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魂と鋼の魔女  作者: カミサマ
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第70話 約束

第70話 約束


 グランドブレイカーとの激戦からしばらく後。


 地下空洞には再び静寂が戻っていた。


 巨大兵器の残骸が至る所に散乱し、真っ二つになった断面は未だに赤熱している。


 まるで超高出力レーザーで切断されたかのような、美しく異常な断面だった。


「凄いわね……」


 クロエは思わず呟いた。


 ミスリル装甲。


 対竜決戦兵器。


 アースドラゴン討伐用に作られたドワーフ族の最高傑作。


 それがたった一太刀で斬り捨てられている。


 しかも。


 ゴーレムだけではない。


 背後の岩盤。


 壁。


 天井。


 全てが一直線に裂けていた。


(本当に何なのよ……)


 思わずジンを見る。


 本人は何事もなかったように残骸を見上げていた。


「ドワーフ族の技術って凄いですね」


 感心したような声だった。


「こんなロボットみたいなゴーレムを作れちゃうなんて……」


 クロエの眉が僅かに動く。


「ロボット?」


挿絵(By みてみん)


 ジンが固まった。


「あっ」


 しまった。


 そんな顔だった。


「えっと……」


「人型兵器みたいな意味です」


 明らかに誤魔化した。


 クロエは黙る。


(ロボット……聞き間違い?)


 前世では聞き慣れた言葉だが、この世界にロボットという概念は無い。


(いや、ドワーフの技術のことを指す専門用語なのかも?)


 そして。


 ジンは続ける。


「僕なんてプラモデルを組み立てるだけでも四苦八苦してたのに」


 クロエの目が細くなる。


(プラモデル……)


 まただ。


 前世の知識。


 この世界の住人なら絶対に使わない言葉。


(やっぱり……)


 だが結論は出ない。


 転生者なのか。


 転移者なのか。


 それとも別の何かなのか。


 分かるのは一つだけ。


 ジンが普通ではないということだった。


「それにしても」


 ジンは巨大な残骸を見上げる。


「これを作ったドワーフ族の人達が見たら悲しみそうですね」


「それは仕方ないでしょ」


 クロエは肩を竦める。


「壊さなかったら私達が死んでたわ」


「それもそうですね」


 ジンは苦笑した。


 そして不意にクロエを見る。


「あっ」


「クロエさん」


「何?」


「怪我はありませんか?」


「無いわよ」


「良かった」


 本当に安心したような顔だった。


 その後。


 少し躊躇うように口を開く。


「あと……」


「?」


「どうして仮面を付けてるんですか?」


 クロエが固まる。


 ジンも慌てる。


「あっ」


「デリケートな話だったらすみません!」


「別に」


「その……」


 ジンは少し照れ臭そうに笑った。


「何となくですけど」


「クロエさんって可愛らしい雰囲気ありますし」


「素顔も素敵なんだろうなって」


 クロエが目を瞬かせる。


 ユナも目を丸くした。


 しかし。


 ジンは慌て始める。


「あっ!」


「いや!」


「別に口説いてるとかじゃなくて!」


「単純に興味というか!」


「その!」


「やっぱり……知り合ったばかりの僕なんかに、見せてくれませんよね」


「……そうね」


 クロエは呆れた。


 本当に変な男だった。


 世界を真っ二つに斬った本人とは思えない。


 その時だった。


「宝箱にゃーーーーーっ!!」


 ユナが叫んだ。


「!?」


 二人が振り返る。


 部屋の奥。


 崩れた台座の上。


 豪華な宝箱が置かれていた。


 金色の装飾。


 宝石。


 いかにも財宝が入っていそうな見た目。


 そして。


 ユナは既に飛び付いていた。


「待ちなさい!」


「待って下さい!」


 二人が同時に叫ぶ。


 しかし遅い。


 パカッ。


 宝箱が開く。


 次の瞬間。


 ガブッ!!


「ふにゃあああああっ!?」


挿絵(By みてみん)


 宝箱がユナの上半身を丸呑みにした。


「にゃっ!?」


「にゃあああああっ!?」


 箱が動く。


 牙が生えている。


 長い舌が何本も飛び出した。


 腕。


 腰。


 脚。


 尻尾。


 全身へ巻き付く。


「た、助けるにゃーーー!!」


 ユナが暴れる。


 だが抜け出せない。


 完全に拘束されていた。


「ミミックね」


 クロエがため息を吐く。


「そんなあからさまな罠に引っ掛かるのやめなさい」


「こんなの初めてにゃ!」


「明らかに不自然って分かるでしょ」


 半泣きのユナを見ながらクロエは拳銃を抜く。


 パンッ!


 パンッ!


 パンッ!


挿絵(By みてみん)


 正確無比な射撃。


 舌が次々と撃ち抜かれる。


 さらに。


 パンッ!!


 上顎。


 パンッ!!


 下顎。


 ミミックの口が強制的に開いた。


「今よ!」


「にゃああああっ!!」


 ユナが飛び出す。


 そのまま。


 一直線にクロエへ抱き付いた。


「怖かったにゃああああっ!」


「はいはい」


挿絵(By みてみん)


 クロエが抱き留める。


 銀色の髪を優しく撫でる。


「もう大丈夫よ」


「本当に?」


「本当」


「食べられてない?」


「食べられてないわ」


「良かったにゃ……」


 ユナは涙目だった。


 クロエは苦笑する。


 そして。


 愛おしそうに頭を撫でた。


 その光景を見ていたジンが呟く。


「良いなぁ」


「?」


「ユナさんはクロエさんに愛されているんですね」


 ユナが得意気に胸を張る。


「当然にゃ」


 クロエは少し照れながら答えた。


「ユナは私の命の恩人だから」


「特別なのよ」


挿絵(By みてみん)


 そう言って。


 もう一度頭を撫でる。


 ユナは幸せそうに目を細めた。


「ふふ」


 ジンが微笑む。


 そして。


 少し寂しそうに言った。


「僕もクロエさんを助けたらユナさんみたいに撫でてくれますか?」


「は?」


 クロエが固まる。


 ジンは慌てて手を振る。


「あっ!」


「いや!」


「そういう意味じゃなくて!」


「でもクロエさん強いですし」


「僕の助けなんか要らないか」


 勝手に落ち込む。


 勝手に納得する。


 本当に忙しい男だった。


 しかし次の瞬間。


 何かを思い付いたように顔を上げる。


「あっ」


「そうだ」


 黒い瞳がクロエを見る。


 穏やかで。


 優しくて。


 それでいて不思議なほど真剣だった。


「もしクロエさんが助けが必要になったら」


「?」


「一言言って下さい」


 ジンは笑う。


「助けてって」


「そう言ってくれれば」


 そして。


 当たり前のように続けた。


「何処にいても僕が助けに行きます」


 クロエは息を呑む。


 黄金の瞳が映すのは。


 燃え盛る恒星のような魂。


 底知れない力。


 人間離れした存在。


(この男なら……)


 背筋に寒気が走る。


(本当に来そうね)


 世界の果てでも。


 異界の果てでも。


 地獄の底でも。


 この男は必ず現れる。


 そんな確信があった。


 クロエは視線を逸らした。


「はっ」


「そんな日来ないと思うけど」


 そして。


 少しだけ口元を緩める。


「一応覚えておいてあげる」


挿絵(By みてみん)


 ジンは嬉しそうに笑った。


「はい」


 その笑顔を見ながら。


 クロエは改めて思う。


(やっぱり変な男ね)


 だが。


 なぜだろう。


 少しだけ。


 嫌ではなかった。


――続く。

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