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断崖絶壁に囲まれたこの町に陽射しが差し込む時間はそう長くはない。男は背に陽の光を浴びながら町の中へ入って行く。風呂敷を担いで町を歩くその姿を見ると行き交う人々は思わず道を譲り、少し離れたところで小声でひそひそと何やら話しているのが見えるだろう。それは彼が恐れられているから、ではない。普通の人間は顔の半分を仮面で隠すような事はしない、その姿を見て陰気で不気味な奴だと避けているに過ぎない。
しかしそんな陰気で不気味な奴も誰かにとっては必要とされるものだ。特に彼のような貴重な職に就いている者は。
壁際へと建てられた平屋の中へ入って行く。そこが彼の家かと問われればすかさずノーと首を振ろう。中へ入れば分かる事だがその平屋の中には乱雑に荷物が散りばめられているただの倉庫だ。見る人が見ればこんな狭い町で倉庫なんぞに場所を使ってんじゃねえと怒りを覚えそうなものだが、まあ今はそれはいいだろう。
しかし中へ入ったはずの男の姿がかの倉庫の中から消えている事に気付いただろうか? 男はどこへ行ったのか。
その問いの答えは簡単な事で倉庫の奥に隠し扉が存在するというだけの事、その先は本来なら崖なのだがそこに長い年月をかけて掘られた部屋が存在するのである。さてその中を覗いて見ると、丁度先の男が中へ入ったところらしい。中にはまるで後方に尖らせるように白髪を固めるという奇抜な髪型の偏屈そうな爺さんが魔獣の皮を持っている所だ。
その爺さんは入って来た男を見てどこか安心したように溜息をついた。
「何だ、お前か。ったく、ノックぐらいしろ、心臓に悪い」
「黙れ贋作屋のクソ爺。ホワイトミニマムの毛を取って来てやったんだ、感謝しろ」
言いながら仮面の男が背負っていた包みを爺さんの方へ投げる。包みが自然に解けて中から美しい白い毛が出て宙を舞った。
「おお! これだこれだ、これがあればホワイトジャイアント製のコートを作れる!」
「何がホワイトジャイアントだ、偽物だろ」
「うるさい! 素材屋は黙って素材だけ採ってくれば良いんだ」
素材屋、仮面の男はこの町では数少ないその職に就いている。様々な魔獣の毛や皮や牙、その他諸々の素材を採取し人々の生活の為に役立てるという成程この世界に欠かせない職ではある。
「まったく、他に腕の良い素材屋がいればお前みたいな生意気な奴を誰が当てにするもんか……」
しかし爺さんの言うように素材屋はなり手の少ない職だ。理由は様々であるがやはり稼げるようになるまでに越えねばならないハードルの多さが問題なのだろう。
素材屋の男は爺さんの文句の類には慣れているのかまるで気にする風もなくこの部屋、爺さんの工房を歩き回る。そこには皮をなめす為の道具や薬品、金属を加工する為の炉や布を織るための織機まで存在する。
―――相変わらず雑多でいつ事故が起こってもおかしくない場所だ。
そんな感想を男が抱いている事など露知らず爺さんはホワイトミニマムの毛を見分し、それを使ってどれだけの儲けが出るのか計算しているようだ。そしてその顔を見れば余程の儲けが出るのであろう事は容易に想像がつく。
―――まるで欲に溺れた亡者だな。
そんな感想が飛び出るような顔なのだから。
―――相変わらずつまらんやつだな。
そんな風に罵られているとは露知らず、爺さんは白く美しい毛が作り出す未来の財貨に夢中らしい。
さて、素材屋の男がここに残っているのは完成品を見て行こうなどという殊勝な理由ではない。求める物はただ一つ、金だ。全く人の事を言えやしない。
