第67話 黒岩ダンジョン
第67話 黒岩ダンジョン
翌日。
クロエ、ユナ、そしてジンの三人は黒岩ダンジョンへ向かっていた。
街道を外れ、森の中を進む。
木漏れ日が差し込み、鳥の囀りが聞こえる穏やかな道だった。
「こうやって誰かとパーティーを組んでダンジョン攻略するのって楽しいですよね」
不意にジンが言った。
その表情はどこか嬉しそうだった。
「そう?」
クロエが首を傾げる。
「はい」
ジンは照れ臭そうに笑う。
「僕、人見知りなので」
「人見知り?」
「はい」
周囲を震撼させるSランク冒険者とは思えない発言だった。
「中々パーティーを組んでくれる人がいなくて」
「それは人見知りだからじゃなくて、強すぎるからじゃないかにゃ?」
ユナが呆れたように言う。
「あはは……そうなんですかね」
ジンは困ったように頭を掻いた。
そして次の瞬間。
「クロエさんとユナさんは付き合い長いんですか?」
「どこで知り合ったんです?」
「どこに住んでいるんですか?」
「家族みたいな感じなんですか?」
「いつも一緒なんですか?」
質問が飛んでくる。
しかも止まらない。
「ちょっと待ちなさい」
クロエが思わず突っ込んだ。
「質問多くない?」
「あっ、すみません」
ジンは慌てて頭を下げた。
「僕、人と話す機会があまり無いので……」
「独り言みたいなものです」
「それはそれでどうなのよ」
クロエは呆れた。
だが同時に考える。
(変な人ね……)
圧倒的な魂。
Sランク冒険者。
異常な強者。
なのに性格は妙に普通だった。
いや。
普通過ぎると言うべきか。
(余計に分からないわね)
まるで怪物が人間の真似をしているかの様な違和感。
クロエは警戒を解かなかった。
この男がもし迷いの森や鉱山の調査依頼を受ければ面倒なことになる。
まずは観察。
徹底的に観察する。
その方針で決めた。
⸻
一時間後。
巨大な洞窟の入口が見えてきた。
黒岩ダンジョン。
ドワーフ族がかつて開発していた鉱山跡である。
しかし数十年前。
アースドラゴンの出現によって放棄された。
以後は魔物の巣窟となり、ダンジョン化したと言われている。
「ここです」
ジンが洞窟を見上げる。
「黒岩ダンジョン」
「詳しいのね」
クロエが言う。
「有名ですから」
ジンは頷いた。
「爆炎石っていう特殊な鉱石が採れるんです」
「爆炎石?」
「衝撃を加えると爆発する黒い鉱石です」
クロエの目が少し輝く。
危険物。
火薬。
爆発。
好きな単語だった。
「ドワーフ族はそれを採掘していたんですが、アースドラゴンが住み着いて鉱山を放棄したみたいですね」
ジンは自然に説明する。
「その証拠に――」
洞窟の奥を見た。
「ドワーフ族が残したゴーレム防衛システムが今も稼働しています」
「見えるの?」
ユナが首を傾げた。
「はい」
ジンは当たり前のように答える。
「三百メートル先に二体」
「右の通路に四体」
「地下に大型が一体います」
「……」
「……」
クロエとユナは無言になった。
(何で分かるのよ)
クロエは内心で突っ込んだ。
⸻
ダンジョン内部。
薄暗い坑道が奥へ続いている。
すると。
ガサガサッ!
通路脇からデビルラットが飛び出した。
体長一メートルを超える巨大ネズミ。
鋭い牙を剥きながら襲い掛かる。
「ユナ」
「任せるにゃ!」
ユナが背負っていたミニガンを構える。
魔石が輝く。
次の瞬間。
ダダダダダダダダダダダッ!!
轟音が響いた。
弾幕が坑道を埋め尽くす。
デビルラット達は悲鳴を上げる暇もなく吹き飛んだ。
肉片が散る。
岩壁が削れる。
数秒後には何も残っていなかった。
「……凄いですね」
ジンが素直に感心する。
ミニガンを興味深そうに見つめた。
「面白い武器ですね」
「でしょ?」
クロエは得意気だった。
「へぇ……」
ジンは呟く。
「この世界にも銃ってあったんだ」
「え?」
クロエが反応する。
だが。
「何でもありません」
ジンは笑った。
(この世界にも?)
その言葉だけが妙に引っ掛かった。
⸻
さらに奥へ進む。
ゴブリンの群れ。
スケルトン。
ゴーレム。
次々と現れる。
だが。
クロエは戦わなかった。
ひたすら観察する。
そして気付く。
ジンは時折何もない場所へ右手を向けていた。
まるで何かを握り潰すように。
その度に。
遠くから、
グシャッ
という音が聞こえる。
「……?」
クロエは違和感を覚えた。
そして数分後。
その理由を知る。
曲がり角の先。
そこには潰れたゴブリンの死体が転がっていた。
骨ごと圧縮されたような無惨な姿。
「これは……」
クロエの瞳が細くなる。
周囲に戦闘の痕跡は無い。
つまり。
遠距離から殺された。
(魔術……?)
ジンを見る。
本人は何事も無かったかのように歩いている。
穏やかな笑顔のまま。
(やっぱり異常だわ)
クロエは確信した。
この男。
想像以上に危険だった。
⸻
それから数時間後。
三人はダンジョン深部へ到達していた。
普通の冒険者なら数日掛かる距離だった。
その時だった。
ジンが足を止める。
「どうしたの?」
クロエが尋ねる。
ジンは坑道の奥を見つめていた。
「この先です」
「何があるの?」
ジンは少しだけ真面目な表情になった。
「大きな反応があります」
「大きな反応?」
「はい」
そして。
黒い瞳が暗闇を見据える。
「今までとは比べ物にならないくらい大きな反応です」
空気が変わった。
クロエも感じる。
地下深くから漂う重圧。
何かがいる。
巨大な何かが。
ジンは静かに呟いた。
「どうやら、このダンジョンの主みたいですね」
その言葉と同時に。
遥か奥の暗闇から。
重々しい振動が響いてきた。
ゴォン……。
ゴォン……。
まるで巨大な何かが歩いているような音だった。
クロエは黄金の瞳を細める。
そして。
静かに笑った。
(少しは楽しめそうじゃない)
黒岩ダンジョン最深部。
そこで待ち受ける存在をまだ誰も知らない。
――続く。




