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魂と鋼の魔女  作者: カミサマ
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第82話 黄金の追跡者

第82話 黄金の追跡者


 夜空を裂くように、黄金の槍が放たれた。


 ゴォォォォォォォォォッ!!


 太陽のような輝きを放ちながら、音速を遥かに超える速度で一直線にジンへ迫る。


 空気が悲鳴を上げる。


 大気との摩擦で槍の周囲は白熱し、夜空に黄金の軌跡を刻んでいた。


挿絵(By みてみん)


 しかし。


 ジンは微動だにしない。


 黄金の瞳で槍を見据えたまま、小さく呟く。


「空間転移。」


 空間が揺らぐ。


 次の瞬間、ジンの姿は数百メートル先へと消えていた。


 だが。


 黄金の槍は止まらない。


 キィィィン――。


 空中で不自然な軌道を描く。


 直角に曲がり、再びジンへ照準を合わせた。


「……追尾ですか。」


 ジンの表情は変わらない。


 再び空間転移。


 しかし槍もまた、軌道を変える。


 三度。


 四度。


 何度空間を越えても、その槍は執拗に追い続けた。


 遥か後方でアモンが楽しそうに笑う。


「ハハッ!」


「逃げても無駄だ!」


「そいつは永遠にお前を追い続ける!」


 ジンは静かに息を吐く。


「しつこいですね。」


 そう呟くと、右足をゆっくりと前へ出した。


「――空間歪曲。」


挿絵(By みてみん)


 足元の空間が静かに捻じ曲がる。


 まるで透明なガラスを押し曲げたように、景色が僅かに歪んだ。


 次の瞬間。


 捻じ曲がった空間が、元へ戻ろうと弾ける。


 その反動だけでジンの身体は弾丸のように射出された。


 ドォォォォォンッ!!


 音を置き去りにする速度。


 黄金の槍すら一瞬見失うほどの加速だった。


 しかし。


 槍は再び軌道を修正する。


 どこまでも。


 執拗に。


 決して標的を見失わない。


「……困りましたね。」


 その瞬間だった。


 黄金の槍が、ジンの胸を貫いたように見えた。


 アモンが笑う。


「終わ――」


 だが。


 槍の軌道が、不自然に僅かだけ曲がっていた。


 ジンの身体は紙一重でそこにはない。


 胸元を掠めるように、槍は背後へ通り抜けていく。


 ジンの周囲だけ、空間が僅かに歪んでいた。


 空間歪曲によって、槍の軌道そのものを逸らしていたのである。


「紙一重でした。」


 しかし。


 黄金の槍は再び反転する。


 アモンは肩を震わせた。


「いつまで避けられるかな?」


 そう言うと、左手を掲げる。


 黄金の粒子が集まり始めた。


 やがて。


 二本目の黄金の槍が姿を現す。


「一本じゃ退屈だろ?」


 ニヤリと笑う。


「二本で遊んでやる。」


 次の瞬間。


 二本の槍が同時に飛び出した。


 一方が正面から。


 もう一方が死角へ回り込む。


 まるで空間歪曲によって生じる僅かな隙間を狙うように。


 針の穴を通す精度で迫ってくる。


「……なるほど。」


 ジンは黄金の軌道を見つめる。


 空間認識。


 歪められた空間の流れ。


 反射角。


 全てが頭の中へ浮かび上がる。


「そこですか。」


 二本の槍が空間歪曲の隙間を縫うように突き抜けた。


 だが。


 その瞬間。


 ジンは黒刀を抜く。


「――断空。」


 黒刀が静かに振るわれる。


 ズガァァァァァンッ!!


 空間そのものが断ち切られた。


 漆黒の断面。


 それは壁だった。


 空間と空間を切り離した絶対防御。


 黄金の槍が激突する。


 ゴォォォォォォォォンッ!!


挿絵(By みてみん)


 世界が揺れる。


 凄まじい衝撃波が森を吹き飛ばした。


 漆黒の壁へ黄金の槍が食い込み、火花のような黄金の粒子が散る。


 しかし。


 壁は破れない。


 黄金の槍が再び動き始めた、その刹那。


「終わりです。」


 黒刀が閃く。


「――断空。」


 ズガァァァァァァンッ!!


 空間ごと黄金の槍は真っ二つに裂け、そのまま漆黒の闇へ飲み込まれて消滅した。


 だが。


 もう一本の槍は既に目前まで迫っていた。


 ジンは空間転移で回避する。


 それでも槍は追ってくる。


 頬を一筋の汗が伝った。


「……キリがありませんね。」


 その瞬間。


 ジンの姿が消えた。


 空間歪曲による爆発的な加速。


 一瞬でアモンの眼前へ踏み込む。


 拳を握る。


 その右拳へ膨大なエネルギーが集束していく。


挿絵(By みてみん)


 世界が軋む。


 空間へ無数の亀裂。


 大気が震える。


 黄金のオーラまで歪み始める。


 ビキ……。


 ビキビキビキィィィッ!!


 ジンの周囲の空間が耐え切れず、ガラスのように砕け始めた。


 世界そのものが悲鳴を上げる。


「これは――」


 アモンの黄金の瞳が妖しく輝く。


 一瞬先の未来。


 自分が空間ごと粉砕される光景が脳裏を過ぎる。


「……ッ!」


 咄嗟に後方へ跳ぶ。


 黄金の翼が大きく羽ばたく。


 しかし。


「遅い。」


 アモンの笑みが消える。


 初めて危険を悟った。


 ジンは静かに拳を突き出す。


「――崩界。」


挿絵(By みてみん)


 瞬間。


 拳が黄金のオーラへ触れた。


 否。


 触れる前に。


 空間そのものが砕け散った。


 ゴガァァァァァァァァァァンッ!!


 半径数十キロに及ぶ大爆発。


 黄金の森。


 黄金の岩。


 黄金の大地。


 その全てが一瞬で消滅する。


 巨大なクレーターだけが残された。


 爆煙が夜空を覆う。


 やがて。


 煙が晴れる。


 そこには血を吐き、片膝をつくアモンの姿があった。


「……いてぇな。」


挿絵(By みてみん)


 笑おうとした、その時だった。


 ピタリ。


 風が止む。


 舞い散る土煙も。


 落下する石も。


 空中で静止した。


 時間が止まっていた。


「……はぁ。」


「やっぱりこうなった。」


「だから来たくなかったんだけど。」


 気怠そうな声が響く。


 アモンの前に、一人の少女、いや、幼女が浮いていた。


 欠伸を噛み殺しながら頭を掻く。


「ルシファー様に頼まれたから来たけど……」


「本当に面倒臭い。」


挿絵(By みてみん)


 その瞳には眠気しかない。


 だが、その周囲だけは世界の時間が止まっている。


 アモンが苦笑した。


「ベルフェゴールか。」


「助かったぜ。」


 ベルフェゴールは肩を竦める。


「勘違い。」


「ルシファー様がうるさいから。」


「止めに来ただけ。」


 そう言って、気怠そうにジンへ視線を向ける。


「……君、本当に人間?」


 止まった時間の中。


 ジンだけが僅かに眉を動かした。


 静止した世界で動こうとする気配に、ベルフェゴールの眠たげな瞳が初めて細められる。


「へぇ……。」


「時間が止まった世界で、まだ抵抗できるんだ。」


 夜の森に、新たな怪物が姿を現した。


――続く。

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