とはいえ彼の職を考えれば素材を納品した以上その対価を受け取るのは当然の事、悪く言うのもあんまりだろう。暇を持て余し工房をうろつく男を見てようやく爺さんも察したのか立ち上がり金庫の方へ向かう。その中には表には出せないような大金が入っているのを男は知っていたが流石に殺して奪おうなどと考えるはずも無い。そんなことをしても金を奪って町を出るまでにどこからかやって来た爺さんに頭をかち割られるだけだ。
「今回の報酬は五本で良かったな」
「……十本だろ。お前の稼業で金を出し渋るのは止めた方が良いと思うが?」
素材屋の男が言う通り爺さんの稼業は表に出せば然るべきところに突き出される類のものだ。ここで金を渋って余計な火種を生むのは止めた方がいい。良いのだが。
「ああ、まあ、そうなんだが……。すまん! 今回だけ五本にしてくれねえか!?」
「……はあ?」
―――ふざけてるのかこの爺。
素材屋の怒りは尤もな事で元々の約束ではホワイトミニマムの毛を十本、つまりはこの町で三か月は暮らせようという金銭と交換するという話だったのだ。それを急に半分の値に下げようというのはあまりに無法である。
無法ではある、が。これまでにそんなことは無かったのもまた事実。何か事情があっての事だと言うのは流石に察せられる事だ。
「一応、言い訳を聞こうか」
故に彼は尋ねる、その声に怒気を孕ませながら。もしもふざけた言い分であればそれなりの手段に出るという脅しを込めて。爺さんは大きく溜息をつき近くにあった金属の金型に腰を下ろした。
「おいおい知らないのか? 数日前から剣組の締め付けが厳しくなってんだよ」
「剣組が?」
剣組、それはこの町における重鎮にあたる組織で、言ってしまえばヤクザの類だ。様々な違法な商売にも手を出す彼らにとってはここにいる爺さんの商売もその内の一つに含まれるらしい。
この町の一部でガガの名は有名だ。曰く、彼ほどの素材屋はこの町の近辺にはいない。欲しい魔獣の素材があるならば彼に声を掛けろ、それで無理なら諦めろ、だ。
しかし一方で彼の身形を知る者は多くない。
「何だお前、妙な恰好してやがんなぁ」
町中、彼が道の中央を歩けば作業着に身を包んだ男たちが絡んでくる程度にはまるで知られていないのだ。
―――鬱陶しい連中だな。
このような輩はこの町では珍しくもない。公権力も一応は存在するがこの町で幅を利かせているのは主に剣組を始めとした組の連中だ。普通の人々は彼らに関わらないよう道の端をこそこそと歩くのが常識である。にもかかわらず道の真ん中を歩くような真似をするのは命知らずか頭が悪いかのどちらかであろう。
ではガガがなぜそんな真似をしているのか。それは単純に彼はこの町のあれこれに疎いというのが理由の一つだ。彼の住まいはこの町には無い。もう一つ? そんなものは決まっている、その程度の事にも未だに気付かないぐらいガガは察しが悪いというだけだ。
「町に来る度お前らみたいな連中が絡んでくるのは悩みものだな」
呆れたように頭をかく彼の姿を見て僅かにいた通行人は建物の陰に隠れて成り行きを見守るらしい。作業着の男たちは人々のその態度に気を良くする一方でまるで自分たちを意にも介さない様子のガガに沸々と怒りを溜めて行く。
「ああ? 何だ偉そうにしやがって」
「テンマの兄貴、やっちゃいましょうよ!」
身体がでかく二メートル程はありそうな巨体に鍛えていると公言して憚らない肉体を持つその男はやせぎすの腰巾着の媚び売る言葉に調子をよくしたのだろう、拳を胸の前で合わせて鼻を鳴らす。
「そうだな、俺様に逆らったらどうなるか教えてやるぜ」
ガガは拳を掲げた男の姿を見上げて思う。
―――ここで死ねば帰り道が楽になって良いな。
何とも呑気な事ではあるが彼にとってはある意味で切実な悩みでもある。町から離れた場所に居を置く彼にとっては今回のように仕事で町へ来た際にどのような帰路を辿るべきかが毎度悩みのタネであった。その点、殴殺はかなり都合が良い。目の前の巨漢に上手く殴られれば簡単に死ねて三分後にはついこの前に見たばかりの石の天井を見る事になるだろう。
