悪魔に捕まった少女
柔らかな布が私の頬をかする。
それは私の輪郭をなぞるように動く。
ゆっくりと動くその手は間違いなく彼のもので。
白い手は私の唇に触れると離れていった。
その手はどこに行ったのか。
私は焦点が合わず、すべてがぼやけて見える。
いや、合わないのではない。合わせないのだ。
私の意識は自然と目の前の彼を認識しないようにしていた。
だから何が起きても私には詳しく分からない。
ふと右腕が引かれる感覚が襲った。
バランスを崩した私は前に倒れる…はずだった。
痛みの代わりに何かに体を支えられる。
顔が何かに当たり、認識してしまう。
ドクンドクンと心臓の音。少し早いようなその速度。
「い、嫌…っ!!誰かっ!!!」
扉を見つけた私は手を伸ばす。
体も必死に抵抗しているが全く動かない。
右腕に絡まった手に力が加わり、声が漏れる。
痛みに一瞬動きが止まったのを彼は見逃さなかった。
腰に腕のようなものが巻きつき、一気に距離が詰まる。
「暴れるなんて…悪い子ですね。」
耳元でそう囁かれ、変な感覚が体を走る。
そこで私の意識はプツリと途切れてしまった。
彼女は意識を失ってしまった。
体に彼女が寄りかかる。伸ばした手は糸が切れたように急降下した。
自分のした行動で彼女がこうなるなんて。
口が自然とつりあがっていく。まるで三日月のように。
さらりとした黒髪を指の間に通す。
甘い香りが漂い、体に鳥肌が立つ。
今すぐに彼女を連れ去ってしまったらいいじゃないか。
なんて浅はかな考えが脳内を走る。
「ずいぶんと落ちぶれたもんだな。」
鼻で笑う自分が鏡に写る。彼女を抱く自分。
あぁ、夢にまで見た構図の出来上がりじゃないか。
すべての準備は整った。あとは彼女を自分に向かせるだけ。
どれだけの時間がかかってもいい。彼女がいるなら。