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魂と鋼の魔女  作者: カミサマ
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第81話 強欲の翼

第81話 強欲の翼


 夜空が震えた。


 黄金色の魔力が、アモンの全身から噴き上がる。


 ゴォォォォォォォォッ!!


 黄金の奔流は天へと昇り、やがて夜空いっぱいに巨大な翼を描いた。


 まるで神話に語られる天使の翼。


 だが、その輝きに神聖さは欠片もない。


 全てを欲し、全てを奪う。


 強欲そのものを形にした黄金の翼だった。


「なら――」


 アモンが両手を広げる。


「次は俺の本気を見せてやる」


挿絵(By みてみん)


 バサァァァァァッ!!


 黄金の翼が羽ばたいた。


 次の瞬間。


 無数の黄金の羽が夜空から舞い降りる。


 まるで雪だった。


 黄金色に輝く、美しく幻想的な雪。


 しかし。


 その正体は死だった。


 羽が木の葉へ触れる。


 パキッ。


 葉が黄金へ変わる。


 枝が黄金へ変わる。


 幹が黄金へ変わる。


 岩石が黄金へ変わる。


 草花が黄金へ変わる。


 大地が黄金へ変わる。


 森全体が、ゆっくりと黄金の世界へ侵食されていく。


 逃げ場など存在しない。


 空を埋め尽くすほどの羽。


 回避不能の範囲攻撃だった。


 しかし。


 ジンだけは動かなかった。


 黒刀を静かに下ろし、ゆっくりと目を閉じる。


「――空間歪曲。」


挿絵(By みてみん)


 ボゥッ。


 その瞬間。


 ジンを中心に周囲の景色が僅かに歪んだ。


 空間そのものが捻じ曲がる。


 黄金の羽が迫る。


 だが。


 一枚も触れない。


 ジンへ向かっていた羽は、見えない流れに導かれるように軌道を変え、不自然なほど綺麗に彼の身体を避けながら降り注いでいく。


 まるで空間そのものが、ジンの存在を拒絶しているかのようだった。


 アモンが口元を吊り上げる。


「へぇ。」


「やるじゃねぇか。」


 そして。


 パチン。


 軽く指を鳴らした。


 黄金へ変わった地面。


 散らばる黄金の羽。


 砕けた黄金の木々。


 それら全てが震え始める。


 ガガガガガガガッ!!


 黄金が集まる。


 人の形を成す。


 一体。


 二体。


 十体。


 百体。


 数百体もの黄金のガーゴイルが森中に出現した。


 翼を広げ、一斉に咆哮を上げる。


「行け。」


挿絵(By みてみん)


 アモンが笑う。


 その瞬間。


 黄金の軍勢が一斉に空を埋め尽くした。


 四方八方からジンへ襲い掛かる。


 しかし。


 ジンは小さく息を吐いただけだった。


「……邪魔ですね。」


 右足をゆっくり持ち上げる。


 そして。


 地面を踏み砕くように踏み下ろした。


 ドン――。


 静かな一歩。


 その直後だった。


 ビキビキビキビキィィィッ!!


 ジンの足元から空間そのものへ無数の亀裂が走る。


 まるで世界を支える巨大なガラスへ、巨大な槌を叩き付けたようだった。


「――衝撃転移。」


挿絵(By みてみん)


 轟ッ!!


 空間を伝った衝撃が全方位へ一斉に拡散する。


 目には見えない衝撃波。


 それは数百体の黄金のガーゴイルを一瞬で呑み込んだ。


 ドゴォォォォォォォォンッ!!


 黄金の軍勢が次々と砕け散る。


 翼が砕け。


 腕が砕け。


 胴体が砕け。


 まるで巨大な槌で叩き潰されたように、全てが地面へ押し潰されていく。


 ほんの数秒。


 それだけで空は静けさを取り戻した。


 アモンは腹を抱えて笑う。


「ハハハハハッ!!」


「数なんざ関係ねぇってか!」


 黄金の破片が森中へ降り積もる。


 だが。


 それで終わりではなかった。


 黄金の欠片が再び震える。


 カタカタカタ……。


 無数の破片が渦を巻くように集まり始めた。


 巨大な腕。


 巨大な脚。


 巨大な胴体。


 最後に頭部が形成される。


 森全体が影に包まれた。


 全長五キロにも及ぶ黄金の巨人。


 巨大な黄金のゴーレムがゆっくりと立ち上がる。


 その拳が天高く振り上げられた。


 山のような拳。


 振り下ろされれば、この森そのものが消える。


 しかし。


 次の瞬間だった。


 スッ――。


 黒い一閃。


 ただ、それだけ。


 ズガァァァァァァァンッ!!


挿絵(By みてみん)


 空間ごと黄金の巨人が両断された。


 胴体を中心に巨大な裂け目が走る。


 裂け目の奥には、一瞬だけ光すら存在しない漆黒の闇が覗いていた。


 黄金の巨体は音もなく左右へ崩れ落ちる。


 アモンは空を見上げた。


 そこには。


 刀を構えたまま宙へ立つジンの姿があった。


 肩で息はしていない。


 だが。


 僅かに眉をひそめている。


 度重なる空間干渉。


 その代償は確実に蓄積していた。


(……消耗が早い。)


(長引けば不利になる。)


 ジンは表情を変えず刀を構え直す。


 その様子を見たアモンが笑う。


「確かにお前は強ぇ。」


「だが。」


「俺には勝てねぇ。」


 ジンの視線が鋭くなる。


「何故です?」


 アモンは両腕を広げた。


「お前には底がある。」


「だが、俺には底がねぇ。」


 黄金の森が震え始める。


 倒れた木々。


 黄金の岩石。


 黄金の土。


 森中の黄金が黄金色の粒子となってアモンの身体へ吸い込まれていく。


 ゴォォォォォォォォォッ!!


 魔力が膨れ上がる。


 さっきよりも。


 さらに。


 さらに。


 尽きることなく増幅していく。


「俺は強欲だ。」


「黄金が存在する限り、俺の魔力は尽きねぇ。」


「戦えば戦うほど、この世界は俺のものになる。」


 アモンの右手へ黄金が集束する。


 一本の槍が姿を現した。


 眩い光。


 まるで小さな太陽を握っているかのようだった。


 黄金の槍。


 触れた瞬間、あらゆる存在を黄金へ変える呪いの槍。


 アモンはゆっくりと構える。


「この槍は永遠にお前を追い続ける。」


「逃げても。」


「隠れても。」


「空間を越えてもな。」


 黄金の瞳が妖しく細められた。


「避けてみろよ。」


挿絵(By みてみん)


 次の瞬間。


 アモンが黄金の槍を投擲する。


 夜空が昼のように染まった。


 黄金の流星が、一直線にジンへ迫る。


――続く。

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