第71話 A級冒険者
第71話 A級冒険者
クロエ達が黒岩ダンジョンを攻略していた頃――
迷いの森では別の戦いが始まろうとしていた。
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「本当にこんな場所にA級ダンジョンがあるの?」
赤髪の少女エリスは不機嫌そうに腕を組んだ。
年齢は十七歳前後。
貴族令嬢らしい整った顔立ちと、燃えるような赤髪が特徴的な美少女だった。
王都でも有名な爆裂魔術師。
家出した貴族令嬢という異色の経歴を持つA級冒険者である。
「領主様直々の依頼です」
金髪の美女ノーラが苦笑した。
元高位神官。
回復、浄化、強化。
神聖魔術を極めた異端神官である。
「少なくとも何かはありますよ」
「そうだな」
大剣を担いだ大男ガイアスが笑う。
「強い奴がいるなら歓迎だ」
その背丈は二メートル近い。
狂戦士の呪いを受けた戦士。
王国屈指の前衛だった。
「……静かに」
先頭を歩いていたカノンが立ち止まる。
小柄な少女。
黒装束。
暗殺者のような格好。
風の流れ。
空気の振動。
音の反射。
全てを感じ取る斥候だった。
「どうした?」
ハーフエルフの弓使いシオンが尋ねる。
「霧」
カノンが短く答えた。
「来る」
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次の瞬間。
森が白く染まった。
濃霧。
数メートル先すら見えない。
視界が完全に閉ざされる。
「うわ……」
シオンが眉をひそめる。
「何これ」
「これが報告にあった霧か」
ガイアスが周囲を見回す。
だが何も見えない。
方向感覚すら失われそうだった。
「普通の霧じゃない」
カノンが呟く。
腰のポーチから魔導具を取り出した。
青白い光が浮かび上がる。
「方位固定」
「風向き確認」
「空気流動測定」
次々と魔導具を起動する。
「右」
カノンが歩き出した。
「付いて来て」
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しかし。
十分後。
二十分後。
三十分後。
霧は終わらない。
むしろ濃くなっている。
「本当に合ってるの?」
エリスが不安そうに言う。
「合ってる」
カノンは即答した。
「でも普通じゃない」
風が狂っている。
空気の流れが変化している。
まるで森そのものが侵入者を迷わせているようだった。
「神の光よ」
ノーラが杖を掲げる。
柔らかな光が周囲へ広がる。
霧が押し退けられる。
「助かる」
カノンが初めて感謝の言葉を口にした。
「視界が三倍になった」
「褒め言葉として受け取ります」
ノーラが微笑む。
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二時間後。
ようやく霧が薄くなり始めた。
「抜けたか?」
ガイアスが息を吐く。
だが。
カノンの表情が変わった。
「止まって」
全員が武器を構える。
緊張が走る。
「何かいる」
「魔物か?」
「分からない」
カノンは目を閉じた。
耳を澄ませる。
そして違和感を覚える。
「……足音」
「足音?」
シオンが首を傾げる。
「揃い過ぎてる」
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その瞬間。
森の奥から現れた。
人影。
いや。
死人だった。
腐敗した肉。
濁った瞳。
灰色の肌。
グール。
だが普通ではない。
全員が黒い軍服を着ていた。
しかも。
手には奇妙な棒状の武器。
「何あれ?」
エリスが眉をひそめる。
誰も知らない。
見たことがない。
剣ではない。
槍でもない。
杖でもない。
未知の武器だった。
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そして。
グール達が一斉に構える。
嫌な予感が走る。
「伏せ――」
カノンが叫ぶ。
同時だった。
ダダダダダダダダダダダダダダダッ!!
轟音。
木々が吹き飛ぶ。
土が爆ぜる。
エリスの頬を何かが掠めた。
「っ!?」
後方の大木。
拳大の穴が空いている。
「な、何今の!?」
誰も答えられない。
何が飛んできたのか見えなかった。
だが。
武器だ。
それだけは分かる。
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再び轟音。
ダダダダダダダダダッ!!
無数の攻撃。
見えない。
速過ぎる。
「散開!!」
ガイアスが叫ぶ。
全員が飛び退いた。
直後。
立っていた場所が抉れる。
「冗談でしょ……」
エリスの顔色が変わる。
グールが武器を使う。
それだけでも異常。
だが。
その武器は未知だった。
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「なら吹き飛ばす!!」
エリスが杖を掲げる。
膨大な魔力が集まる。
赤い魔法陣。
熱。
圧力。
「爆裂魔法!!」
轟音。
森が揺れた。
巨大な爆発がグール歩兵部隊を飲み込む。
木々ごと吹き飛ぶ。
地面が抉れる。
数十体のグールが消滅した。
「やったか?」
シオンが呟く。
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だが。
煙が晴れる。
そこにいたのは。
重装甲のグール達だった。
巨大な盾。
分厚い装甲。
そして。
さらに巨大な武器。
「まだいるの!?」
エリスが絶叫する。
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ガガガガガガガガガガガガッ!!
先程以上の轟音。
木々が薙ぎ倒される。
弾幕。
圧倒的な火力。
「結界!」
ノーラが神聖魔法を展開。
光の壁が生まれる。
見えない攻撃が防がれる。
しかし壁が軋む。
「嘘……」
ノーラが息を呑む。
神聖結界が削られていた。
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「面倒だな!」
ガイアスが突撃する。
大剣を振るう。
一撃。
二撃。
三撃。
重装兵を次々と叩き潰す。
だが数が多い。
明らかに軍隊だった。
「統率されてる」
カノンが呟く。
「誰かいる」
「指揮官か?」
シオンが矢を放ちながら尋ねる。
「多分」
カノンの顔色が悪い。
「これは軍隊」
「ダンジョンじゃない」
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数時間後。
激戦の末。
ようやくグール軍団を突破した。
だが。
五人とも疲労していた。
A級冒険者。
王国有数の実力者。
それでも楽勝とは程遠かった。
「信じられない……」
エリスが息を吐く。
「アンデッドが軍隊作ってるなんて」
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その時。
シオンが遠くを見た。
「……あれ」
全員が視線を向ける。
霧の向こう。
森の奥。
そこには巨大な屋敷があった。
高い外壁。
見張り台。
巡回するアンデッド。
監視塔。
完全な要塞。
「ダンジョンじゃない」
カノンが呟く。
「誰か住んでる」
全員が息を呑んだ。
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その頃。
屋敷の二階。
窓際。
紅茶を飲んでいた男がいた。
赤い瞳。
黒い燕尾服。
優雅な笑み。
吸血鬼キール。
彼は森の奥を眺めながら静かに微笑んだ。
「お客様ですか」
その言葉と共に。
赤い瞳が細められる。
まるで獲物を見つけた捕食者のように。
――続く。




