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魂と鋼の魔女  作者: カミサマ
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第7話 夜行列車

第7話 夜行列車


 夜のセントラル駅は、淡い魔力灯に照らされていた。


 巨大な魔導列車が、静かに蒸気のような魔力を噴き出している。


 車体へ刻まれた魔術回路が淡く発光し、低い駆動音が夜のホームへ響いていた。


 クロエはフードを深く被り、人混みの中へ紛れて歩く。


 既に、公爵令嬢の姿ではない。


 黒いパーカー。


 動きやすい革装備。


 軽装のブーツ。


 どこにでも居る旅人のような格好だった。


 もっとも。


 黄金色の瞳だけは、フードの奥でも異様な存在感を放っている。


(……流石に遠いわね)


 クロエは購入した路線図を眺める。


 目的地は、東の果ての港町――イステリア。


 だが、そこまで魔導列車だけで辿り着ける訳ではない。


 途中で何度も乗り換えが必要になる。


 さらに、辺境地帯へ入れば馬車や騎馬移動も必要だ。


 到着まで、一ヶ月以上。


 王都育ちの貴族からすれば、気が遠くなる距離だった。


 だが。


(そのくらい離れた方が都合が良い)


挿絵(By みてみん)


 教会。


 王家。


 貴族社会。


 全部から距離を取れる。


 クロエは静かに列車へ乗り込んだ。


 最初の目的地は、中継都市ロレント。


 王国東部最大級の商業都市の一つだ。



 ガタン――。


 列車がゆっくり動き始める。


 窓の外で、王都の灯りが少しずつ遠ざかっていった。


 クロエは窓際の席へ腰を下ろす。


 車内は静かだった。


 深夜便という事もあり、乗客の多くは眠っている。


 商人らしき男。


 旅装の冒険者。


 老夫婦。


 学生。


 様々な人間が、それぞれの目的地へ向かっていた。


 向かいの席では、小さな子供が母親へ寄り添うように眠っていた。


 クロエは、その光景から静かに視線を逸らす。


 少なくとも。


 こういう人間を巻き込む生き方だけは、したくなかった。


 その時だった。


 クロエの影が微かに揺れる。


『報告』


 魂越しに声が響いた。


 スケルトン諜報部隊。


 魂でリンクしたアンデッド兵達だ。


『武装集団確認』


『対象、七名』


『列車内へ潜伏済み』


 クロエは静かに目を閉じた。


 やはり来たか。


『識別完了』


『依頼主、ガルド・フォン・アルゼイン侯爵』


 クロエは小さく鼻で笑う。


 学園で殺した男子生徒。


 その親という訳だ。


(随分と仕事が早い事)


 もっとも、貴族なら珍しくもない。


 表向きは事故。


 だが、感情は別だ。


 しかも、クロエは闇属性。


 元々嫌われていた。


 裏で暗殺者を雇う程度、不思議でも何でもない。


『指示を』


 クロエは窓の外を眺めたまま、小さく呟く。


「排除なさい」


『了解』


 その瞬間。


 影の中へ潜んでいたスケルトン諜報部隊が動き始めた。



 列車最後尾。


「……おい」


 暗殺者の男が、小声で仲間へ話しかける。


「本当にこの列車に居るんだろうな?」


「依頼人の情報じゃそうだ」


 男達は一般客へ紛れていた。


 短剣。


 毒。


 消音魔導具。


 明らかに手慣れている。


「ガキ一人殺すだけで金貨百枚か……」


「楽な仕事だぜ」


 男達が下卑た笑みを浮かべる。


 その時だった。


 列車が巨大なトンネルへ入った。


 車窓の外が、一瞬で闇に染まる。


 車内灯が僅かに明滅した。


 そして。


 ――ビュンッ。


 小さな風切り音。


「……?」


 一人の男が眉を顰める。


「おい、今何か――」


 次の瞬間。


 男の眉間へ、小さな穴が開いた。


「ぁ……?」


 崩れ落ちる。


 血が飛び散る暇すら無い。


 そして。


 死体が床へ倒れるより早く、黒い闇が男を飲み込んだ。


 影収納。


 死体は一瞬で消失する。


「なっ……!?」


「お、おい!?」


 残った暗殺者達が顔色を変える。


「どこ行った!?」


「消えた!?」


 だが。


 答える声は無い。


 トンネル内は暗い。


 車内灯も不安定だ。


 その闇の中で。


 青白い鬼火が、静かに揺れていた。


 スケルトン諜報部隊。


 黒装束。


 サプレッサー付き自動拳銃。


 音もなく、闇へ紛れる暗殺兵。


 骨だけの指が静かに引き金を引く。


 ――ビュンッ。


「ぐっ!?」


挿絵(By みてみん)


 今度は別の男の喉へ穴が開く。


 崩れる。


 そして。


 再び闇へ消える。


「な、何だコイツら!?」


「魔物かよ!?」


 暗殺者達が完全に混乱する。


 だが、逃げ場は無い。


 列車は走行中。


 そして。


 闇の中では、スケルトン諜報部隊の方が圧倒的に有利だった。


 音もなく。


 一人、また一人と消えていく。


 悲鳴すら上がらない。


 ただ、仲間だけが消えていく。


「ひっ……!」


 最後の一人が腰を抜かした。


「ま、待っ――」


 その瞬間。


 背後の闇から、白骨の腕が伸びた。


 口を塞ぐ。


 そして。


 銃口が後頭部へ押し当てられた。


 ――ビュンッ。


 小さな音。


 男の身体が崩れ落ちる。


 そして。


 闇が全てを飲み込んだ。


 車内には、何も残らない。


 血痕すら。



『排除完了』


 魂越しに報告が届く。


 クロエは窓の外を眺めたまま、小さく息を吐いた。


「……そう」


挿絵(By みてみん)


 特に感慨は無い。


 暗殺者なら、返り討ちにされる覚悟くらいしているだろう。


 それだけの話だ。


 クロエは静かに窓へ視線を向ける。


 トンネルを抜けた先。


 夜空には、無数の星が広がっていた。


 列車は東へ進む。


 王都から遠ざかるように。


 クロエ・ハートフィリアという存在が、少しずつ過去になっていくように。


 だが。


 クロエはまだ知らない。


 この逃亡が。


 やがて王国全体を揺るがす災厄の始まりになる事を。

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