が、彼にはまだ仕事が残っている。その選択肢を取るわけには行かない。先程覚えた気の迷いを振り切りナイフを手に持つと正面を見据える。
「なっ!?」
直後、ガガは拳の動きを完全に目で追えているのかと思わせる程にすれすれで前にでながらそれを躱す。擦れ違いざま、男の服についたポケットから何かを抜き出しそのまま数歩歩く。その洗練された動きを見れば察しの良い者は気付くだろう。この奇妙な格好をした男は単なる傾奇者ではない、戦闘系の技能を持っているのだと。
「てめえ! 何者だ!」
「そういうお前は剣組か」
「何で俺の事を」
知っているのか、そう言いかけて男ははっと気付く。ガガが手に持っているのはポケットに入っていた財布だ。この男は今ようやく先の一連の動きの中でそれを取られた事に気が付いたのである。
「返しやがれ!」
大声で叫ぶ男に対しガガは興が失せたかのように財布を投げ返す。それを受け取って呆然とする男に対しガガは声を掛けた。
「喧嘩を売る相手は選んだ方が良い。ガガには手を出すなとザンキに言われなかったか?」
「え、あ、な……」
男はその名を聞いて固まり自分のした過ちに気が付く。男の腰巾着はまだ何も気付いていないのか腰が引けてへたり込む男にどうしたのかと問うていたが、ガガは既にそんなことに興味は無い。財布から抜いた中身を確かめながら路地へと姿を消すのだった。
さて、素材の納品は終わったわけだがガガにはまだ仕事が残っている。彼の素材屋の仕事はそれなりに儲かる仕事で先に貰った金銭だけでもしばらくは生活には困らないのだが、それだけで生きていけるほど世の中は甘くない。
彼が向かったのは路地を幾つも抜けた先、いかにも怪しい雰囲気を見せる占いの館だ。まるで客の気配が無いその店を表から、ではなく勝手知ったる様子で裏へ回ると壁の一部に隠されていた扉を開けて中から鍵を取り出す。そして躊躇うことなく裏口から中へと入って行くのだ。
「……挨拶も無しに入って来るなんてレディーに失礼だとは思わない?」
そこは表から入った客が決して見られぬバックルーム。気を抜いた様子でソファの背もたれに身体を預ける女、占い師にはとても見えない煽情的な衣装を着ているこの館の主がガガを出迎える。
「相変わらずだな。恥ずかしくないのかその格好?」
「何度でも言ってあげる。私はこの方が楽なの。それにあなたも美女のこんな姿を拝めて役得でしょ?」
そう言って彼女はやたら露出されている自身の豊満な胸を揺らすもガガはただはいはい、と適当に相槌を打つだけだ。内心、彼女はこの男は枯れ果てた老人か同性愛者なのかもしれないと疑っている。
「いいか千里、俺は仕事に来ただけだ。何か依頼は入ってるか?」
占い師の名は千里と言う。彼女は町の占い師をやる傍らガガへの依頼を受ける窓口の一つとして機能している。
「ん~、あまり儲からなそうな仕事ばかりでね~。別に依頼が無くても適当に素材を採って来てもいいのよ? それなりの値で買ってあげるから」
「お前にはこれでもかなり融通してるんだ。勘弁してくれ」
「でも借金はまだまだ残ってるみたいだけどね~」
その言葉にガガは返す言葉も無いのか視線を逸らすばかりだ。
二人の関係を遡れば長くなるが今の関係性が決まった切っ掛けはと言えばガガがこの町から出て行った時の事になるだろう。彼女はガガの新たな生活の為に主に金銭的な面で支援を続けそれは多額の借金として残っている。ガガが素材屋として名を上げる頃にはちょっとやそっとでは返せないような額に膨れ上がり、結果ガガは千里に借金を返す為に彼女を依頼の窓口とする事を受け入れざるを得なかった。
