apx6.新時代の呼び声
本編だけだと、なんだったのあの変なキャラ、というくらい役割が不明だったあの子のおはなしです。
その館は帝都の北方の山地にあった。
帝都周辺の人口拡大を抑える為、北部山岳地帯から平野部を挟んで北東のナツィオ湖までは有力な帝国貴族や各国の別荘地に割り当てられていたが、山岳地帯は洞窟が多く蝙蝠が飛び交い人気が無く周辺にはこの館以外何もなかった。
黄昏時に、帝都を見下ろせるその館のバルコニーに二つの大きな人影があった。
陽が山陰に隠れるとみるみるうちに暗くなり、帝都では大きな花火が上がり、それが館の周囲に蝙蝠が乱れ飛ぶ様子を照らした。
いつしかそのバルコニーには小さな人影が一つ加わっていた。
「いかがな様子でしたか?ひいさま」
「まだまだ落ち着かんようじゃな」
帝都を遠望しながら小さな人影は、その若さに見合わぬ老成した口調で答えた。
「皇帝の凱旋から何週間も経ったというのに、帝国人どもめ。浮かれおって」
もう一つの大きな人影が悪態を吐いた。
「ま、帝国貴族にも何万という被害を出し、市民や建物も大きく損なわれた味方同士が殺し合う内乱が終わったのじゃ、こんなものじゃろう」
「帝国に手を出すには力不足でした」
「じゃからいったのに」
小さな人影は嘆息する。
「あれほどの好機は二度と来ないと思ったのです」
「そうだ。あと一息だった。帝国などあそこで一押しすればばらばらになって崩壊するはずだったのに、新たな皇帝が立つとは」
「はぁ、お主らはほんに機を見る目がないのう。好機というのはこれから来るのだ。だというのに無駄な損耗を出しおって」
やれやれ、と小さな人影は天を仰いだ。
夜が更けていく中、花火に照らされその紅い瞳が輝く。
「これから、ですと?その名声、武威が四方に鳴り響き、崩壊しかけた軍団は結束を固くし、民衆の支持も厚い英雄の軍人皇帝が立ったというのに?」
「まったくです。到底これから好機が来るようには思えません」
「違うな。エドヴァルドは失敗した」
「どういうことです?」
「わからんか。エドヴァルドはな、凱旋して軍を解散するのが早過ぎたのじゃ。勢いに乗って皇家などこの機に片っ端から九族皆殺しにしてやれば良かったのに。イザスネストアスが生きておればあのように甘い処置など許さなかったであろうな。大領地を構える各皇家は数年もすれば力を取り戻す。元老達は皇家から妻を娶り皇妃とするようエドヴァルドに強く求めるじゃろう」
「婚約を打診しているという噂のエイラシルヴァ天を置いて、ですか?民衆の支持を失うことになりはしませんか」
「そうじゃな、妻の順位で揉めることだろう」
「そんな愚かな事をするものでしょうか」
「それをするのが帝国の貴族達、そして皇室というものだ。お主らも少しは敵を学べ」
ぐぅ、と大きな人影は呻いた。
「だが、内紛の種となりうるかもしれない、それだけで好機といえるのだろうか」
「せっかちじゃな。まだ話は済んでおらぬ。問題は西方諸国が既に連合国家を樹立して帝国による支配からの離脱を表明していること。それによって今まで帝国が享受してきた数々の独占的立場が失われる。技術的にも経済的にも、じゃ。既に帝国議会には帝国市民への増税について検討の打診があった。今は絶大な支持があっても数年後には皇帝を恨んでいる事じゃろうて」
各国に比べ数分の一に過ぎなかった帝国市民の負担が低すぎただけじゃが理解はすまい、と付け加える。
「なるほど。で、あれば数年待ってから事を起こせばよい、と?」
「いや、ただ待つのではない。そういうことでしたら、かつて西方で起きたような市民革命が起きやすい土壌を育てるべきでしょう」
「ほう、学んだようじゃな。じゃが、帝国本土は放って置いてもどうせ腹黒の有力皇家が勝手に陰謀に手を染めるじゃろう。やって悪い事は無いがどうせ力を注ぐのなら、北じゃな」
「北ですか?あちらも新たな英雄が出現し、あのしぶとい北方候の跡を継ぐようではありませんか?」
「うむ、本当に若く美しい戦乙女が立ったようだ。敵ながら天晴な戦い振りだったと聞く」
小さな人影は宝石の様な紅い輝きを持つ瞳をじろりと大柄な男に向けた。
その美しい瞳を向けられた男は一瞬魅入られたようだったが、すぐにそっぽを向いた。
「ふん、スヴェトラーナはな、高地地方の部族からの受けはいいが、男嫌いで低地地方の戦士達を見下す悪癖がある。アヴローラであれば年の功で抑えられたものも、あのとんがった娘では抑えきれん。女系優先の高地地方の戦士達と低地地方の確執、過去にも低地地方の族長と問題を起こしたスヴェトラーナが一時の名声だけで大族長などという地位に就けばいずれ北方も割れるじゃろうよ」
