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魂と鋼の魔女  作者: カミサマ
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第79話 新しい使用人

第79話 新しい使用人


「待って下さい」


 静まり返った地下牢に、カノンの声が響いた。


 クロエが振り返る。


「何?」


 カノンは一歩前へ出る。


 真っ直ぐクロエを見つめ、静かに頭を下げた。


「私達を……雇って下さい」


 地下牢が再び静まり返る。


「……え?」


 クロエが思わず聞き返した。


 だが、それより早く。


「ちょっ、何言ってるのよ!?」


 エリスが慌ててカノンの肩を掴んだ。


「本気なの!?」


「吸血鬼の屋敷よ!?」


 シオンも目を丸くする。


「そうですよ!」


「何を言い出すんですか!」


 ノーラも慌てて止めに入る。


 しかし。


 カノンは表情を変えなかった。


「少し集まって」


 小さく呟く。


 四人が自然と円陣を組む。


挿絵(By みてみん)


 その瞬間。


 微かな風が四人を包み込んだ。


 風の精霊魔法。


 外へ声が漏れないよう遮断する結界だった。


「まだ敵戦力を把握できていない」


 カノンが静かに言う。


「あの化け物みたいな剣士」


「上級怨霊」


「吸血鬼キール」


「そして、まだ私達の知らない戦力が存在する可能性も高い」


 三人は黙って聞いている。


「今、この状態で再挑戦するのは危険」


「中途半端な情報が一番危険って事ね?」


 シオンは、頷きながら呟く。


 エリスが腕を組む。


「……それは分かるけど」


「ここに残るなんて」


 カノンは続けた。


「幸い」


「クロエ達は私達を殺す気はない」


「少なくとも今は」


「それに」


 一瞬だけクロエを見る。


「あの人達は……本当に悪なの?」


 誰も答えられなかった。


 吸血鬼もいる。


 アンデッド軍団もいる。


 地下牢まである。


 なのに。


 殺そうとはしない。


 尋問もクロエ自身が止めた。


 普通の魔王なら考えられない。


「見極める必要がある」


 カノンが結論を告げる。


「戦わなくて済むなら、それが一番いい」


 沈黙。


 数秒後。


 エリスが大きく息を吐いた。


「……分かったわ」


「付き合う」


 シオンも肩を竦める。


「ここまで来たら最後まで付き合うしかないか」


 ノーラも小さく頷いた。


「私も賛成です」


 風が消える。


 作戦会議は終わった。


 カノンが再びクロエへ向き直る。


「改めてお願いします」


「私達をここで働かせて下さい」


「メイドでも執事でも」


「何でもやります」


 クロエは少し困ったように頬を掻いた。


「別に労働力なら足りてるんだけど」


挿絵(By みてみん)


 そう言って視線を向ける。


 地下牢の外では、待機していたグール兵達が整然と並んでいた。


 屋敷の掃除。


 警備。


 畑仕事。


 料理。


 力仕事。


 日常の雑務は全てグール達がこなしている。


 人手不足とは程遠い。


 エリス達は思わず顔を見合わせた。


(確かに……)


(足りてるわね……)


 クロエは続ける。


「それに」


「身元も分からない貴方達を信用できないし」


 穏やかな口調だった。


 だが、その言葉はもっともだった。


 エリスが慌てて一歩前へ出る。


「こ、これでも私達はAランク冒険者パーティーなのよ!」


挿絵(By みてみん)


「色々と役に立てると思うわ!」


「Aランク?」


 クロエが少しだけ目を丸くする。


 つい先日、自分もAランクへ昇格したばかりだった。


 同じAランク。


 それだけで、ほんの少しだけ親近感が湧く。


「そう……」


 クロエは腕を組み、少し考え込む。


 追い返しても、また誰かが来るかもしれない。


 殺す気はない。


 平穏に暮らしたいだけだ。


 ならば。


 屋敷の中にいた方が、お互い無駄な争いは避けられる。


「仕方ないわね」


 冒険者達の表情が明るくなる。


 その時だった。


「じゃあ!」


 元気な声が地下牢へ響く。


 千手怨霊ミサだった。


 満面の笑みを浮かべ、両手を叩く。


「貴方達はメイドと執事ね!」


挿絵(By みてみん)


「お屋敷にはやっぱりメイドと執事が必要よね?」


 全員が固まった。


「……え?」


 カノンが思わず聞き返す。


 ミサは目を輝かせる。


「せっかくのお屋敷なのにグールしかいないなんて、つまんないでしょ?」


「やっぱり、屋敷にはメイドさんと執事さんが居ないとね!」


「メイドに囲まれながら屋敷で優雅に暮らしてみたかったのよね!」


 完全に自分の理想だった。


 クロエが額に手を当てる。


「誰がお嬢様よ……」


「もちろん私!」


 ミサは即答した。


「それに……クロエがお屋敷の主人なんだから、メイドと執事がいた方がそれっぽいじゃない!」


「……頭が痛くなってきた」


 クロエは、頭を押さえてため息を吐く。


 ユナも頷く。


「確かに、お嬢様っぽいニャ」


「ユナまで何言ってるのよ……」


 クロエは深く溜息を吐いた。


 もう訂正するのも面倒だった。


「……好きにしなさい」


「やったぁ!」


 ミサは飛び跳ねて喜ぶ。


「今日から新人さんだー!」


 一方。


 冒険者パーティーは複雑な表情で立ち尽くしていた。


(潜入は成功した)


(でも……)


(なんで私達、メイドと執事になってるの?)


挿絵(By みてみん)


 誰一人として答えられなかった。


――続く。

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