nikki xx1年11月25日-2
整った顔立ちだった。
だが、その冷めた表情が強く印象に残った。
もし俺が刺客だったなら、声を掛けた瞬間に殺されていただろう。
その眼光には、いつでも殺気へと切り替えられる間合いが宿っていた。
しかし俺は、目が合った瞬間に笑っていた。
ニッキがこちらへ歩いてくる。
ついさっきまで人を殺していた兵士。
それなのに間合いへ入った瞬間、俺は思わずニッキを抱き寄せてしまった。
「よしよし、よしよし」
橋の上にいた人々の視線は冷たかった。
二人の男が近寄り、ニッキの耳元で何かを囁く。
男たちが去っても、ニッキは動かなかった。
「ニッキ、遊びに行くか?」
ニッキは無言で頷いた。
親子ほど年の離れた、血の繋がらない親子のように見えた。
俺たちは川をいくつも渡り、海に近い河口へ向かった。
ニッキは無表情のまま対岸を見つめている。
その大人びた少年を、なぜか少しいじめてみたくなった。
「この川にはサメがいるから気をつけろよ……」
そう嘘をついた。
ニッキは驚き、恐る恐る川を覗き込む。
その時だった。
溺れた人が流されてきた。
助けなきゃ――そう思った瞬間、ニッキは迷うことなく川へ飛び込んだ。
サメがいると思い込んでいる川へ。
俺は冷静になり、飛び込むのをやめた。
流れ着く先を見据えながらロープを探す。
見つけたロープを投げ、二人を岸へ引き上げた。
ニッキに抱えられていた女性には意識があり、何度も礼を言って去っていった。
俺とニッキは町へ出て、飯を食うことにした。
初めて来た町で店も知らなかったが、川の中州に建つ小綺麗な店が気になった。
「あそこへ行こう」
浮かない顔のニッキを尻目に、飛び石へ飛び移る。
その瞬間だった。
石が沈み、俺の体も沈んだ。
底なし沼のように深く沈んでいく。
もがきながら流され、別の石へ手を伸ばす。
しかし、それも沈む。
ニッキは下流で俺を呼んでいた。
必死に泳ぎ、差し伸べられた手を掴んで助けられた。
ニッキがぽつりと呟いた。
「俺も昔、底なし沼にハメる詐欺をやらされたんだ……。
あそこの石は全部沈む。
知ってるのに隠して、人をハメる。
騙される人を見るのが嫌で辞めたんだ……。
政府がやってることだよ」
ニッキは正直に教えてくれた。
「あそこにいる奴らは、底なし沼の番人だよ」
番人らしき二人が近寄り、ニッキに馴れ馴れしく声を掛ける。
俺たちは政府の建物へ連れて行かれた。
この国には似つかわしくない豪華な建物だった。
綺麗な部屋をいくつも通り過ぎ、最後の部屋へ案内される。
そこには元締めらしき頭を剃り上げた男が、巨大な椅子に腰掛けていた。
俺とニッキは革張りのソファーに座った。
元締めと手下二人が俺を威嚇する。
俺は男を真っ直ぐ見据えて言った。
「ニッキは、もうお前らの世界には戻らない。
俺がニッキを日本へ連れて行く」
そう啖呵を切った。
拳を握り、ニッキの手を掴んで扉へ向かおうとした、その瞬間――
拳を握ったまま目が覚めた。
ニッキは、もういなかった。