「そういわれると確かにそう思えてきました。西方が離脱し、南方は戦乱、北も本土も割れる、となると東方が鍵を握る事になりますか」
「そういう事じゃな。やるとしたら帝国本土と東方を分断する為、先の問題が表面化した時に新帝が東方出身じゃから嫌がらせを受けているという噂を流してみるのも一興じゃな」
「どうにもそういうのは好かん」
口の悪い方の大きな人影は吐き捨てるように言った。
「数もそれを活かす組織力も違い過ぎる。正面からいくら挑んでも勝てん、というのはいい加減学んだ筈じゃがのう」
小さな人影はまた嘆息した。
機会があっても活かせなくては意味がない。
同胞はてんでばらばらに個の力で戦ってばかりだ。
「まあ、工作は私が担当しましょう。向き、不向きがありますゆえ。しかし、本当に希望が見えてきた気がしますが、反面恐ろしくもあります。今や皇帝は・・・あの幼い神を庇護下に置いているのでしょう?神々を敵に回す事になりはしませんか?」
畏怖にぶる、と震えている。
「幼神・・・あの娘の事なら心配はいらんじゃろう。自身が危険に晒されても戦う道を選ばず自害するくらい争いが嫌いな優しい娘じゃ。昔から政に関わるのを避けておるし、あの娘の身近なものが危険に晒されない限りは介入してくるとは思えん」
それを聞いてはっ、と馬鹿にしたように乱暴な口調の人影が放言した。
「まったく軟弱で愚かな娘だ。優れた力を持ちながら自衛の為の戦いすら放棄するとは」
それを聞いた小さな人影は紅い瞳をさらにいっそう燃えるように輝かせ、大きな人影に近づき、ねじ伏せ、その放言の代償と言わんばかりに噛み付いた。
「ちっ、阿呆に何が分かる!」
小さな人影はご褒美になってしまっている事に気が付いて、それを蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされた人影は鞠の様に弾んで館から吹き飛び岩壁に叩きつけられた。
「相変わらずひいさまはあの娘がお気に入りなのですな」
紳士的な方の人影は吹っ飛んでいった片割れを心配しようともせず主に向かって怒りを鎮めてくれるよう畏まった。
「愚かな獣たちがあの娘の成し遂げた事を次々と無為にしていく。彼女が何をしようと次から次へと周りは勝手に殺し合い血を流し策略を巡らし、浅ましく財に、その力に群がっていく。力しか能の無い馬鹿にはその身を引きちぎった所で、それ以上の苦痛に苛まれる彼女の絶望は分かるまい」
怒りが静まるのを待ってから再び人影は主に問いかけた。
「ひいさまの神殿には新たな神像が祀られたとか、何か聞いていらっしゃいますか」
「儂の、ではないんじゃがのう・・・。何でも姉達じゃそうな。帝国に隠滅された森の女神たちは未だ健在だったらしいの」
「あのお方が敵に回らずとも、女神たちは敵に回るのではありませんか?もしくは現世の守護神、時の神が・・・」
「ドラブフォルトが議事堂で会った時に、神々は決して介入する事は無い、と断言されたそうじゃ。心配要らぬ。それに時の神、地獄の女神は勿論、森の女神たちにも新たな時代の神たる資格は無い。始まりの時代に残された道化と狂気の神の予言では第三の時代の神は未だ現れぬものとされたのじゃ。・・・ま、予言が嘘か誠か分からぬがの。例え神々が介入してきたとしても、あの娘を苦しめる人間達から保護する為といえばむしろこちらにつくかもしれぬ」
「なるほど、しかしそれは方便ではなくひいさまの本心ではありませんか?」
「本心であろうとなかろうと、神々が敵に回ろうと回るまいと、成す事に変わりはないわい。混乱が続く内に神器の回収を急げ」
「は、しかし本当に来るのですな。遂に・・・歴史の、大陸の端に、北限に追われた我らの時代が」
「そうじゃ、人の時代は終わりを告げる」
一度言葉を切って続けた。
そして獣の民の時代が始まるのだ、と。
第二部はジャンルをハイファンタジー、主人公をマヤに変えて獣の民による大陸制覇の戦記物
"マヤの野望"が始まりま・・・・・・せん。
イザスネストアスがいつぞやに言っていた魔術師の中には鳥に変化が出来るものがいるという能力の持ち主でした。鳥じゃないし、魔術じゃなかったですけどね。
第一部をイルンスール、第二部をマヤにしたり、削ったエピソードとか真面目に書いてたら一体何百話の大長編に・・・、そんな長期間作者のモチベーションが持つか、誰が読むんだ、というわけでおさわりだけapxに書きました。
とにかくちゃんと完結した話を書きたかったので本編はあんな感じで綺麗に終ったんじゃなかろうかと思ったのですが読者の方に取ってはどんな塩梅でしたでしょうか。




