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こうしてガガと灯夜の二人は協力して剣組が起こそうとしている戦争を止める事となった。なったのだが。
「盛り上がってる所悪いけどあなた達何か考えはあるの?」
横から飛んで来た千里の至極真っ当な疑問に対して灯夜はただ笑みを浮かべるだけだった。
「お前、まさか何も考えてないのか?」
「考えてましたよ。ガガって素材屋をあのザンキをぶつけてしまえば止まるんじゃないかって」
「つまり今は?」
「何もありません」
そもそも灯夜には伝手も何も無い状態からのスタートで今現在ガガを味方に付けた事ですら驚嘆に値する成果だ。更なる策など無いのは当然と言えよう。
「お前……、あんな啖呵切っておいて」
しかしながら色々と大文句を言われたガガが不満に感じるのも致し方ない。寧ろあれだけ言われて何も思わない人間がいたらそいつはちょっと怖い。
「あ~、うるさいうるさい。そんな事言ってないで何か考えてくださいよ。あなた私の下僕でしょ?」
「誰が下僕だ」
「下僕でしょうが、こんな小娘に言い負かされたのはどこのどなたでしたっけ~?」
「それとこれとは話が別だろ」
二人の間に流れる険悪なムードに千里が一人溜息をつく。さっきの互いを分かり合ったような空気はどこへやら、この二人根本的には反りが合わないのかもしれない。しかしながら千里としてはそんなことは関係無い。
「二人共ここ私の店なの分かってるかしら? 知り合いの組の人でも呼んであげましょうか?」
にこりと笑みを浮かべる彼女は間違いなく本気だ。占いに来る組の人間も多少はいるようでそれなりに親しい人もいるとかなんとか。ともかく彼女がその気になれば計画も何もご破算にする事は容易い。
それを理解した二人は仲良く肩を組んでニッコリ笑顔。
「いやいや、今のはちょっとしたじゃれあいみたいなものでな。しかし店でやる事でも無かったな」
「そうですよ姉さん! そんな怒ったら折角の美人が台無しですよぉ」
はっはっはと笑う二人の様子によくもここまで変わり身出来るものだと千里は感心する。そういう事が普通に出来るのがこの二人がここまで上手く生きて来れた秘訣なのかもしれないが。
「それで、結局どうするの?」
「え~、どうしましょう?」
基本的には今回の件に積極的に関わる必要のない千里、既に自分だけで出来る事はやり切ってしまった灯夜、そうなれば必然残る一名に視線が集まる。
「まあ、多少なら考えはある。とりあえずは……」
「とりあえずは?」
「色々と荷物を取りに帰る。こんなつもりじゃなかったからあまり装備を持ってこなかったからな」
元々ガガが町に来たのは様々な人への聞き込みのつもりだけだ。これから本格的に剣組と敵対する可能性があるなら色々と持って来ておきたいものもあるのだろう。
それはそれとして彼には聞いておかねばならないことが一つあった。
「時に灯夜、お前復活地点はどこにある?」
灯夜は唐突にそんなことを聞かれて怪訝そうに眉をひそめたが、ひとまず今後の関係の為に隠し立てをするのも悪いと思ったのだろう、普通に返事をする。
「工場に勤める時に管理下に置くって頑丈そうな倉庫に仕舞われたよ」
「そうか。ならその周辺の地図を用意しておけ。三時間後にここに集合だ」
「は?」
直後、ガガは暗器の類であろう刃を取り出すと自らの口の中から脳の方向へ突き刺した。その全ては流れるように淀みなく行われたものだからそれが終わるまで灯夜も千里も止めることなど出来はしない。
「うわっ!?」
事が終わってガガが倒れて行くのを見て灯夜が声を上げる。
「汚さないでよ~」
対照的に千里は慣れた様子でそんな風に言うだけだ。そんな彼女らの前でガガの姿が宙に溶けるようにして消えて行く。
「え? え?」
動揺する灯夜はガガのいた空間と千里の方を何度も交互に見ていたが、千里はと言えば興味を失ったかのように店の奥へと姿を消していくだけだ。やがて灯夜もその後を追って行きその場には静寂だけが残った。。
三時間後、ガガは再び千里の館へと姿を現す。
「あ、戻って来た」
普段通り裏の勝手口を開けると彼を待っていた灯夜と目があった。。彼女はどこか恨めしそうな視線を彼に向ける。
「どうした?」
「どうしたじゃないですよ。いきなりあんな死に方して、どういうつもりですか?」
「荷物を取りに行くと言っただろ」
その言葉通り彼は背中にリュックを背負っていてそこには様々な道具が入っているのが察せられる。
「ここから森を抜けて帰るより死んだ方が早い。やると決めたなら節約できる時間は節約すべきだ」
「それはそうですが……」
「大体これからお前も同じことを何度もやることになる。一々驚いてたら身が持たないぞ?」
「え?」
言いながらガガがリュックから取り出したのは腕に取り付けるクロスボウのようなものだ。ただしその矢が向いている先は前方ではなく自分自身の方向だが。
