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今日の所は帰る気満々だったガガは非常に腹立たしく思っている風を隠そうともせずその客の前に姿を現す。その客は年若い女でおそらく十七、八と言ったところだろう。年齢だけなら学生の類でも不思議は無いが作業着を来ているその姿を見れば分かる通り既に働いているらしい。
「……言っとくが、貧乏人相手でも報酬はまけないからな」
「あ、えと……。はい」
「もう少し何かなかったの? 会話の第一声がそんなんじゃ女の子に嫌われちゃうわよ」
―――うるさい!
ガガは横からちゃちゃを入れて来る千里をさっさと引っ込めと言わんばかりに睨み付けたのだが彼女が意に介する様子はない。寧ろ嬉々として二人の様子を観賞するつもりのようでどこから取り出したのか煙管に味付きの香草をくべて煙をくゆらせる。
どうにも下がるつもりの無い千里との会話を諦めてガガは客の女に向き直る。
「それで、お前は何の素材が欲しいんだ?」
「女の子にそんな言い方するの? 会話にも順序ってものがあるでしょ、まずはお名前から聞いて」
「ああうるさいうるさい」
「はあ、そんなんだからあなたモテないのよ。顔は悪くないのに隠してるし」
「そこの水晶玉叩き割ってやろうか?」
近くの棚には千里がこの店を営業する為に購入した大きな水晶の玉がある。魔獣が多く住まう洞窟から採取された水晶を加工したものでこれを手に入れるのに随分と金が飛んだと言うのは彼女の言だ。
しかし。
「その時はあなたの借金が増えるだけね。これは頑張って返して貰わないとねぇ」
さしてそれ自体に思い入れがある様子は無く寧ろ借金が増える事に嬉々としている様子。ガガは額に青筋が浮かぶのを自覚しながらも深く呼吸を繰り返す事でどうにか怒りを堪える。
「……名前は」
「あ、はい。灯夜と言います。えっと、歳は十八で工場で働いてまして」
「いい、いい。そんなつまらんパーソナルな情報は興味無い。なぜここに来た?」
「はい、その、噂を聞いて。ここで依頼をすれば色んな魔獣の素材を手に入れる事が出来るって」
「……どこの工場勤務か知らんが、安月給で支払うには高いぞ。そんなに魔獣の素材が欲しいのか?」
「ちょっと、そんな仕事を渋るようなことして」
「俺はこいつに支払い能力があるのか不安なだけだ」
この大地で魔獣の素材を手に入れるのは難しい、そんなことは一般常識だ。素材屋と言うのは幼い頃は誰もが一度は一攫千金を夢見て憧れるような職業なのだ。しかし実際に魔獣と相対すればその難易度に誰もが難色を示し去って行く。素材屋を目指した者の多くは結局は町周辺の警備や何らかの力仕事に就いて一生を終えてしまうわけだ。
そんなわけで素材屋の報酬は高い。そしてその中でも上澄みと言われるガガに支払われる報酬ともなると一般人には少々払い難いものがあるだろう。
なのだが。
ズンッ。
灯夜は無言のままにどこからか取り出した小さな袋を机に置いた。
「どうぞ中を検めていただければ」
その覚悟の決まった瞳にガガは思わず気圧される。
―――本当に十八の小娘かこいつ。
そんなことを考えながら袋の中を見る。そこにあったのは。
「……一応聞くが合法な金だろうな?」
「ちゃんと節約して貯めたものですよ」
ガガの報酬に十分な金銭だ。彼は思わず頭を抱える。何せ金があるなら仕事をさぼるわけにはいかない。彼は自ら素材屋の職を選んだ身ではあったが、最近はその職にもどこか身が入らない。かつてあったような熱が失われている、有り体に言えば飽きたのだろう。
本音を言えばこんな仕事を受けたいとはまるで思っていないが、一方で借金を返す為には働かねばならない。つまり。
―――金を目の前に出されたら断るわけにいかないじゃないか!
こう言っては何だが普通に屑の思考だ。
「わかったわかった。お前が本気なのは十分わかった。それで、お前が欲しいのは何だ?」
「はい!」
そこで目的の魔獣の名を聞いたガガはあからさまに嫌な表情を見せた。つまり、目的のそれはともかく面倒なタイプのそれだったからだ。




