amsterdam xx2年12月10日
KLMの飛行機が墜落した。
原因は異能力だった。
水を操る何者かが、その能力を使って機体を爆破したのだ。
俺は犯人を知っている。
ついさっきまで、そいつと戦っていた。
しかし、その正体を特定することはできない。
ちなみに俺は風魔法だ。
飛行機はゆっくりと高度を下げていく。
俺は、機内にあるはずもないバスタブの中へ身を潜め、頭を抱えて衝撃に備えた。
やがて飛行機は大きく揺れることもなく、静かに胴体着陸した。
乗客は全員無事だった。
ひとまず乗客たちは、ヨーロッパのとある国のホテルへ案内された。
助かった安堵からか、皆どこか興奮気味で笑顔を浮かべている。
ホテルへ向かう道は、ゆるやかで幅広い長い階段になっていた。
その階段の一段一段には、浮浪者たちが横たわっている。
年老いた者もいれば、女や子ども、若者の姿さえあった。
職を失い、行き場をなくした人々が街にあふれていた。
俺は彼女の手をそっと握った。
いつの間にか、若い彼女が隣にいた。
この混雑ではぐれないよう、強く手を引きながら、俺たちはホテルへ向かった。
チェックインを済ませると、人混みを避けるように、俺たちはすぐプールへ向かった。
俺は、なぜかリゾート気分になっていた。
ホテルは水不足だった。
シャワーを浴びたかったが、水はほとんど出ない。
皆、洗面所で裸になり、体を拭いたり、少ない水で洗ったりと、それぞれ工夫していた。
さっきまで時間つぶしにプールで泳いでいた俺は、「プールの水で体を洗えばいい」と思い付き、再びプールへ向かった。
すると、皆も同じことを考えたらしく、ぞろぞろと後を付いて来る。
あっという間にプールは人であふれ返った。
気が付くと、そこには昔の同級生たちまでいた。
なぜか俺は、その状況に無性に腹が立っていた。
ようやく石鹸を手に入れ、頭を洗い始めたそのとき、館内アナウンスが流れた。
「お預かりしていた荷物の搬入が完了しました」
俺は慌ててスーツケースを受け取りに向かった。
乗客たちの荷物はすべて無事だった。
だが、俺のスーツケースだけは、まるで巨大な何かに踏み潰されたかのように、ぺったんこになっていた。
中身はすべて失われていた。
さらに、折り畳み自転車のUltra Light 7は、ハンドルとサドルを支えるポールだけがなくなっていた。
ロストバゲージの窓口へ向かったものの、英語でうまく状況を説明することができない。
俺は彼女のほうを向いた。
「話せる?」
そう尋ねると、
「話せるよ」
と、あっけらかんと答えた。
俺は彼女に通訳を頼んだ。
結局、荷物はあきらめ、海外旅行を楽しむことにした。
彼女と行動を共にするうちに、行動範囲が広がっていった。
俺はホテルを出て、彼女の家に泊めてもらうことになった。
最初は一人暮らしだと思っていたが、実際には両親と同居していた。
俺は、あまり愛想のよくない親父さんに軽く挨拶をした。
すると、いつの間にか同級生たちまで次々と彼女の家へ上がり込んでくる。
また俺は、なぜかムカついていた。
俺には携帯電話も、着替えも、何もない。
皆は携帯電話で家族や知人に無事を知らせている。
だが、俺は誰にも連絡を取らなかった。
そもそも、俺が海外へ来ていること自体、誰も知らない。
お忍びで来ていたのだ。
だから、連絡を取る相手もいなかった。
わざわざ連絡する必要もなかった。
「早くオランダへ行かなければ……」
頭の中は、その焦りでいっぱいだった。
俺は彼女に尋ねた。
「一緒にオランダへ行くか?」
彼女は迷うことなくうなずいた。
「行くよ」
嬉しそうに微笑み、抱きついてきた。
彼女の顔は、“あやや”によく似ていた。
日本人だったはずなのに、どうしても名前だけが思い出せなかった。
つい数秒前まで名前で呼び合っていたのに。
くやしい。