「ところで~、今日の分は?」
そしてそんな状態であれば当然顔を合わせれば借金の催促が始まるのは言うまでも無い。ガガは懐から先に受け取った報酬を取り出すとその内の五割を彼女へと手渡す。
「お~、結構入ったんだ。今日は何の素材?」
「悪いが守秘義務があるんでな」
「あ~、後ろ暗い仕事してるんだ~」
ガガは口を噤んで何も言わない。図星で何も言い返せないとも言う。早い所話題を変えようとしたのだろう、大きくわざとらしい咳払いと共に彼は今日聞いた噂について尋ねる事にした。
「そういえば剣組の締め付けが厳しくなってるらしいが、この店は大丈夫なのか?」
「ん~? まあそうねぇ。私はただの占い師だからあんまり関係無いけど。でもお客さんの中には結構困ってる人は多いみたいよ? 工場の人なんかノルマが厳しくなってどうしたらいいか分からないなんて言ってたし」
「剣組って言うと、スライム工場か?」
「たぶんね~、そこまでは言ってなかったけど」
スライム工場と言えば何年も前から公権力によって縮小を余儀なくされつつある産業の一つだ。そしてかつては剣組にとって大きな資金源となっていたしのぎでもある。かつては大産業であったそれは数年前からその危険性が叫ばれ全世界的に徐々に縮小傾向にある。
そんな状況の中でも剣組はどうにか工場を維持しようとし続けた。この町では公権力が然程強い力を持っているわけではないのだ、彼らも初めはなし崩し的に黙認させる事ができると高を括っていたらしい。しかし公権力が強い力を持っているわけではないというのは小さな問題ならば見逃されるという意味でしかない。
「噂で聞いた話だけど、森を抜けた先のトラゴッドじゃ違法スライム工場が一斉摘発されたそうよ。それでうちでも何かあるんじゃないかってピリピリしてるのかもね」
「スライムの件に関してはまあ、あれが相当衝撃だったらしいな」
「あの一件以来工場は正規の労働者が中々集まらないって話だしねぇ」
つまるところ、違法スライム工場を潰しているのは力を持ったヤクザもどきの資金源を破壊しようという試みなのだろう。公権力とヤクザの喧嘩に巻き込まれる一般人からしたら迷惑な話ではあるが、ある種雲の上の喧嘩だ、精々酒の席で愚痴を言う程度の事しかできはしない。
「あ、そうだ。折角だからスライム採って来ない? 今から工場が潰されるならそれまで取っておけば良い値段になるんじゃないかしら」
「スライムの体液は鮮度が悪くなるとコーティング剤としては使えないし薬効も悪くなる。そのぐらいは覚えておけ」
「あらそう、それは残念ね」
千里は心底残念そうに息を吐く。
―――まだ金がいるのか?
ガガはいつも彼女を見ているとそんな疑問が湧いて出る。彼女の身に付けている装飾品や身の回りにある家具の値段は一般人が知れば泡を吹いて倒れかねない金額であり、更にはどこかしらにこっそりと溜め込んでいるらしいという話も聞いている。残りの一生を遊んで暮らそうと思えばそれも難しくないはずなのに未だ貪欲に儲け話を探しているのは彼には全く理解できない価値観であった。
因みに千里は占い師としてはほとんど稼ぎは無く、実の所日々を遊んで暮らしているようなものであるのをガガは知らない。
「さて、依頼が無いならそろそろ帰るぞ」
「あらもう帰るの? 食事ぐらい奢ってあげるけど」
「悪くない申し出だが天幕に咲く華を連れて出歩くのと視線が痛いんでな」
天幕に咲く華というのは一部の町の男性陣が千里に付けているあだ名である。彼らは少ない賃金を貯めてこの占いの館へ通い詰め千里にどうにかお近付きになろうとしている者達で、まあ、彼女からしたら金払いの良いお得意様だ。残念ながら脈はまるで無いのだがそれでも通い続ける彼らの涙ぐましい努力を否定するのは可愛そうな事だろう。