「……何ですかそれ?」
「自殺装置だ」
「自殺装置?」
名前を聞いただけで用途は分かるもののあまりにあんまりな用途に灯夜は思わず一歩後ずさる。
「懐かしいわねそれ」
しかし千里は違うようで彼女は取り出されたそれを見ると前に出て手に取る。その姿は掃除をしていたら子供の頃に遊んでいた玩具が出てきた時のようだ。
「千里さん知ってるんですか?」
「ええ。ガガが素材屋として駆け出しの頃に使ってたものね」
「な、なぜ?」
「素材屋の仕事をしてるとな、ちょっとしたことで死にそうになるんだが。その中で一番怖いのは何かわかるか?」
「ああ、確か落下死ですよね? あなたをザンキにぶつける為に素材屋については結構調べましたよ。空を飛ぶ魔獣とかに襲われて落下死して帰って来なかった人とかいるんでしょ?」
「そうだ。お前の依頼したプレートザウルスもそうだが落下死する可能性が結構高い仕事なんだ。だからそれを回避するための装置になる」
「……あ、落ちている最中に?」
「ああ。こいつを口の中に突っ込んで」
ガガはその装置を腕につけると多少自由が効く矢の向きを弄って先端が自分の方へ向くように動かす。
「ここの発射ボタンを押せば簡単に死ねる」
そう言って彼がボタンを押すと矢が発射、流石に今回はわざわざ受ける理由が無いので避けていたが頭の少し上を通り過ぎるとそれは奥の壁に深々と突き刺さった。
「まあ慣れた今となってはさっきみたいにナイフの類で簡単に出来るから使わなくなったが」「そうなんですか。……それで、なぜそれを?」
「これから必要になる。ザンキは説得で止まるような奴じゃない。戦争を止めたいならばザンキを拘束するか或いは……」
「殺す必要がある、ですか?」
ガガは答えない。戦争は止める、その決意は既に決まっているがザンキを殺すという事に対してはまだ覚悟が決まり切っていないのだろう。かつては共にこの町で生き抜いて来た仲だ、それも仕方ないのだろうが。
「あいつを相手に正面から戦えば間違いなく負ける」
「そんなに強いんですか?」
「たぶん一対一で正面からという条件ならこの町の誰も勝てないだろうな」
もしも彼らに他に頼る伝手があるのならば数で以て対抗するという手段もあったのだろう。しかしそんなものは当然なく、灯夜はもちろん仮に数に入れたとしても千里にも戦いの心得など何も無い。
頼みの綱のガガはザンキの事をよく知っているからこそ自分では勝ち目がない事をはっきり理解している。
「だからこそ俺達はまず今のザンキの事を完全に理解する必要がある」
「今のザンキを?」
「ああ。どのぐらいの体力や力があるのか、奴が持っている技能は何か、今は何を欲しがっているのか、体調が悪かったりはしないか、その他諸々あらゆる情報を」
「……つまり弱点を探し出したいってことですか?」
「概ねそういう事だ。それを探り出さなきゃ剣組は止まらない。ザンキがいる限り剣組は止まらないんだからな」
「それは……、わかりました。で、何で自殺装置が?」
「ザンキの事を調べ上げてる途中でばれそうになったら自殺すれば誰がやってたかばれないだろ?」
隠れて後をつけたとして、ばれたと思った瞬間に自殺すれば死体は消えて完全犯罪の完成というわけだ。
「ああ、なるほど……。私もやるんですか?」
「当たり前だ、一人で出来るか」
「でも私復活地点が」
「だからまずは先にそっちだな。工場に行くぞ。地図は?」
「用意してますが」
「貸せ、そして付いて来い」
「あ、ちょっと……」
地図をひったくったガガはそのまま館を後にすべく外へ向かう。やたらと早い展開に灯夜は付いて行くので精一杯のようだが何がともあれ話が先に進むのは良い事だ。彼の後を追って走った。
「ちょっと待ちな!」
しかしそんな二人に後ろから呼び止める声。灯夜が振り返ると彼女は鋭い目で睨み付けているようで思わずぎょっとしたのだが、よくよく見ればその視線が向けられているのは自分ではないとすぐに気付いた。その視線を向けられている者は呼び止められたにも関わらず振り返る事もしない、ただよくよく見れば彼が冷や汗をかいているのが見える事だろう。
「あれ」
そう言って千里が指差したのは壁に突き刺さった矢だ。先に自殺装置の実演の際にそうなったものだろう。
「誰が直すの?」
「あ」
灯夜はそれで思い至る。ここは千里の家だ、そこであんなことをして良いはずがないだろう。それを思うと先程からやたらとガガの話のテンポが早く感じたのはこの場を逃げ出そうとしていたのかもしれない。
ガガはしばらく黙っていたがやがて僅かに振り向き引き攣った笑みを浮かべた。
「こ、今度直すってのでここは……」
「借金増やしとくわね」
拝み倒すガガを無視して彼女は借用書を取り出しその数字を幾らか増やす。この無慈悲さこそが彼女がこの生活を手に入れた秘訣なのかもしれない。




