怪しき影 その3
サカド家。
次期王女候補の貴族の一つであるこの一家の屋敷で、サカド家の貴族達……正確には、サカド派閥の貴族を含んだ貴族達が、会議をしていた。
その会議の内容、それは……。
「で、どうだ、計画の方は。上手くいきそうか?」
「魔法で遠くから監視していた偵察によると、第一陣の方は失敗したようです。」
「ふむ……まあ、そう簡単にはいかんな。」
「しかし、予定通り、騎士の数を減らす事には成功したようです。」
「ふむ、なら最低限の目的は果たせたようだな。」
「ふふ……他の貴族にはここまでやる必要はないですが、敵はあのセプレンディ家の氷の女王、ベルナ嬢ですからね。徹底的にやらなければ。」
サカド家の令嬢、カチョ・サカドはにやり、と扇子を扇ぎながら笑う。
サカド家は、次期王女候補の中でも位置的にはセプレンディ家には劣っていた。
カチョも魔法使いとしての才能は無いわけではないが、それでもベルナには勝てなかった。
そして家名としても劣っている。
そこで、サカド家は計略を張った。
他の貴族……特に、次期王女候補の中でもあまり地位が高くない貴族、令嬢の能力が低い貴族を味方に引き入れたのだ。
サカド家にとって幸運にも、ベルナがあまりリジャール王子と上手く行っていない……特に、会話などもあまり出来ておらず、不仲なのではないか……という情報は既に入っていた。
なので、他の貴族と共に派閥を組み、一つの家名ではセプレンディ家に負けていても、個人としての魔法の才能や貴族としての振る舞いで負けていても、そうやって勢力として組んで、更にカチョは熱烈的にリジャール王子にアプローチする事で次期王女候補の争いでしがみついていたのだ。
そこまでは良かったのだ。
王家に入る為に派閥を組み、令嬢自身がアピールして王家に取り入ろうとする。
それ自体は何もおかしい事では無い、むしろ戦略としても正しい事だろう。
だが、ベルナが遊覧に出る、という話を聞いてからの行動は正しいとは言えないであろう。
何故なら、サカド家が取った行動は、内密に抱えていた配下の盗賊達を動かし、ベルナを狙うという物だったのだ。
もし、ベルナがこのままリジャール王子と関係性を深めれば、カサド家の人間はまた一歩、カチョを次期王女にして王家に入るという悲願から離れる事になってしまう。
それだけが問題では無い。
こうやって他の貴族との派閥……いってしまえば同盟を組むという事になれば、当然ながら見返りを求められる。
当然だ、同盟を組み、派閥に入る、という事はその貴族達は実質的な競争からのリタイアという意味でもあるのだ。
それならば、当然ながらそれに対する見返り……つまり、メリットを求める。
サカド家はそれを用意しなければならないのだが……サカド家は、その支援の対価を、王家に入ってから払うつもりだったのだ。
地位、金、優遇。
そういった利益を、派閥の貴族達に払うつもりだった。
また、「もう一つの目的」ももしベルナが次期王女に選ばれてしまったら、果たす事が出来なくなってしまう。
なので、サカド家の派閥の貴族たちは……。
「しかし……人員は有限だ。今回で捕まる賊達を考えると、仮にサカド家が次期王女に選ばれたとしても、すぐには動かせないのではないかな?」
「心配はありません。所詮賊の集まりくらい、すぐに集めようとすれば集められる物です。」
「私の配下達はある程度捕まるとして、簡単に補充とはいかないかもしれませんが?」
「貧民が稼げる稼ぎ口になる、と聞けば簡単に食いつくでしょう。」
そう彼ら彼女らは、ただの派閥、ただの同盟というわけではなかった。
共通点があったのだ。
その共通点……それは、盗賊やならず者、暗殺部隊といった裏がある配下を抱えている、ということだった。
サカド家は始めから、正面からの勝負は捨てていたのだ。
賊達やならず者達を使い、ベルナや他の次期王女候補の妨害、もしそれでも厄介になる存在であるならば、誘拐や身内への脅迫、そして……最悪の場合、暗殺。
そういった、暴力と悪意によるのし上がり。
それこそが、サカド家のやり方だったのだ。
そして今回、ついに暗殺のターゲットにベルナは選ばれた。
次期王女の地位を脅かす存在として。
「そういえば、気になる情報が一つ。」
「気になる情報だと?」
「ええ、どうやら、噂の闇属性使いのマルニーニャ嬢が、騎士として護衛に参加しているらしいとの事。」
「マルニーニャ嬢か……。」
「他にも、ティエラ嬢、ウルティハ嬢、エスセナ嬢の姿も見えるとの事で……。」
「ふむ……確かに気になる情報ではあるな。」
「ティエラ嬢はいつもベルナ嬢に引っ付いて回っているのだから分かっていたことですが……他のご令嬢達は噂通りでしたね。」
「ふむ……。」
「お父様、何か気になることでも?」
「闇属性使いのマルニーニャ嬢を、遠慮なく使ってくるとはな……。」
サカド家の長であるカチョの父は興味深げに呟いた。
「もし心に闇を持つのが闇属性使いなら、我らの仲間に引き入れるのもまた一興、かと思ってな。」
「まあ、お父様ったら、それでは私達が闇属性にぴったりな悪者みたい。」
「おっと、そうだったな。私達は、闇属性などと比べれば、ずっと悪い事はしていないだろうな。」
「ええ、そうです。むしろリジャール王子の護衛の一人に汚らわしい闇属性使いなどを使うベルナ嬢こそ、悪しき存在かと。」
「確かにな、だが、戦力としてはなかなか悪くないのではないかな?」
「ふむ……確かにそれは一理ありますね。騎士としての実力はなかなかだと聞いています。」
「そうだろう?なら、ベルナ嬢の破滅の後に、行く当てのない所を私達の配下に加えるという事でいいだろう。なあに、オスクリダ家など、ただの地方の子悪党貴族だ。私達中央の貴族が圧力をかければ、簡単に屈するだろう。」
「あら、そうしたら、尖兵の一人としてリジャール様にも気に入られそうですね。」
「はっはっは、そうだな、もしくは顔や身体が良いなら娼婦にでも使うのもありだな。まあ、抵抗するならば殺してしまえば騎士志望としても本望だろう。」
「違いありませんね。」
サカドの長とカチョは不敵に、大胆に笑い合うのであった。
恐ろしき悪意と暴力が、マルニ達の裏でうごめていた。