ガガがいずれ千里は痴情のもつれで刺されそうだなどと思っているのは内緒だ。
そんなわけで彼女と二人きりで食事などしようものなら刺されるのは千里からガガへと変わりかねない。たかだか夕食一度の為に命を天秤に置くのは些か過剰というものだ。
「そう? それならここに食事を運んで来てもらってもいいのだけど。天幕に咲く華を独占できるなんて夢みたいだと思わない?」
「あ~、そうだなそうだな」
毎度去り際に引き留められるせいでもはやこのやり取りも若干飽きが来ているらしいガガはそのまま適当にあしらって外へ出るつもりであった。過去形なのはつまり、足を止めるに足る理由が出来たという事である。
チリリン。
音にガガは足を止める。それは珍しい事であるが占いの館への来客だ。
「あらお客さんみたい」
「どっちへの用事だと思う?」
「ん~、私の親衛隊の方々ならもう少し遅い時間に来るのよねぇ」
そんなことを言いながら彼女は口元を隠すような布だけを付けてそのまま表へと向かった。そして十数秒。
「え! あ、わぁ……」
その声はおそらくは客の、それも女性客のものだろう。まだ少し幼さの残るその声から二十歳前後、下手をすれば学生である事は容易に想像がつく。そしてどうやらここの事を詳しくは知らずに足を踏み入れたらしいことも。
―――新規の客を驚かすような格好は止めた方が良いと思うんだがな……。
いつも露出の多い、というか肌色の面積の方が多いような格好をしているのでガガは既に慣れてしまったが、初見の客からすれば思わず目を背けるか思わず凝視してしまうかの二つに一つだ。
「そんなに見つめて、触ってみる?」
「え、あ、す、すみません!」
どうやら今回の客は後者だったらしい。女からしてもあの胸は余程魅力的に映るのだろう。
「それで、あなたは占いのお客さんかしら? 可愛らしいし初回は特別にサービス価格でやらせてもらうけれど」
「いえ、その、私……」
言い淀む彼女は色々と悩んでいるのだろう。特に本当に自分が来るべき場所はここであっているのだろうか、と。しかしここまで来て何もせずに帰るなどそれこそあり得ない話だ。彼女は決心したように口を開く。
「優秀な素材屋さんがここにいるって聞いたんですけど、本当ですか?」
その言葉にバックルームで一人耳を澄ませていたガガは大きな溜息をついた。
「俺が奴らに金を払ってこの商売を見逃して貰ってるのは知ってんだろ?」
「前に聞いた……、気もする」
「そうなんだよ。んだがなぁ、どうも連中も最近は金回りが良くないらしくてな。こんな爺からも絞ろうってんだぜ?」
「お前はその商売で随分儲かってるだろ。当然の報いだな」
「てめえ! ……しかしまあ、それでお前への報酬もな、中々難しいってわけだ」
素材屋の男は申し訳なさそうに項垂れこの世の終わりかと言うような表情をする爺さんを見つめ、はっ、と鼻で笑った。
「馬鹿を言え。あんたが随分溜め込んでるのは知ってるよ。少なくともちょっと締め上げられたぐらいで無くなる金じゃないだろ」
「むぐぅ」
「今回は十本だ。はした金なら要らないね。それともその金庫の事を剣組の連中にばらそうか?」
「待て、待て! 分かった。チッ、たくよぉ」
爺さんは諦めたようで渋々といった体で金庫から諦めて十本の金銭を取り出す。
「ははは、毎度。まあ何だ、次の依頼は多少割引してやるよ」
「頼むぜ。こんな老人苛めて楽しんでんじゃねえっての」
「馬鹿言え。しわくちゃの爺なんざ苛めてもつまらねえっての。じゃあな」
「おう、また何かあったら呼ばしてもらうぜ」
素材屋の男が工房を出る。残された爺さんは一人ぽつりと呟く。
「ったく、ガガの野郎。昔はもうちょっと可愛げがあったんだがなぁ」
ガガ、それが素材屋の男の名前だ。




