隊への参加を命じたい!」
「「「「……へ?」」」」
「……構わないかな?」
にこっ、と爽やかな笑顔で笑うリジャール王子。
だがそれに対して、きっと私の顔は引き攣っていたであろう。
何がどうして護衛役になるの!?
今回で出てきた、魔族については今作ではあまり関係がありません。でも、いずれこの設定を使った話を書きたいと思っているので、頭の片隅にでも記憶していてくれたら嬉しいです。




